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「来るよっ、サクマ君! 二人に援護を!」


「はいっ! 《エンチャント・フィジカルブースト・聖属性・リカバリー・シールド》!」


 気付けば、自分でも知らない言葉を叫んでいた。フィジカルブースト、リカバリー、シールドは、どれも白魔術のようだ。

 フィジカルブーストは、パワーアップ、ディフェンスアップ、スピードアップを纏めてさらに強化した感じ。

 リカバリーは、一定時間HPが回復し続ける、回復のエンチャント。

 シールドは、ある程度のダメージを受けると壊れる、身代わりのような透明な壁。

 これらも、レベルが50になった影響だろうか。


「私が攻撃を防ぎます! アルレナ様は攻撃を!」


「《エンチャント・スローワールド》《ナイトメア》《サモン・シャドウオブタイム》」


「わかりました! まずは右端手前から行きます!」


 先生が使ったスローワールド、ナイトメア、シャドウオブタイムは、黒魔術と時空魔術の会わせ技だ。

 スローワールドは全ての敵の行動スピード、知覚スピード、思考スピードを遅くする技だ。

 ナイトメアは、当たるとダメージと視覚、聴覚、嗅覚を一定時間遮断する魔術だ。ただし、複眼だったりいくつもの目を持っている相手には効きづらいらしい。

 シャドウオブタイムは、周囲の影を操る魔術だ。操った影に当たると、体感時間と現実の時間に大きなズレが生まれる。それで敵を混乱させるのだ。


「《スコード》! 《オーバーガード》!」


「《切断》! 《骨砕き》!」


 スコードは騎士系なら誰でも使える、敵の注意を自分に集中させる技だ。

 切断、骨砕きは、斧技の代表的なスキルだ。切れ味を上げる切断ではミノタウロスを切れなかったようだ。衝撃を浸透、爆発させる骨砕きで背骨を折ったようだ。


「《ヒール》! 《ヒール》! 《シールド》!」


 オーバーガードは、敵の攻撃力の30%を自分の耐久力に上乗せする技だ。さらにそこにシールドを纏っていたのに、ミノタウロスの一撃でHPが500も減っていた。バルザさんは騎士だから、俺とは比べ物にならないくらいのHPはあるはずだけど、こんな攻撃を貰い続けて無事なわけがない。

 シールドも、一撃を食らっただけで割れてしまった。


「《リフレクション》! 時間を稼ぎます! スローワールドが切れる前に回復を!」


 リフレクションは敏捷を下げるかわりに受けたダメージの一部を相手に跳ね返す技だ。

 動きを鈍くしてまで時間を稼ぐ必要があるのは、斧技には回数とは別に、何回か技を使う毎に時間を開けないと次の技が使えないというハンデがあるからだ。まあ、それを補って余りある程に一撃が強いんだけど。


「《シールド》! 《ヒール》! 《ヒール》! 《シールド》!」


 必要な時間は1、2分だが、ミノタウロスが待ってくれる筈がない。バルザさんは2体を同時に相手している。

 さっきはアルレナさんがあっさり倒したからわからなかったけど、正直ミノタウロスはめちゃくちゃだ。一撃でシールドを破ってダメージを与える。体感だけど、あのゴブリンの攻撃でも3、4回は持つと思う。それにリフレクションでダメージを受けている筈なのに、全く動きが鈍らない。尋常じゃないスタミナだ。


「行けます! 《震衝》! 《骨くだッッッッ!?」


 一瞬だった。1体目と同じようにやろうとしたのだろう。手前にいたミノタウロスに衝撃波を当て、動きを止めて倒そうとした。それを、2()()()()()()()()()()がアルレナさんを殴って止めた。

 一瞬で壁まで吹き飛ばされたアルレナさんは、崩れ落ちてからピクリとも動かない。

 大丈夫だと思った。なんとか勝てると思った。ダメだった。もしあの一撃を俺がくらえば? アルレナさんよりも遥かに脆い俺ではあっさり死んでしまう。いや、もしかしたらアルレナさんもーーー。


「ーー君! サクマ君!」


 ッ!? 俺は今何を考えていた? そうだ、もしミノタウロスが来たら俺はー


「アルレナさんの回復を! 早く!」


 そ、そうだ。俺が、俺が治さないと。


「ヒ、《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》! 《ヒール》!」

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