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「ーーバラムなり」
その言葉の後、様々な事が一気に起こった。
気付けば、バルザさんが俺たちの前で盾を構えていた。
気付けば、アルレナさんがバルザさんの隣で大きな両刃斧を持っていた。
気付けば、先生が魔術の発動準備に入っていた。
気付けば、バラムと名乗った男の顔が、牛のようになっていた。
その間、俺たち三人は何も動けなかった。いつの間にバルザさんが動いたのか、アルレナさんはどこから斧を出したのか。そして、ずっと見ていたはずの男の顔がいつ変わったのか。
「よい。よいぞ。その反応は実によい。ただ、だからこそお前たちの力不足が残念でならん」
牛顔になった男の声は、ひどくしわがれていた。そして、その声を聞いたバルザさんたちの気配は一気に緊張感を持った。
後から知ったことだが、魔神バラムの顔が牛のようになったのは、どうやら戦闘体制のようなものらしい。だからバルザさんたちは、戦うしかないとわかったのだろう。
「貴方は……貴方はさっき、まるでゴブリンを育てていたかのように言いましたが、それはどういうことですか?」
先生が、いつでも魔術を放てる状態でバラムに話しかけた。
「言葉通りよ。ここ最近、我は減ってしまった軍団の補充をしていた。40の軍団と言ったが、今は10程度だ。あのゴブリンはそこそこ才能があった。だから強くしてやっていたのだが、『ゴブリン』という種の限界を越えてしまってな。ああして体が腐ってしまったのだ」
バラムは笑いながら答えた。
「そうだ。代わりと言ってはなんだが、貴様たちを殺して魔物として蘇生しよう。運が善かったとはいえ、あのゴブリンを倒したのだから素質はあるだろう」
そう言った途端、バラムを中心とした赤色の魔方陣が浮かび上がった。
ーーー使われている文字列は召喚系のもの。魔方陣の大きさは召喚するものの質量と数で変わるから、かなりの大きさか数を持つものを召喚するつもりだろう。
やっとまともに動けるようになった。
「バルザさん、アルレナさん! あれ召喚の魔方陣です!」
「タクム君とアズサさんは下がって! サクマ君は白魔術をお願いします! バルザ君とアルレナさんは攻撃に専念してください!」
先生も、バラムの魔方陣に対して態勢を整えようとしていた。この中で白魔術を使えるのは俺とバルザさんだけ。バルザさんが攻撃に回るなら俺が担当しないと。
それに拓武はまだゴブリンとのダメージが残ってるし、梓もそこまで戦闘向きじゃない。
「ッ、来ます! 皆様、警戒を!」
アルレナさんが叫んだ。その瞬間、バラムの足元の魔方陣が強く光った。現れたのは、3メートル近い身長と、太い四肢。大きな角を持った牛顔と黒っぽい体毛を持ったあの生き物は……
「ミノタウロスです! それも五体!」
ーーミノタウロス
このダンジョンでは18階から出現する魔物で、強さはレベル85相当らしい。らしいと言うのは、18階まで行ったのが、たったの一人しかいないからだ。その人も、20階のボスから命からがら逃げてきたが、結局命を落としたらしい。だから、その人が命懸けで集めてくれた情報から言うと、
ミノタウロスはヤバい
今の俺のステータスは、
[サクマ 白魔導師/黒魔導師 Lv53
HP 1960/2414
MP 138/9820(+2750)
SP 236/1108
力 82
耐久 80
敏捷 91
器用 105
魔力 291(+63)
ステータスポイント<22>
《スキル》
白魔術 黒魔術 聖属性 闇属性 魔方陣作成 成長 不死鳥の加護 魔道 聖闇混合 灰魔術]
レベルが50を越えたからだろう、よくわからないスキルが増えていた。だが、いくら俺が後衛の回復役とはいえ、レベル53では足手まといになりかねない。それに俺が一度に回復できるのは241だけ。いくらバルザさんとアルレナさんが強いとはいえ、ミノタウロスが五体。やるしかない。やるしかないのはわかっているが……




