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拝啓クソッタレの世界様  作者: 悲しい人
第1章
6/8

真実

「私は死ぬ、死ななくちゃいけないの」

 その言葉を聞いた時、俺はなんとなくあの屋上での出来事を思い出した。

 屋上の手すりの向こうに立つ咲の姿、あの時は後ろからしか咲の姿は見えなかったが、たぶん、こんな表情をしていたのだろう。

 

 俺を見つめる咲の表情は、悲しみとか苦しみとか、そんなもん全部押さえ込んで、何かを決意した人間の目だった。

 

 ああ、本気だ。

 咲は本気で死ぬきなんだ。

 俺は心の中でそう呟いた。

 

 咲は俺をしばらく見つめると、

「少し長くなるわよ」

 そう言って俺に全てを語りだした。

 

 いつからだったかはわからない、なぜそうなっていたのかは見当もつかない。だけど、私は子供の頃から虐めをずっとうけていた。

 

 小学生の頃はまだ良かった、陰口や無視、物を隠される程度で、暴力を奮われることなどはなく、痣などもできず、親にバレることも無かった。

 だが、中学の二年あたりになると、影での暴力が始まった。

 テレビや漫画なんかであるような、派手なのじゃない。

 時にはコケた振りをして、時には遊びを装って、また時には私がトイレに入ったほんの一瞬を狙って。短時間で、でも効果的に私に暴力を奮っていった。

 そのせいで私の体は無駄に痣だらけになっていった。手や足にできた無数の痣は、自分で見ても痛々しい程だったと思う。

 それだけの痣ができれば父や母も黙ってはいない、私になにがあったのかと、毎日のようにとい続けるようになり、最初こそ階段から落ちたなどの言い訳でも通ったが、毎日増えていく痣に、ついに言い訳も通らなくなり、私が虐めを受けていることがバレてしまったのだ。

 

 私が虐めをうけていることを知った父母は激怒し、学校に怒鳴り込みにいった。

 先生達を呼出し、"これはどういうことだ!"なんてブチギレながら私がいかに可哀想か先生達に話していた。

 

 私は父母や先生達にただただ申し訳なくて、教室の隅っこで小さくなって座っていた。

 私のことなのに、自分ではどうにもできなくて、それがとても情けなかった。

 

 それからすぐ、私は学校に行かなくなった。

 父があんな所に行く必要は無いと、私に言ったからだ。

 朝おきて、勉強を昼までして、それからは自由という生活を、中学卒業までずっと続けた。

 何度か先生が家に来て、私を学校に来させようとしたが、父が門前払いをしていたのを覚えている。

 

 そんなこんなで、私は勉強のすえ、何とか高校に入学できた。一時は高校進学を諦めようとした時期もあったけど、父や母から後押しされ高校にだけは行けと言われ、頑張って勉強をし、何とか入ることが出来たのだ。

 

 入学した学校にも同じ中学のやつがいたせいで、私は学校であまり話しかけられない人間ではあったが、別に虐めと言う程ではなく、私の高校生活は中学に比べれば圧倒的に順風満帆だったのだ。

 

 だけど、そんな生活はいつまでもは続かなかった。

 

 ある日、私が授業を受けていると、先生が教室に駆け込んできた。

「妹さんが何者かに刺された!」

 

 私には今年中三になる一つ違いの妹がいる。それが何者かに刺されたと言うのだ。

 私は急いで病院に向かって、妹と面会した。だけど、そこで見たのは、腹部を滅多刺しにされてぐちゃぐちゃになった妹だった。

 

 体からは無数のチューブが伸びていて、医者の先生の話では一命は取り留めたが、今後どうなるかはわからないとの事だった。

 

 犯人はすぐに捕まった。

 そいつはいつも私を虐めていた奴らの主犯格だった。

 私への虐めがバレたせいで高校にも行けず、自暴自棄になったのと、逆恨みが重なり、私の妹をつけ、犯行に及んだらしい。

 

 それからの数日はあまり記憶が無い、病院の先生の話を呆然と聞いたり、妹のお見舞いに行ったりしていたのは少しだけ覚えてる程度だ。

 

 だが、そんな私を引き戻してくれのは病院の先生の一言だった。

「娘さんを助ける方法があります」

 父にそう話しかける病院の先生の話を聞いた瞬間、私の意識は現実に引き戻されたのだ。

 

 病院の先生の言うには、妹の体が危ない状態にある大きな理由のひとつが、臓器の損傷にあるらしい。

 腹部を十数箇所にわたって刺された妹の臓器は、多数が機能不全におちいり、機械につながっていなければ、一日、機械があっても一年で死亡してしまうらしい。だが、その機能不全におちいってる臓器を全て移植できれば妹は助かる。

 

 それをきいて父は"不可能だ!"と叫んでいた。当たり前だ、ひとつの臓器を移植するのも、ドナーが出てくるまで何年もまつなんてよくある話なのだ。それが、多数の臓器を提供してもらえるようになるには、いつになるのか見当もつかない。

 

 それを病院の先生も充分理解しているようで、"手続きはしますが、あまり期待しないで置いてください"と言っていた。

 

 ああ、そうか。

 私はこの瞬間理解した。

 私はこの時のために生きていたのだと。

 

 その日、私は妹の病室にいき、

「大丈夫よ、お姉ちゃんの命をあげるから」

 と言って、病室を去った。

 

 

 

 

 

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