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拝啓クソッタレの世界様  作者: 悲しい人
第1章
3/8

世にも奇妙な病室の日常

 俺が入院してから一週がたった。


 どうやらこの病院は学校の帰り道にあるようで、下校の時間帯になると窓の外に、はしゃぎながら帰るアホな高校生達がポツポツと見えていた。


 こんだけ学校の近くにあるのに、俺のお見舞いには誰も来てくれないんだよなぁー


 まあ、俺ほとんど友達ができる前に入院しちゃったからね、当たり前なんだけどね。

 か、悲しくなんてないもん!

 ぐすん......


 まあだが、病室で一人でこんなあほなことをしている俺にも、お見舞いに来てくれる人はいる、咲のことだ。


 咲は俺が目覚める前も、もちろん目覚めた後も、欠かさず毎日俺の病室にお見舞いに来てくれるのだ。

 まあ、咲のせいで俺はこんなめに会ってるわけだし、当たり前と言えば当たり前だけどな。

 だが、俺はそんなふうに心の中で毒づきながらも、咲のことはあまり嫌ってはいなかった。


 咲は知れば知るほど不思議なやつだ。


 毎日俺の病室に来ては、たわいも無い話をして、一時間ほどしたら帰っていく。

 その間の咲は表情豊かで、馬鹿みたいに笑ったり、ツンツンと怒ったり、ニヤニヤと見下してみたり、ほんと、見てて飽きないほどコロコロ表情を変えるのだ。

 なんでこんな奴が自殺なんてしようとしたのか、俺には不思議でならなかった。


 他にも不思議な点はある。

 咲が俺の部屋に来る時間がいつも違うのだ。

 午後五時や六時の時はまだ良い、学校が終わった後に来ているのだろうと納得できる。

 だが、何故かあいつは朝の七時や、昼の十二時に来る事すらある。

 しかも平日のだ。

 咲は不良やヤンキーと呼ばれるようなタイプのよく学校をサボルやつらとは違うように感じる。


 もかしたら、虐めとかを受けて学校に行きにくいのかとも思ったが、本人に聞くと、

 「確かに無視はされてるけど、それは私に興味が無いだけで虐めとかは無いよ?

 サボっているのは私の意思」

 との事。


 結局、何が原因で学校をサボっているのかは謎のままだ。

 てか、自分の意思でサボってるって、虐めよりダメじゃね?

 いやいや、今はそんなこと関係ない。

 とにかく、そんな変なとこばかりの咲だが、俺の寂しい入院生活に花を添えてくれてる事には違いないわけで。

 俺の入院生活において、咲との会話は一番の楽しみになっていた。

 あ、二番は病院食ね、意外と美味しいよ。


 そして今日も咲が俺の病室をたずねてきた。

 「今日もこの美少女J K 咲様がお見舞いに来てあげたわよ!

 涙を流して感涙にむせび泣きなさい」

 開口一番それか!

 全く、なんでこの女は、自分のことを美少女なんて恥ずかしげもなく言えるんだ!

 確かに美少女だけど......

 「随分自意識過剰なお見舞いもあったものだな、なんだ?

 女王様にでもなったつもりか?

 だったら安心しろ、お前は立派な性悪の女王だ」

 「相変わらず口が減らないわね、名無しのくせに」

 「うるせえよ、丸出し女」

 "ななし"咲は俺をそう呼ぶ。

 俺がいつまで経っても名前を教えないから、咲が、

 「ならあんたは今日から名無しのごんべよ!」

 などと理不尽なことをいい、名無しのごんべでは長くて言いにくので、名無しとして、自然と定着してしまった。


 いや本当は名前ぐらい教えても良いんだけどね?

 なんて言うのかな、上から目線で"教えなさいよ"とか言われたら言いたく無くなるじゃん。

 そしたら、あっちも意地になって、結局今のような感じに落ち着いた。


 丸出し女は言わずもがなだよね。

 パンツ丸出し女は長かったけど、パンツ女はさすがに可哀想なのでこうなった。

 丸出し女だって大概な気もするけどね。


 俺がそんな妄想をしていると、

 「はいこれ、お見舞いよ」

 そう言って咲は俺にでかい玉を投げてよこした。

 受け止めた玉はずしりと重く、思わず落としそうになるのを必死でこらえた。


 「メロンよ」

 「そんなもん投げてよこすな!

 落としたら一大事だろ!

 てか、メロンの旬とはかなりズレてないか?」

 そう言うと、咲は"ふふん♪"と胸を張った。

 「そうよ、だから手に入れるの苦労したのよ?

 それに凄い高かった、感謝して食いなさいよ」


 俺は自分の手に収まるメロンをしげしげと見つめる。

 なんでメロンなんだろ?

 いや、好きだから良いけどね。

 「サンキュ、いくらだったんだ?

 払うぞ?」

 「良いのよそんなの、私が好きでやってるんだから」

 「いや、そういう訳には......」

 「い・い・の・!」

 頑として譲らない咲におれは

 「わかったよ」

と告げた。

 まったく、変な所で頑固だな......

 そうすると咲は満面の笑顔になり

 「そう、良かったわ!」

 と言った。

 可愛いな......ちくしょう......


 「♪〜♪〜」

 咲はご機嫌に鼻歌を歌いながら、メロンを俺からうけとり、備え付きの冷蔵庫に入れる。

 だが、何故かその手にはもう一つメロンぐらいの大きさの玉が入ったビニール袋がさがっていた。


 おいおい、まさか二つも買って来たんじゃないだろうな!

 「さて、じゃあ遊ぶわよ!」

 メロンをしまい終わった咲は俺に堂々と胸をはって宣言した。

 いや、そんなにない胸を必死にはられましても......

 痛い痛い、悪かったからギプスをベッドにぶつけるのはやめて!いやマジで!


 「じゃあ遊ぶわよ!」

 俺に一通り制裁を加えるとまた咲は宣言した。

 いや、今度はさすがに言わないよ?

 いくら咲の胸が慎ましやかでも制裁は痛いからね。

 あれ?またなんかこっち見てる?

 "名無しがよからぬ事を考えてる気がする"って、まさかそんな、あはは。

 咲は乾いた笑いをする俺をジト目で睨みつけるが、やがて諦めたのか、"ハァー"とため息をつき、話を続けた。

 危ない危ない


 「気を取り直して、今日はこれで遊びましょ!」

 そう言うと咲は、何食わぬ顔でビニール袋からバスケットボールを取り出した。

 「いやいやいや!

 なんで病室でバスケットボール?!」

 「何よ?

 いいでしょ別に」

 「良くねえよ!

 んなもんここで使ったら、部屋がぐちゃぐちゃになるだろうが!」

 「別にバスケをやろうって話じゃないわよ?

 キャッチボールよ、キャッチボール」


 どっちも同じだろ!

 つうかなんでバスケットボールでキャッチボールなんかするんだよ!

 最近騒ぎすぎだと隣の病室から、何度も文句を言われているのだ。

 これ以上騒いだら怒鳴られかねない。

 そんなわけで、断ろうと俺は咲の方を見るが、

 ......ああ、これはダメだ。

 って言うか、卑怯だ。

 そこには俺をキラキラとした笑顔で見る咲がいた。

 これだ、この笑顔に弱いんだ、俺は。

 いつもはムスッとしてるくせに、自分が楽しいと思うことをする時は、キラキラと眩しい笑顔になる。

 自殺なんて馬鹿なことをしようとしていたことなど、露ほども感じさせない、キラキラの笑顔。

 俺はこの笑顔の咲に逆らえない、なぜかはわからないが、この笑顔を見ると言葉が出てこなくなるのだ。

 そのせいで俺は、ここ最近毎日来る咲の、突拍子もない遊びの数々に付き合わされているのだ。


 あ〜、ここで暴れたらまた文句言われるんだろうな〜、嫌だな〜。

 うんうんと悩むが、結局、こいつが笑った時点で結果は決まっているのだ。

 「やってやろうじゃねえかこのやろぉぉ!」

 そうして俺は微妙に聞いたことのあるセリフを叫びながらキャッチボールに興じた。

 途中から熱くなりすぎて、キャッチボールと言うより、ドッジボールになっていたのはご愛嬌だ。

 まあ、うごけないうえに片腕使えないので一方的にやられていただけなのだが......


 え?怒られなかったのかって?

 怒られたよ、それも隣の部屋の人と看護婦さんのダブルで。

 もう二度とあいつの言うことなんてきいてやるか!

 

 (なお、次の日は病室で咲と空手をして、看護婦さんにまた怒られた)

 


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