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拝啓クソッタレの世界様  作者: 悲しい人
第1章
7/8

初めての友達

 俺は呆然と話を聞いていた。咲の口から語られた話の全てが想像の範疇を超えていて、どお声をかけたらいいかわからなかったからだ。

 

「つ、つまり」

 やっとの思いで俺は声を発する。

 そんな俺を見ながら咲は小さく頷いた。

「そう、私が死ぬ理由は、自分の臓器を妹にあげるためなの」

 

 俺はゆっくり目をつむり、顔に手を当てた。

 正直、聞かなければ良かったと思った。

 

 だってそうだろ!、俺はただの高校生で、こいつみたいに壮絶な生い立ちもない。そんな普通の人間が、こんな話を聞いたところでどうすることもできないんだ!

 

 ここで、よくある漫画やアニメみたいに、"そんなことをしても君の妹は、きっと喜ばない!"なんて、俺には到底言えない。

 こいつの決意は俺の言葉ひとつで揺らぐようなものじゃないし、そもそもこれはこいつの問題だ、他人の俺が踏み込んでいい領域をはるかに超えてしまっている。

 

 そんな情けない言葉が頭の中をぐるぐるわまり続け、挙句の果てにでた言葉は

「そうか......」

 これ、たった一言だった。

 

 そんな俺の様子を見て、咲は俺に言葉をかけてくる。

「本当ならあんたと最初に出会った日、私はあの日死んでいた。

 けど私は、あんたと偶然に助けられ、生き残ってしまった。

 目覚めた時、私は絶望したわ、ああ、なんで私は生きているのだろうって。けどね、文句を言いに行こうとあんたの部屋に行った時、あんた、部屋で大いびきをかいててね、全身包帯だらけで見るからに悲惨な大怪我なのに、馬鹿みたいにいびきをかくあんたを見てたら、何だか笑えて来て、まあ、最後にこいつの面倒を見てから死ぬのでもいいかと思えたの」

 

 そこで咲は少しだけ言葉をくぎり、突然俺の手を、大切なものでも守るように、両手で包んだ。

 俺は突然のことで少し戸惑ったが、その手を抵抗せずに受け入れた。

 その様子を見た咲はまた話し始める。

 

「あんたと過ごしたこの一ヶ月は悔しいけど、凄く楽しかった。

 あんたと喧嘩するのも、馬鹿な話するのも、バカ騒ぎして看護婦さんに怒られるのも、虐めのせいで、ぜんぜん友達がいなかった私には新鮮で、初めて友達と呼べる人ができたと思った。

 この一ヶ月で、私の苦しかった十数年間を取り戻せた気さえした」

「咲......」

 そして咲は俺の手を握りしめ、笑顔でこう言った。

「私の人生は報われた、だからもう満足、なんの心残りも無いわ」

 

 死ぬ

 言葉にするのは簡単だが、実際に行動をおこせるやつは多分少ない。死への恐怖と言うやつは、そう簡単に消せるものではないからだ。

 ましてや、誰かのために死ぬなんて、そうそうできることではない。

 

 だけど、咲の言葉に迷いは無かった。

 むしろ、一種の清々しささえ感じる。

 

「後悔はないんですか」

 俺は咲の目を真っ直ぐ見た。

 なんの迷いもない真っ直ぐな目を。

「無いわけじゃないよ、友達とゲームをしたり、サッカーしたり、お泊まり会したり、そんな普通の友達みたいなことはしてみたかった。

 でもね、もおいいの。

 私は十分幸せなんだって気づけたから」

 

 "なにが幸せなものか!"

 

 俺は思わずそう叫びそうになった。

 虐められ、友達もできず、あまつさえ自分が死ぬ以外の選択肢を奪われる人生など、なにが幸せなものかと。

 けど違うのだ。

 幸せの基準なんて人によって違う。

 友達ができた、それだけで彼女にとってはじゅうぶんに幸せなのだろう。

 

 だけど、それでは、あまりにも、あまりのも......

「可哀想だとか思わないでよね」

 咲の言葉に俺ははっとする。

「私は妹のために死ぬけど、それは自分のためでもあるの、それを誰かに可哀想とか不憫だとか思われたくない」

 

 強いな

 俺は咲の言葉を聞いてそう思った。

 本当なら、泣き叫んでもおかしくないような状況で、凛として、俺の目を見すえている。

 

「これが私のぜんぶ、付け加えるなら、私がお見舞いに来る時間がバラバラだったのは、妹の入院を理由にずっと学校を休んでたから、時間が自由に使えただけ」

 

 咲の事実の重さに俺はどうすれば良いのかわからなくなっていた。

 そして結局俺は、最後まで咲にどう声をかければいいかわからなかった。


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