第八話
「じゃあ、全員揃ったな?転移するけど本当に良いのか?」
俺は戦乙女に問いているのではない。ギルドマスターに問いているのだ。
「無論問題ない!」
このギルドマスター様も一緒に行くらしい。そのためにわざわざ休暇を取ったとか。しかも仕事を前倒しで、過密スケジュールをこなし、現在ここに居る。
「おい、良いのか?戦乙女?」
「……い、言い訳ないでしょ……でも、正規の手続きを取っているわけだし……誰も泊められなかったのよ……それより!転移魔法とかおとぎ話に出てくるような代物本当に使えるの?私はそっちのほうが心配だ」
「安心しろ。すでにギルドマスターが転移を体験している」
「っ!本当ですか!ギルドマスター!!」
「うむ!本当のことだ!」
「何をしているんですか!こんなどこの馬の骨ともしれぬ輩の魔法を喰らうなんて!」
「どこの馬の骨では無い。ブリッツ君だ!」
「そういう意味ではなくて…………」
あーでもない、こーでもないと喚き続けている。
「あーもういい加減うるさい。全員少し黙れ。俺一人で向かうぞ」
と言うと、ギルドマスターは焦りだし、戦乙女はこれ以上無いくらい警戒心を顕にしている。
「はぁ~、とりあえず、出発前に自己紹介だ。俺はブリッツ。最近冒険者に登録した。もうそろそろAランクとやらになるらしい。よろしく」
「はぁ!?Aランク!?こんな奴が!?」
「こんな奴ではない。ブリッツ君だよ」
「ギルドマスター!そういう意味ではありません!最近冒険者になったばかりで、尚且もうAランクに手が届くってどんな不正をしたんですか!ギルドマスターでも許されない行為ですよ!」
「何、不正などしておらんよ。魔石を1000個納入して、儂の鑑定を防いだ。これだけでAランクとなるにはふさわしい人材だと思うがね?」
「な!?」
おお、戦乙女の皆々様は絶句している。
「で、おたくら戦乙女というのは聞いているが名前は知らないぞ。名乗れや」
「わ、私達を誰だと思っているんですか!そのように礼節を重んじない者に名乗る名などありません!」
「おい、戦乙女はこんな穏やかじゃない奴らなのか?すでに面倒になってきたぞ」
「う~む、本来はこのような子たちでは無いのだがね……ぶっちゃけブリッツ君が煽りすぎ」
「俺のせいかよ」
「うん」
「いや、うん。じゃなくてだな……はぁ、まぁいいや。とりあえず、名前を名乗る気がないなら一人で行くわ。後ろから刺されたら……まぁ、刺されたところで痛くも痒くも無いけど……」
「なっ!」
プライドを傷つけられたのか、全員が顔を真赤にさせている。
「だから煽り過ぎだって。それに痛くも痒くもないなら連れていけばいいじゃないか」
「はぁ………………本当に面倒」
「その長い間は何じゃ?」
「いや、なんでもない。で、名乗るの?名乗らないの?こっちは名乗ったぞ。礼節とやらを重んじるなら、そちらも名乗るのが筋じゃないのか?」
嫌々そうにしながらも、一応は答えてくれた。
「私は戦乙女のリーダー、ミレアよ。職業は重戦士。」
「私はデルタ、職業はヒーラー」
「俺はディア、職業は拳闘士だ!」
「私はミレイ、リーダーの妹。職業は魔法使い」
「戦乙女のメンバーは私を含めこの四人だ。そう言えばお前の職業は何なんだ?」
「ん?俺か?サモナーだ」
「えっ!?ちょ、ちょっとギルドマスター!どういう事ですか!」
「どうもこうもそういうことなんじゃないの?」
「あのような不遇職がどうしてAランクなんかに!」
「頑張ったからじゃないかね?」
「いや、頑張ってはいない。楽しんで狩りはしてたけど。レベル上げるの楽しいじゃん?」
「うむ。そういう問題ではないのだがな……」
「……いいわ。で、サモナーさん。貴方は何体召喚できるのですか?」
「召喚?ああ、一応今持っているのは23体。まぁ、召喚獣を使うつもりは無いけど」
「な!う、嘘よ!23体ってどれだけの魔力を……」
「嘘って言われてもな……本当のことなんだが」
「う~む。戦乙女の皆に命令だ。このことは他言無用だ」
「ぎ、ギルドマスター!?」
「信じられんが、彼は嘘をつくような人物でもない。本当のことなのだろう」
「出さんぞ?そもそも手の内見せたくないし、一体召喚しただけでも街一つぐらいは丸呑みにしてしまうだろうからな。物理的なサイズもそうだし」
「……どんな召喚獣かも詮索はなしだ。わかったな?」
「ぎ、ギルドマスターがそうおっしゃるなら」
「で、あんたの自己紹介まだだけど?」
「必要か?」
「いや、ぶっちゃけ鑑定すれば見れるから問題ない」
「じゃろ?」
「ああ。じゃあ、そろそろ出発していいか?」
「え、ええ。構わないわ」
「うむ。楽しみじゃ」
「それじゃ、転移」
戦乙女のメンバー全員とギルドマスター、そして俺はその場からかき消えた。
「で?ここがAランクとやらのダンジョンか?」
俺が声を発した。すると周囲がざわついた。
「何だ?俺になんかついているのか?」
「いやいや、普通に考えようか。言っただろ?おとぎ話に出てくるような魔法だと。それがブリッツ君は使える。普通の人は使えない。それがどういうことかわからぬのかね?」
「ああ、野次馬な。散れコノヤロー」
周りにいた野次馬は俺の顔より、ギルドマスターの顔を見て驚いている。
「まぁ、彼の言う通りにしてくれ」
再度ざわめく。
「まとめて焼却されたくなかったら失せろ」
そう言うと蜘蛛の子を散らすように人がいなくなった。
「……よし」
「よし。じゃないわよ!いきなり何を言っているのよ!」
「いや、だってうざかったんだ。しょうがないだろ?」
「……貴方には常識というものが欠如しているようね」
「そんなの最初からねぇよ。てか、まともな神経してたらこんなところに放り出されて気が狂わず生きていくなんてまず無理だよな~」
「は?あんた何言ってんの?」
「いや、独り言だ。気にするな。で、あの窖がダンジョンか?」
「あ、ああ。そうだ」
「じゃあ、乗り込むか」
「はぁ!?あんたバカじゃないの?」
「どういうことだ?」
「情報も集めないで突入とか、死にたいの?」
「おいおい、リア、なんとかしろ。説明が面倒だ」
「……やっぱり本名知ってるのね」
「自分で見ろ。って言っといて、それは無いんじゃないか?」
「まぁ、そうなんだけど……自信をなくす……」
「そんなことより説明しろよ」
「あー、もうわかってると思うがブリッツ君は規格外だ。どんな事があっても彼だけは最下層まで行って余裕で戻ってこれるだろう。一人なら」
「ここはAランクダンジョンですよ!そんなことあり得るわけが無いじゃないですか!」
「私達がお荷物だと!?」
「ああ、ぶっちゃけ言えばそうだ。だから、レベル上げの手伝いだけするつもりでいる。まぁ、ダンジョンには宝物って相場が決まっているから、それも少し楽しみにはしているんだけどな」
「……やっぱりこいつ居ると全滅しますよ?」
「まぁ、そう思いたければそう思ってればいい。とりあえず俺の仕事はお前らのレベル上げだ。レベルを上げたければ着いてこい。そうじゃなきゃついてくるな」
「誰が行くもんですか!」
「と、ここでギルドマスターとしての強権を発動させます。命令です。戦乙女は彼の指揮下に入り、このダンジョンでレベル上げをしなさい。クリアしたあかつきには、全員をAランクに推薦する」
今度は戦乙女全員、言葉が出ないようだ。暫く硬直している。だんだんイライラしてきた。
「で?どうするのおたくら」
「……」
「はぁ、なぁ、俺、中入っていいか?」
「……もう少し待ってあげて」
「……はぁ~」
そして、何やら全員でひとかたまりになりブツブツ言ってる。
「わ、わかりました。着いていきます」
「じゃあ、俺の言うことちゃんと聞けよ」
「うっ、わ、わかりました」
「心配するな。理不尽なことは言わねぇし、お前らの命は守る。それも依頼の内だしな」
「では、出発しようではないか!」
「おい、ちょっと待て。何故お前も着いてこようとしている?」
「……駄目?」
「……はぁ~、もういいよ。好きにしろ」
こうして、戦乙女の他に、ギルドマスターの面倒も見ることになるのだった。そして、俺達は全員でダンジョンへと入っていく。
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