自分への死の宣告
今日も病室には大声が響く。
「だぁぁあ!
てめえ丸出し女! いい加減にしろよ!」
「なによ、ちょっと松葉杖を蹴っただけじゃない! いちいち細かいのよあんたわ!」
「片腕片足骨折してる人間のついてる松葉杖を蹴るか普通!
おかげでもう二三箇所骨折しかけたわ!」
俺が学校の屋上から落ちて一ヶ月程がたった。
咲の身代わりでおった傷も少しづつ回復に向かい、今では松葉杖をつけば歩ける程に回復している。
だが俺はまだ松葉杖と言う物に慣れず、病室で練習していたのだが、なぜか咲は病室に来るなり、松葉杖にダイレクトキックをかまして来やがった。
おかげで俺は見事にずっこけ、顔面を殴打する羽目になったのだが、またしてもこいつは悪びれる素振りも無い。
人をこれだけ派手に転倒させといて詫びのひとつも無いとか、さすがにそろそろキレていいよね、いいよね!
MGG、まじでガチギレ五秒前だよ俺?!
俺がそんな感じでガチギレオーラを出していると、さすがにやりすぎたと思ったのか咲は、
「悪かったわよ、だからそんな怒った目しないで」
と言ってくる。
俺が転倒している関係から、咲が俺を見下すような体制での謝罪だったのだが、それを差し引いてもかなり態度のでかい謝罪だった。
"ふざけるなよ、そんな態度で許せると思ってるのか!"俺はそう叫ぼうとするのだが......
「ねえねえ、それよりさ、あんたいつ退院するのよ?」
くそ、話を逸らされた。
こいつは自分の話をしだすと、別の話を使用としてもまったく聞く耳を持たない。そのせいで、いくら注意しても今は馬の耳に念仏、まったく効果がない。
自分の都合のいいこと以外はシャットアウトとか、本当に便利な耳だなちくしょう!
だがどれだけ心の中で罵ろうと、何かが変わる訳でもないか、と早々に諦めをつけ、俺は咲のほうを見た。
「十二月二十四日だよ、てか起こせばか」
「ふーん、クリスマスイブね」
咲はそう言うと俺に手を差しのべる。
俺はその手を掴み、体を起こす。
「どおせならもお一日入院させて貰えないかなー」
「なんでよ、クリスマスを病室で過ごすより、かの、家族と過ごすほうが楽しいでしょ?」
「俺は一人暮らしで、家族と暮らして無いから一人でクリスマスとか悲しい現象がおこるの!
てか今、彼女って言おうとしてやめたよな! 俺には彼女がいない前提か!」
「気のせいよ、私はあんたを、彼女いない歴イコール年齢のくそ陰キャ童貞なんて思って無いわ」
「そんなこと思ってやがったのか、この丸出し女!」
「丸出し女言うな! ならなに? あんたにはクリスマスを一緒に過ごしてくれるような、心優しい彼女が、一度でもいた事があるの?」
「ぐっ、ああ確かにいないね、いたことも無い! だがな、それはお前も一緒だろ! おまえみたいな性悪女を彼女にしてくれる心優しい好青年が俺はいるようには思えねぇけどなぁ!」
「うっ、上等よ、表に出なさい、ボコボコにして、あんたに私が怒ると怖いって所を教えこんであげるわ!」
「上等だこら、返り討ちにしてやるぜ!」
俺達が激しく言い合いを始めると、病室の扉が"バン!"と開いた。
「あなた達!いい加減静かにしないと病室からほっぽり出しますよ!」
そこには仁王立ちした鬼の形相の看護師さんが立っていた。
俺達は即座に
「すみませんでしたァア!」
と全力で謝罪した。
看護師さんは俺たちをひと睨みすると、扉を閉め去って行ったが、俺達はその場から少しの間動けなかった。
怖かったぁぁぁあ!ちびるかと思った。あの人、殺気みたいなの出てたよ!、自殺に巻き込まれたときより死を身近に感じるってどゆこと?![#「?!」は縦中横]
俺はあまりの恐怖に二度とこの部屋で騒がない事を誓っていると隣でも
「まじ怖かった......」
と、顔面蒼白で咲がへたりこんでいた。
その日俺と咲は手と手を合わせ、もう二度とこの部屋で騒がない事を固く誓った。
そして、俺と咲は少し落ち着いてベッドと椅子に戻った。
「えっと、なんの話しだっけ」
「名無しの退院日の話しよ、クリスマスイブの」
「ああ、そうだった」
咲に馬鹿にされたのと、鬼のような看護師さんのせいですっかり忘れていた。
「それで、俺の退院日がどうしたんだよ、まさかお迎えにでも来てくれるのか?」
「馬鹿なの?私がそんなことする訳ないでしょ、私があんたの見舞いに来てるのはあくまで巻き込んだお詫び、退院日まで付き合うギリは無いわ。」
「さいですか、真っ向から言われるとなかなか傷つくな」
「知らないわよ」
咲はそう言うとまたそっぽを向いた。
「退院して、年が明けて、そしてまた学校が始まる」
咲は一言一言噛み締めるように言葉を紡ぐ。その表情は少し悲しげで、何かを諦めてる様でもあり、何かを決意してるようにも見えた。
「退院したらあんた、私と関わるのはやめなさい」
咲のその言葉は、いつものふざけた雰囲気なんて、欠片も感じさせない強い意思をを秘めているように思えた。
「なんでか聞いてもいいか?」
俺は咲に質問する。あくまで質問だ、嫌なら答えなくてもいいというニュアンスをこめてある。
俺は咲を助けたいと思っている。
だけどまた、俺は咲が助けなど求めてないことを知っているからだ。
それでも知りたいから聞いちまうのが、俺の悪い所だがな。
俺の質問に咲は少しだけ目を閉じ、そして言った。
「私は死ぬ、死ななくちゃいけないの」