第七話
次の日。俺は朝食を食べ、ギルドへ向かった。そして、受付の人にギルドマスターを呼ぶようにお願いした。
「おお、よく眠れたかの?」
と、しばらくするとそんな声とともに現れた。
「まぁ、一応」
「一応?何か問題でもあったのか?」
「いや、あんたの名前が気になって少し眠るのが遅くなっただけだ」
「名前?おお、そうじゃったな。貴族というやつじゃよ。私は」
「いや、それはわかってるけど、なんでそんな人がギルドマスターやってるか、さっぱりわからなくてな」
「酔狂……と言ったところかの?」
「何故疑問系なんです?」
「うむ、特に深い意味は無い」
「はぁ、まぁ良いですけど……それで、鍛えるやつはどいつだ?」
「うむ。少し待っておれ。それと依頼じゃが、この周囲のダンジョンの探索じゃ」
「ふ~ん、まぁ興味あったから行くのはやぶさかじゃないけど?」
「行ってほしいのは、最難易度のダンジョンじゃ」
「とりあえず、鍛えるのは良いけど、どれくらいの強さにすれば良いんだ?」
「……お主、難易度が一番高いのじゃぞ?それをこともなげに……」
「別に、最初から殺しにかかってくるような罠や魔物が出てくるわけじゃないんだろ?」
「む、それはそうじゃが」
「だったら心配する必要ないだろ?それに、いざとなれば少しは本気出すし」
「まぁ、それなら良いかの……それでじゃが、Aランク相当のステータスになるまで鍛えてほしいのじゃが……どうじゃろうか?」
「まぁ、暇だから構わんよ。パワーレベリングすればいいってことだろ?」
「いやいや、それではAランク相当の力は得ることができても、Aランク相当の技術が会得できないではないか。それでは困るのじゃよ」
「え~、流石にそれはめんどくさい。そのあたりは自分たちでってことで」
「まぁ、無理強いはするつもりは毛頭ないが……そうじゃの、鍛えてほしいメンバーと会ってみて、いいなと思えばそれ相応に鍛えてほしい」
「ん~、まぁ、気が向いたらな」
「それじゃ、紹介するとしよう。別室で待たせてある……ついてまいれ」
そう言われ、ギルドマスターについていく。
「おお、少し待たせてしまったの。申し訳ない」
すると、奥に4人の女性が居た。その中のひとりが口を開く
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも依頼とは一体どのようなものなのですか?ギルドマスター?」
「うむ、依頼とは……」
「おい、ちょっと待て。話があべこべじゃないか?」
と俺が口をはさむ。奥に居た4人のリーダー格であろう喋ってた女性が眉をひそめる。
「貴方、見覚えはありませんが、何なのですか?その口の訊き方は!」
剣呑な雰囲気を放ち始める、奥の女性4人。
「ちょっと待ちなさい。喧嘩するために引き合わせたわけじゃないのじゃぞ?此奴はブリッツ。正直私でも敵に回したくない相手といえば力量がわかるかのぉ?」
どんどんその言葉でどんどん雰囲気が悪くなっていく。
「ちょ、ちょっと四人とも待ちなさい。そんな殺気立っては話にならんじゃろ」
「ですが、この男、見たこともありません。どこの馬の骨とも知らぬ者が私達のギルドマスターにそのような口の利き方。到底見過ごせることじゃありません。それにギルドマスターより強いということはどういうことです?確かに強い気配を感じますがギルドマスターほど強いようにも感じられませんが?」
「当たり前じゃ。隠蔽しておるのじゃからな。もちろん強者の気配を感じさせないようにしておる。現に私は此奴のステータスを看破できなんだ」
「なんですって!そんなはずありません!ギルドマスターの鑑定のレベルは98ですよ!こいつが99レベル以上の隠蔽スキルを持ってるって言うのですか!」
「うむ。私も信じがたいのじゃが、そのようじゃ」
「こんな若い人間が……まさか特殊な種族だったり?」
「さぁ、それはわからん。どうなんじゃ?」
「……まぁ、想像に任せる。それよりも、依頼の話だ」
「そうよ!どういう事ですか!ギルドマスター!」
「う、うむ。戦乙女には依頼と言わぬと、面目というものがあるからのぉ……というわけで依頼があるという体で戦乙女に来てもらったのじゃ。わかったかね?ブリッツ君?」
「そういうことか。理解した」
「……こちらは理解していないんですけど……納得のできる説明をしてただけるんですよね?ギルドマスター?」
「もちろんじゃ。端的に言えばブリッツ君はとても強い。じゃから、Bランク冒険者の戦乙女は彼に鍛えてもらってほしい。最高難易度のダンジョン、それも最下層最高記録を抜くレベルまで鍛えてほしいとお願いしておる」
「おい、それは初耳だぞ?」
「そ、そんな事できるわけがないじゃないですか!」
「はて?言っておらんかったかの?まぁ、今言ったから良いではないか。というわけじゃ。彼に存分に鍛えてもらうと良い。Aランク冒険者も夢ではないぞ?」
「……納得できません」
「ふむ。どうすれば納得するのじゃ?」
「勝負してください。私と1対1で」
「それは無謀だ。やめておけ。今の俺はAランク相当のステータスに設定している。勝てっこないぞ?」
「そ、それでもです!」
「ま、俺は構わんが……どうするんだ?おい」
「それで禍根を断つことができるなら、戦ってもよいかの。では訓練所まで案内しよう。ついてまいれ」
そう言われ、その場に居た戦乙女4人と俺とギルドマスターは訓練場まで向かった。
「それでは戦いを始めるとしようかのぉ」
「よろしくお願いします」
「ああ、戦うのは構わないがその前に」
「……何?」
「俺はブリッツ。お前は?」
「……戦乙女のリーダー、ミレアよ」
「んじゃ、気軽にやろうぜ」
そう言うと俺は訓練場に常備されていた木剣を構える。ミレアも木剣を構える。
「ところで、ルールはどうなるんだ?魔法はあり?なし?どっちだ?それと一応俺、サモナーなんだが……いや、それは言ってもしょうがない。この戦いでは使うつもり無いし」
「サモナーなのに召喚獣を使わない!?私をバカにするのも大概にしなさいよ!」
「いや、怒らせるつもりは無いんだが……」
「魔法はありじゃ。剣と魔法を使えねば一流の冒険者とは言い難いからのぉ」
「了解。じゃ、そっちは魔法使っていいよ。こっちはまだ限定封印のスキルレベルと手加減のスキルレベルが低い。だから、魔法は使わない。剣はまぁ、しょうがないよね」
「……どこまでもバカにして……いいわ。叩きのめしてあげる」
そして、戦いが始まる。
ミレアは体を低くさせ、一気に駆けてくる。風を操る魔法だろうか、細い魔力がこちらに向かってくる。俺は木剣に魔力を少し込めて一振りする。と、細い魔力は霧散した。ミレイはそれに驚いたような様子を見せたが、そのまま突っ込んでくる。下からすくい上げるように逆袈裟で攻撃してくる。俺はそれを踏んづけた。そして、木剣が砕ける。ミレアはぽかんとしている。
「あー、木剣新しいのある?というか、そっちはもういつも使っている剣を使って戦いなよ」
「……」
ミレアは下がり、自分の剣を持ってくる。はじめの合図もなしにいきなり上段から切りかかってくる。俺はそれを木剣で剣の腹を叩き、凌ぐ。全部わかりやすく急所を狙ってくるため、とても簡単にいなすことができる。そうしているうちにミレアが息を切らしはじめてきた。そして、距離を取る。すると、上級クラスの魔法の詠唱を始めた。流石にこの小さい訓練場で使うような魔法ではないので、対抗魔法を無詠唱で準備した。
「ミレア!よさんか!」
ギルドマスターの声も虚しく、上級魔法は完成し、放たれる。俺はそれに対抗魔法をぶつけ、相殺した。
「え?……嘘?」
今のが最大威力の攻撃だったのか、地面にへたり込んでしまった。すでに戦意はなさそうだ。
「これで終わりでいいか?」
「う、うむ。そうじゃな……というか、お主は魔法も使えるのか……しかも無詠唱まで取得している上にそのレベルもかなりのものときたか……」
「まぁ、別に俺の隠蔽がバレてんだから、何やろうが自由だろ」
「それはそうじゃが……本当にお主は何者じゃ?」
「お前が何者であるか答えるなら答えようじゃないか?」
「私はエルフという種族で、この街の領主をしておる」
「そういう事が訊きたいのか?」
「う、ううむ……」
「まぁ、とりあえず、コイツラの面倒を見ればいいんだろ?スキルレベルを上げるついでにレベル上げにも付き合ってやる。感謝しろ」
その言葉に戦乙女のメンバー全員がこちらを睨む。
「何か文句あんのか?」
そう言うと、今度は一斉に目をそらす。
「ま、どっちでも良いけどな。で、場所はどこなんだ?」
「うむ。待っておれ。地図を持ってこよう」
しばらくして地図を持ってくるギルドマスター
「今いるのがここじゃ。で、ここに最高難易度のダンジョンが存在しておる」
「ここで鍛えろってことだな?」
「ああ、そうじゃ。頼んでも良いかの?」
「ああ。とりあえず、準備できたら教えてくれ。俺は宿屋で寝てる。あまり遅くなるようなら置いていく」
そう言うと、戦乙女はギルドマスターと二言三言喋ってから訓練場を出ていく。
「お主、もう少し態度を柔らかくしても損はせんぞ?」
「損はしなくても利益が無い。ぶっちゃけ俺一人でいろいろやったほうが早いだろうしな」
「……まぁ、それはそうなのじゃが……それより、お主は準備しなくても良いのか?」
「別に必要なものは魔法で仕舞ってあるし、現地へは直接転移すればいいからな。特に問題はない」
「む!転移ジャと!」
「お、おお、な、なんだ急に大声を出して」
「お主、転移魔法を使えるのか!」
「ああ、多分使えるはずだ」
「お、おおおおおお!伝説と言われる転移魔法を私は見ることができるのじゃな!」
「何なら短距離転移してみる?」
「ふぉおおおおおお!まことか!私は感激しておるぞ!」
「はぁ、そんなんで良ければ……ほい」
するとギルドマスターは訓練場から消えた。そしてどこからか大絶叫が聞こえたと思ったら、ギルドマスターが戻ってきた。
「い、今のが伝説の転移魔法なのか!そうなのか!」
「伝説かどうかは知らんが転移魔法には変わりない」
「……この世に生を受けて幾百年。この体で実際に転移を体感することになるとは……感無量じゃ!」
「まぁ、どうでもいいけどな」
「そうじゃ!大変じゃ!早く戦乙女を止めねば!」
「どういうことっだ?」
「移動方法じゃよ!今頃数日の旅支度をしている頃じゃろうて!止めねばダンジョンまで数日かかるぞ!」
「ああ、そういうことね。じゃあ、止めてきて」
「う、うむ!わかった!」
そう言うと、変なテンションのギルドマスターは消えていった。
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