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「このマントにはどんな効果があるんだ?」


〔これは完全に未知数だな。呪いが掛かっているかも知れないし、外そうとすると何か仕掛けがあるかもしれない。危ないからほっとけ。それよりも早く出口を見つけるぞ。転移してきてから四時間はたってる。飯も水も無いんじゃお前、死ぬぞ〕


 それもそうだよな。考えてみればボス部屋で改造ゴブリンと戦ってから何も口に入れてないんだよな。魔術で水を出せればいいけど、俺は出来ないし……。

 ネックレスを外すために屈んでいた俺は、立ち上がろうとしてそばの本に手が当たった。めくれたページには、見ただけでくらくらするような幾何学模様(きかがくもよう)や、意味のわからない記号のようなものの羅列があった。


〔これ、魔法書じゃねえか! 読め。今すぐ読め! 3冊ともだ!〕


 さっきまでこのままだと死ぬとか脅してきたやつが、急に興奮しだした。なんだよ魔法書って。変な落書きにしか見えないんだけどな。

 読んでいるうちに頭痛がしてきたが、しつこく読むように言われ続け、やっと読破した。


〔ステータス見てみろ!〕


 ぼんやりした頭でただ指示に従っていると、


[MP 6060/14060]


 めちゃくちゃMPが減っていた。


〔違う! もっと下だ!〕


[《魔法》

  異空間作成:虚構

  風化:灰]


 魔法!? 魔術は知ってたけど、この世界って魔法あったんだ! でもこの虚構とか灰って何?


〔要するに、虚構系統の魔法なになに、灰系統の魔法なになにって感じだ。魔術と違って系統毎に覚えるなんて不可能だ。魔法ってのはとっておき(必殺技)だからな。2つ以上覚えられるのはかなりの幸運持ちくらいだ〕


 一つずつしか覚えられないってなんか不便だな。それでこの2つの魔法はどんなことができるんだ?


〔異空間作成はそのまま、今いる次元とは全く別の空間を作り出す。環境条件も、流れる時間も、広さも何もかもが魔力さえ足りれば自由に造れる。時空魔術でも似たようなことが出来るが、こっちは規模も効率も遥かに上だな〕


〔風化もそのまま、ものを風化させる魔法だ。触れた場所を起点に、対象を魔力で覆うんだ。覆った範囲が込めた魔力量によって風化する。無機物も有機物も、魔力も魔法も魔術だって風化させる。時間がかかるのが難点だが、逆に言えば時間さえかければ確実に壊したり消したり出来る。お前の持つ灰魔術でも、劣化版みたいなことは出来ると思うぞ〕


 今の説明が正しかったらこの2つの魔法かなりのチート魔法だと思うんだが。こんなの1つ覚えてたら十分すぎるだろ。有り難いから2つとも使うけど。

 て言うかいつの間にかゲットしてた灰魔術もかなりヤバそうだな。


〔まあ灰魔術は白魔術と黒魔術の両方持ってて初めて発現するっていう条件の厳しい魔術だからな。そのくせ灰魔術は破壊特化の謎仕様だ〕


 そういえば白魔術と黒魔術ってどっちも持つって珍しいんだっけ。てか破壊特化って怖いな。なんでバフデバフスキルから破壊スキルが派生するんだよ。


〔で、どうするんだ? ここから出るにはその魔法を使えるようになるしかないんだろ?〕


 そうなのだ。3冊の本の内、2冊が魔法書だった。じゃあ残りの1冊はというと、このガイコツさんの自伝みたいなものだった。その最後にここから出る方法があったんだが、そのためには《風化》が必要だったのだ。

 俺はガイコツさんから見て左側の壁に手をついた。


「風化」


 しかし何も起こらない。


〔先に手に魔力を纏ってないとダメに決まってるだろ。その魔力量で威力が変わるんだから〕


 そう言われればそうか。今度は手の表面に魔力を集める。まずは薄くからだ。


「『風化』」


 掌の魔力が灰色に変わり、壁に広がった。もともとの量が少ないから、掌2枚分くらいにしかならなかったけど。

 その魔力で覆われた部分を見ていると、だんだんと崩れていることがわかる。すごくサラサラで極小の砂粒みたいになっているのだ。


「次は……もっと魔力を増やして……『風化』…………おぉ、凄いな」


 効果は劇的だった。畳二畳分程の範囲がボロボロと崩れていくのだ。もちろんボロボロといってもすべて極小の砂粒だ。あっという間に目の前に一メートル程の奥行きができてしまった。

 でも、埃っぽいな。こんなにたくさんの粉を出したから当然といえば当然だけど。そうだ、異空間作成の練習もしていこう。イメージは某ネコ型ロボットの四次元く○かごみたいな感じで。


「『異空間作成』」


 ガッと体の奥が削られる感じがした。MPがほとんど持ってかれたんだ。

 実際に山積みの粒が一気に消えて、その下から真っ黒な穴が出てきた。手を入れてみると……確かにあの粒がある。でもこれって消せるのか? と思った瞬間、穴が消えた。出そうとすると、少しMPが減ったけどまた出てきた。出し入れは自由みたいだ。


〔おい、見えてきたぞ〕


 言われて風化を使っていた場所に目を向けると、握り拳程の大きさの石が浮かんでいた。


〔魔石……いや、魔力の塊だから魔結晶だな。やっぱりこれが核だろう〕


 この洞窟から出るためにはこの魔結晶を壊さなければならないのだ。でも、周りは全部風化で壊したはずなのに、なんでこれは残って、しかも浮いているんだ?


〔これは亜空間作成……異空間作成と似た魔法だな。異空間作成が全くの別次元に自分専用の空間を創るのに対して、亜空間作成は現実空間を切り取る。そうすると切り取られた空間は現実にありながら現実からは干渉できなくなるんだ。まあ風化なら魔力さえかければ壊せるよ。先に魔力を回復しておけ〕


 言われてネックレスから魔力を引き出す。


「『風化』」


 全力だ。濃すぎる魔力のせいでそこだけ陽炎が立ち上っているようだ。

 しばらくして、だんだん魔結晶が削れてきたんだろう、歪んでいた景色が普通になってきた。


〔後で何かあるかもしれないから、その骸骨とマント、あとその本も異空間に入れておけ〕


「……回収完了。そろそろ完全に消えるな」


 魔結晶を削ってできた粒子は、壁を削ったものと違ってどこか輝いて見える。一応これも回収しておこう。

 そして魔結晶の最後の欠片が粒になった瞬間、目の前の壁が消え去った。目に飛び込んできたのは、

緑、緑、緑


「え、……え!? ここどこ!?」


 後ろを振り返ると、そこには薄暗い闇が広がっていた。


〔そういえば今まで、俺たち普通に見えてたんだよな。あれも魔術か魔法だったのか。それとここ、本当にどこだろうな〕


 俺は、見渡す限りに大木の生い茂る森の中にいた。

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