19
「《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》! ヒー」
「もう、大丈夫です……。あり、がとう、ございます……」
俺を止めたのは今まで動かなかった筈のアルレナさんだった。
「い、いやいや、何言ってるんですか! 喋るのもやっとじゃないですか!」
「それで…いいのです。この技を……撃つためには」
そう言ってアルレナさんは斧を握った。
「退いてください、サクマ様。そこに居ては巻き込んでしまいます」
ーーー《起死回生》 《殲滅之斧》ーーー
▼▼▼アルレナ▼▼▼
ーーアルレナよ。この技は格上を倒すには最適の技じゃ。
ーーだからこそ、決して格上に使ってはならん。
ーー相手が何であろうとも、倒せる可能性ができる。
ーーそれには、途方もないリスクがついてくるのだから。
ーーお主の命の半分というーー
(すいません師匠。私は、貴方の言葉に背きます)
(守らなければならない人たちがいます。倒さなければならない敵がいます。そして、私はもう死にそうです)
(《ヒール》で回復するのはHPだけ。致命傷を負った私では、回復したそばから命がこぼれていく。ならば)
ーーー《起死回生》《殲滅之斧》ーーー
起死回生
効果は、発動者の残HPを、最大HPの半分だけ削ること。そしてそれが致命的であればあるほど、次に放つ攻撃の威力を上昇させる。
殲滅之斧
斧技系最強の技。発動条件は、発動者が死ぬこと。発動者の命を対価に、敵をぴったり殺す。例えば、殲滅之斧の威力が『10000』だとしよう。そして敵のHPが『7500』だった場合、残りのダメージ『2500』が次の敵に与えられる。
起死回生発動時のアルレナの残HPは673。削られるのは4069。すなわち、3396分だけが致命的となる。
殲滅之斧の威力は28000。ここに起死回生の効果が追加されると、威力は『61094』。
そして、アルレナは死んだ。
▼▼▼咲真▼▼▼
《殲滅之斧》ーーー
そして、俺はアルレナさんを助けられなかったことを知った。どうしてかはわからない。でも、俺の頭が『死』を受け入れた。
ブウゥゥゥン
アルレナさんの斧が、アルレナさんの手から離れていく。スキルの影響だろうか。斧に数字が被って見える。
その斧が、アルレナさんが震衝で態勢を崩したミノタウロスに触れた。それだけで、
ドガッ
ミノタウロスが倒れた。どうして、触れただけに見えて実は攻撃していたのだろうか。そういえば、被っている数字が『57860』に減っている。
斧はそのまま、次のミノタウロスへ向かった。
49227
36501
19930
最後のミノタウロスで一気に数字が減った。8000くらいで倒せた奴も居たのに、最後だけ17000近く減った。数字だけ見れば倍以上だ。
まだ数字の残っている斧は、そのまま離れた所にいたバラムへと向かった。そういえば、ミノタウロスと戦っている間はバラムは何もしてこなかったな。
バラムは、斧を避けようともしない。威力はミノタウロスで見ている筈なのに。
ガシィッ
斧を止めたのは何処からか現れた、鎧を纏った腕だった。
「どうして我が、魔方陣を二重にしていないと思った? なあ、魔導人形よ」
召喚されたのは、真っ黒な鎧で全身を包んだ人形の魔物だった。




