悪夢とか不登校とか
子供の頃からなんにでも興味があった。
空はなぜ青いのか、鳥はなぜ飛べるのか、海はなぜ広いのか。
どんな事にも興味をもって、どんな事でも追求した。
自分の万能感に身をまかせ、色々な事を調べて、調べて、調べて......
でも、多分それがダメだった......
俺は七歳にして、虐めにあった。
きっかけはわからない。けど、なんにでも興味があった自分と、目の前の物を追いかけるのに夢中だった彼らとでは、致命的に歯車がズレていたのだろう。
虐めと言っても小学生のすることだ、高校生の虐めに比べれば全然可愛いものだったと思う、だけど、まだ小さかった俺という人間が、ショックをうけるのには充分なできごとだった。
今まで普通に話していた人達から無視され、クラスのあちこちで陰口を叩かれる。
キラキラと綺麗だった世界が、急に色を落とした気がした。
今でも目を閉じれば聞こえてくる
『おまえなんか✖✖✖✖』
「は?!」
俺は何かに駆られるように飛び起きた。
「ハァハァハァ」
動悸が激しい、息が苦しい、目まいがする。
俺はしばらく胸を抑えながら落ち着くまで深呼吸を繰り返した。
そうして三十秒ほどたち、ようやく体が一定の落ち着きをみせはじめた。
だが少し頭がガンガンする。
「嫌な夢をみたな......」
俺は"はぁー"と深いため息をついた。
昔の事を思い出すなんて、最近は無かっただけにかなりこたえる......
最近は毎日あのバカが病室に来ていてこんな事を思い出す暇も無かったからな。
俺は少しだけ身を捩り窓を見る。
なんだまだ夜か、たっく、災厄の目覚めだな
窓の外はまだ暗く、明かりと言えば窓から見える歩道に申し訳程度に立てられている、しょぼい街灯ぐらいのものだった。
「たっく、勘弁してくれよ......」
俺は重いまぶたをこすりながら、また布団に入る。
俺はそのまま目を閉じまた眠りにつこうとしたが、さっきの夢が頭をよぎりなかなか眠りにつくことができない。
結局その日は全く寝ることができなかった。
次の日の朝。
「どうしたのあんた、ひどい顔よ」
「少し寝不足でな......」
今日も懲りずに病室にきた咲は、俺の顔を訝しむように眺める。
「夜遅くまでやらしいことしてたんじゃないの〜」
いやいやいや、やめてくださいね、そんな事しないから!
確かに自分も男だから溜まることもあるけど、さすがに病室でするわけないだろ!
「どうだかね〜」
いやほんと、勘弁してください。
咲はしばらく俺を眺めると
「まあいいわ」
と言ってやれやれと首を降った。
助かった......
「それより今日は随分早く来たんだな、咲」
今の時間は午前七時、お見舞いに来るには少し早すぎる時間だ。
「いつもより早く目が覚めて退屈だったから来ただけよ、悪い?」
「いや、悪くないけどさぁ......」
俺は少しだけ言葉を濁すが、咲は。
「けどなに?」
と、先を促すので、俺は意を決して咲に質問してみることにした。
「お前、学校とかには行ってないのか、多分俺と同じ高校のやつだろ?」
俺は咲を真っ直ぐ見る。
咲は俺を病院送りにする原因を作った張本人だが、俺は咲を憎からず思っていた。
恋なんてものじゃない。
だけど、たった一人で病室にいる俺に毎日会いに来てくれた。
父母すら来てくれないこの病室で、それはどれだけ助けになったことか。
認めるのは癪だが、咲はこの地に来て初めての友達で、心の支えだったのだ。
だから俺は、咲が何か高校に行けない理由があるのなら、何か力になれないかと思ったのだ。
だが咲は、一瞬だけ驚いた顔をした後、顔を背け
「あんたが気にすることじゃないわよ」
と言って"それより"と話題をあからさまに変えようとした。
なるほど、話したくないってわけね、まあ、予想はしてたけどな。
俺は咲を見て
「そうか」
とだけ答えた。
俺は咲に感謝しているから、咲が助けて欲しいなら助ける、だけど、咲が望んで無いのに熱血主人公のように真っ直ぐぶつかって、助けに行くなんてことは俺にはできなかった。
その後はいつも通りに馬鹿なことをして、咲は帰っていった。
「ありがと」
咲は帰り際に後ろを向きながらそう言っていたが、それが咲きに優しくした事に関してか、詳しく詮索しなかった事に関してかはわからなかった。
だけど俺は、その一言に少しだけ救われた気がした。