第十五話
「っと、此処が戦場か……今は戦闘してないのか?で、こっちが味方みたいだな。じゃあ、とりあえず、一番弱い、アジ・ダハーカを召喚して、向こうを火の海にしてみるか」
俺は空を飛び、アジ・ダハーカを召喚する。成長すればするほど、大きくなるみたいなのだが、この子はまだ小さい。とは言え、全長50メートル以上のドラゴンがいきなり空に現れたのだ。両軍ともに硬直している模様。俺はその上から、指示を出す。
「とりあえず、ブレス。あっちね。焼き払って」
アジ・ダハーカは咆哮を上げると、ホバリングして体内の魔力を炎に変換する。そして、放たれるブレス。奇襲したため、敵軍は何もできず焼かれていく。
「お~、じゃあ、あっちもやっていこうか」
こうして、数分で敵を全滅させた。
「う~ん、こんなもんか?まぁ、魔物と戦うより経験値の入りはいいな。よし。レベル上げするときは戦争に参加しよう」
俺はそう言って、アジ・ダハーカを送還し、転移する。先程まで居た王城へ。
「終わったよ」
発光が収まり、その中から出てきたブリッツが一言言った。
「お、終わったとは?」
「だから、敵軍、燃やし尽くしてきたよ。あれ、良いね。良い経験値稼ぎになる。今後共大規模な戦争があったら呼んでくれ。有意義だった。じゃあな」
そう言って俺は退場しようとしたが、王に引き止められた。
「ま、待ってくれ。此の短時間に本当に敵を撤退させたというのか?」
「はぁ?話聞いてなかったの?俺、燃やし尽くしたって言ったぞ?」
「……そ、それは、一人で全滅させたと?」
「そう言ってるんだが?」
周りの大臣たちは唖然としている。今回は王も唖然としている。
「誰か早く確認に向かわせろ。とりあえず、俺はそれまであいつの王都の家で待ってるわ」
そう言って、手をひらひらさせながら、転移する。
静まり返った部屋。復帰が一番早かったのは王だった。
「……貴様ら何をシている!事実確認を!最優先だ!」
『は、はい』
大臣達の時が一斉に動き出した。
「ふぅ、ブリッツ殿は敵に回しては行けない御方だ」
もう一度手紙を読み直す。そして、一言。
「マルク卿め。此の様な者を寄越すとは。覚えておれよ」
俺は王城の入り口で待っている老執事のところに転移した。
「よ、またせたな。帰るか」
「……」
「ん?どうした?」
「い、いえ、今、急に現れたように見えましたので……隠密系のスキルでしょうか……いや、スキルを詮索するのはマナー違反でした。大変失礼いたしました」
「ん、別に構わねぇよ。ただ単に転移してきただけだから」
「て、転移……でございますか?」
「ああ。ん、そういや転移って一般的じゃないんだっけか?経験してみるか?」
「い、いえ!とんでもございません!転移の魔法がどれほど魔力を使うのかは承知しております。その様なご無理をお客人にお願いできるわけがありません」
「いや、別に、馬車で帰るの面倒だから、転移するかなって思っただけで。それに別に言うほど魔力は使わねぇよ」
「は、はぁ」
「とりあえず、馬車に乗れ。転移する」
そして、老執事を馬車に乗せると、馬車ごと転移した。
「ん、到着」
「は?」
「転移初体験だもんな。うん。此のリアクション知ってる。大丈夫。まぁ、気長に待つから、ゆっくり現実に戻ってこい」
と言ったはものの、老執事は数秒程で、現実に戻ってきた。
「い、いえ。大変失礼いたしました。それでは御部屋までご案内させていただきます」
「あ、別にいいよ。部屋まで転移するし。あっ、そうだ、事故ったらまずいから、転移できることと、何時どこで俺が現れるか分からないってこと、此の屋敷のメイドや執事たちに言っといてね。じゃあ」
そう言って、俺は再度部屋まで転移した。
「ん~、暇。まぁ、良いんだけどね」
俺はベッドに横になって目を閉じた。
「はっ、ああ、ブリッツ殿は転移されたのか……おお、馬車を片付けよう」
老執事は馬車を片付け、緊急で執事とメイドを集めた。そして、転移の話をして、メイドと執事を驚かせた。最初は信じてもらえなかったが、其処は人望ある老執事。すぐに本当のことだと皆が察し、頭では理解する。だが、此の後、お腹が空いて食堂に現れたブリッツを見て驚かなかったメイドは一人も居なかった。
それから一週間が経った頃だった。王城から再度来てほしいとの旨の手紙が届いたのは。
「ん?調査が終わったのかね?」
俺は、老執事に王城に出かける旨を伝え、転移で向かう。
「ブリッツ殿は危険だ!なんとしても此の国の貴族に据えるなどして、首に縄を付けていないと不味いのではないか!?」
「貴族だと!貴族をなんと心得る!平民が慣れるようなものではないのだぞ!」
「そもそも、巨大な龍が退治したという報告しか来ていない!本当はブリッツ殿は何もシていないのではないのか!」
「では、先日此処で転移を披露したのは一体何だったというのだね!」
「別な魔法を開発したのかも知れないではないか!」
王は頭を抱えていた。こんな、アホな事ばかりを言っている貴族、いや、大臣たちをどうするか。もう既にブリッツ殿を呼んでいる。何時来てもおかしくないのだ。此の者たちは頭が狂っているのだろうか。
「全員、静粛にせよ」
喧騒に包まれていた部屋が一瞬で静まり返る。
「これ以上、頭痛の種を増やしてくれるな。わかっておるな?これはブリッツ殿が行ったことである。どの様に龍を操ったのかは分からぬが、そう決まっておる。下手なことを申すものは貴族の位を剥奪するものだと心得て発言をするように。今からブリッツ殿がこちらに来る。皆わかっておるな?」
其処に居た人間で顔を上げていたものは居なかった。と、そんな時。
「なんだ。またこの部屋か」
ブリッツが転移して部屋に侵入した。昨日ブリッツと会話した後に施した、魔法を使えなくする為の結界をもろともせずに。
「で?確認は取れたのか?」
王は最近胃痛を感じている。それが少し酷くなったような感覚に陥った。
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