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第1話 子供たちの旅立ち

 勇者、というものを知っていますか?

 それは恐怖を圧して立ち向かっていく者。

 怖い、という気持ちを乗り越える術を持つ者のこと。

 私はそう思うんです。

 山奥の少しばかり大きなお家……一人で住むには大きすぎるほどに広い家。

 そこで私は勇者を育てるために教師をやっている。

 この世界、魔物が多すぎるんですよね。

 魔王、というのも数えきれないほど居ました。

 そのせいか一時期は暗黒に包まれ、人々が希望を失うほどに打ちひしがれていたこともあったわけです。

 まぁ、それはひと際強大な魔王の中の魔王とも呼べる、魔王の頂点に立つ者が封印されたおかげで終わった遥か昔の話なわけなのですが……


「よいですか?レンくん、ランちゃん?困ってる人を見かけたら見捨ててはいけません。どうしたのですか?と声を掛けてあげるのですよ?」


「は~い、先生!」


「うん、わかった~……でも、困ってるかどうかきづくかなぁ、通り過ぎちゃいそう……」


「ふふ、それくらいは見れば分かりますよ」


 私の元で学ぶ幼い子たち……レインディスとランフィールド、レンくんとランちゃんに声を掛ける。

 この子たちが次代の勇者となるのです。

 確かに魔王の脅威は遥か昔に払拭されました。

 しかし、だからこそ私たちはそれを教訓として次に同じことが起こっても対処が出来るようにしなければならない。

 そのための教育。

 そのための暮らし。

 それが私、勇者の教師たるレイフォルトの役目なのですから。

 二人とも、頑張るのですよ?


「とりゃ~っ、これはどうっ!先生っ!」


「わぁ、力強い。ですが、力み過ぎですよレンくん」


「わわっ」


「どきなさい、レンっ!ウィンド・アロー!」


「うぅん、ランちゃんは魔法の名前を叫ばなくても発動できるようにしましょうね?」


 ある時は二人に戦闘技術を教え……


「よいですか?私たちが暮らすこの世界は幾つかの国で成り立っています。そして、その国には明確な身分というものがあって一番上はもちろん国を治める王様ですね。その下にその王様を支える貴族たちが居て、更に下に平民と続くわけです」


 黒板に分かりやすく王様、貴族、平民と上から順に図式で表していく。

 すると不思議そうに見るのが私が教えている小さな男の子のレンくんでした。


「先生はどれなの~?」


「うん?先生ですか?そうですね~、位置的にはやはり平民、でしょうか?」


「??そうなの~?でも、あれ?王様が国をおさめて貴族がそんな王様を支えて、街に暮らす平民を貴族がまとめるんだよね? なら、街に居なくて、国にも何もしてない先生はどれでもないんじゃ?」


「ん……ほう、考えの上ではそうかもしれませんね」


 ある時は二人に慰安常識について教えていく。

 このように子供たちから私が気付かされるようなことがあるのも先生と言うものの醍醐味ですね。


「はぁ、なにいみのわからないことを気にしてるのよ、相変わらず馬鹿ねレンって」


「ええ、どうでもよくないよ~。そういうランだって、本当はよくわかってないだけだろ~」


「むっ、わかってるわよっ!きょうみがないだけよっ!馬鹿レンっ」


「あはは、こらこら喧嘩をしてはいけませんよ」


「「ふんっ」」


 ふふ、喧嘩をするのも微笑ましいものです。

 二人いるとよくこういうことがありますからね。

 私が間に入って止めることがよくありました。

 それを繰り返すこと十年。

 講義、演習、模擬戦……それらを生活の中で当たり前のようにこなし、一緒の家で協力していくことを学んでいく。

 振り返ってみれば一瞬のことのようでもありましたが……それは間違いなく私にとってかけがえのない思い出の日々。

 二人が今日、卒業する。


「よく頑張りましたね、二人とも。私に教えられることはこの十年でほとんど教えました。あとは自分たちの足で世界を旅して学ぶのが良いでしょう」


「せ、先生……僕、僕、その」


「ふふ、よいのですよ。今は泣いてもまったく恥ずかしくありません。頑張ってくださいね、レンくん」


「うんっ、僕っ、先生に昔約束した通りっ!皆を助けられる立派な勇者にっ、なるからっ!」


「はい、期待していますよ」


 レンくんの首に卒業の証を掛けていく。

 それから軽く頭を撫でて、別れを惜しむように手を握って……


「先生っ!わたし……わたしっ!先生のこと、大好きだったっ!」


「おやっ、はは、私もですよ。ランちゃん、私の元を旅立ってもずっと二人のことを思っていますからね」


 堪え切れずに私の元に飛び込んでいたランちゃんをもう片方の手であやして……その首にもレンくんと同じように卒業の証を掛けてあげる。

 感慨深い……ですが、少し寂しくもありますね。

 二人が、私の元から巣立っていくのですから……

 最後に二人の身体をギュウッと抱き締めて、それから離れる。

 別れの時……最後なのですから格好よく決めないといけませんからね。


「コホン……さあ、行きなさい。二人はもう立派に成長を遂げました。きっとどんな困難でも乗り越えていけることでしょう。私の元で学んだ力で、人を助けるのもいいでしょう、自分のために魔物を倒して生活の糧とするのもいいでしょう。全てはもうあなたたち次第です」


「……ぅ、はいっ!」


「わたしもっ、わたしも頑張るからっ!レンにだって負けないわっ」


「頼もしいですね。二人、力を合わせて頑張るのですよ?」


「「はいっ!」」


 そして、背を向けて歩き出していく。

 この十年、暮らしてきたこの家を出ていくのを見守る。

 これで、私の教えは……終わりです。


「二人とも……ちゃんとやっていければよいのですけど」


 ドクン、と心臓の鼓動がやけに大きく聞こえるのを感じる。

 心配で心配で、もう涙が出そうなほどに胸が苦しくなってくる。

 二人が完全に見えなくなるまで見届けてから、家に戻る。

 さて、私の方も準備をしないと……




 


 山奥にあるレイフォルトの家。

 そこから少し進んだ山中にレインディスとランフィールドの姿があった。

 

「今日はこの辺で野営にしよっか?」


「そうね、夜の山道は危険だって先生も言ってたもの。薪でも拾ってきましょ」


「あ、僕も」


 その場に荷物を放り出して、野営をするために薪を拾いに行く。

 慣れていないことが丸わかり、頼りない姿。

 それに小さく息を洩らして、少し離れた木の影でレイフォルトが頭を抱えていた。


「あぁ……二人とも。荷物を放り出してその場から離れてはいけませんよ」 


 少し前、盛大に卒業式などやった割にレイフォルトは二人の後ろを付いて来ていた。


「はぁ……やはり、私が見守っていないと」


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