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魔導人形
ヒトの手で生み出すことのできる魔物の代表の一つ。別名ゴーレム。
性能は作成者の技術(スキル等を含む)と素材によって変動。
最も一般的なのは木や岩を使った雑用用のもの。
見た目はどれも人型だが、模様、色、細部は素材によって変わる。
性能はピンキリ。
遥か昔には、竜の眷族と言われる飛竜や走竜と渡り合える、推定レベル70を越えるものもあったとか。
……一目で、そのゴーレムのヤバさがわかる。少なくとも、さっきのミノタウロスよりも弱いことは無いだろう。ミノタウロス5体を召喚した魔方陣、それと同じものを使って召喚した魔物が、ミノタウロスよりも弱い筈がない。
それに、纏っている雰囲気というかオーラ的なものが凄い。ただ対峙しているだけなのに、圧が強すぎて動けない、目を逸らせない、汗が吹き出てくる。
「ほぅ、お前らのような者でも、我の魔導人形の良さがわかるか。これは我が作ってきた中の最高傑作よ。何せ竜の死骸を丸々一つ、凝縮して作ったのだからな。それも竜の中でも特に物理に特化した黒竜の死骸だ! MPが0の魔導人形にとって、これ以上の素材は存在せん! ミノタウロスごときで苦戦するお前らが、レベル100に至ったこの最高傑作に敵うものか!」
敵うものか? 敵う筈がない。俺のレベルの倍もあるんだ。それにバルザさんや先生も、レベルが100もある筈がない。
「ダリアン様、退職球は持っていますか」
バルザさんが口を開いた。バルザさんだって俺と同じように、いやゴーレムに近い分それ以上の圧を受けている筈なのに。
それに退職球? あれは確か自分のジョブを一つ前に戻す、使い捨てのアイテムの筈だ。誰が、どんな目的で創ったのかもわからない、謎のアイテム。そんなものを何に使うんだ?
「持っています。ですがバルザ君、君はそれでいいのですか?」
「ええ。それしか道は無いでしょう。わかっていると思いますが、私が使ったら、すぐに皆様を連れて部屋の隅へ」
「話し合いは済んだかな? さあ、準備に移ってかまわないよ。せいぜい足掻く様を見せてくれ」
どうやらバラムはわざと何もしてこなかったらしい。それに、あいつが準備といった途端、押し潰されそうだった圧が少し薄くなった。
「サクマ君、タクム君を連れて私についてきて下さい。……バルザ君、健闘を祈ります」
俺は近くで座り込んでいた拓武を連れて、先生は梓を連れて部屋の隅へ移動した。
その間にバルザさんは、盾と剣を置き、鎧を脱いだ。そして何処からか大振りなナイフを取り出した。
「せ、先生、バルザさんは、一体何を?」
そう聞いた俺に先生は、
「あれがバルザ君の戦う時の格好でした。一つ前のジョブ、【狂殺師】の時のね」
「狂殺師って……あの大量殺人の!?」
これまで押し黙っていた梓が慌てたように口を開いた。
「梓、狂殺師って知ってるの? それに大量殺人って?」
「私もチラッと昔の情報として読んだだけだし……。ダリアンさんなら詳しく知ってるんじゃ?」
そう言って先生の方を向く梓。先生は、
「わかりました。僕の方から説明しましょう。
さっき梓さんが言ったように、10年近く前に我が国では大量殺人が起きました。それも無差別殺人です。歳も、性別も、出身地も、役職も、何一つ共通点にならなかったのです。
この事件の解決を任されたのが、当時の第7軍団の隊長達の一人だった現騎士団長です。
当時から有能で知られていた団長は、任されてから2か月後に犯人を割り出しました。
そして団長は、16歳だったバルザ君に出会ったのです。
正直、対人に特化した狂殺師と真っ向から戦い、相手を拘束した団長は凄まじい。40歳を迎え、この戦いの後遺症で左腕が使えないにもかかわらずこの国の最強は間違いなく団長です。」




