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終業式はイブ

今日は12月24日。

言わずと知れたクリスマスイブ。

と同時に2学期終業式。

中学校までは通知表が渡される日だったが、高校では通知表はテストの成績が出るたびに自宅に郵送されてくる。

結局この日は、体育館で校長先生のありがたいお話を聞いたり、教室で担任からありがたくない話を聞く日になっている。

そうそう、たっぷりと宿題をいただく日でもある。


SHRの最後に、いつものごとく「冬休みの過ごし方」とタイトルされた、当り前のことが掛かれたプリントが配られる。

これって「夏休みの過ごし方」のタイトルだけ替えているんじゃないのか?

クラスのみんなも早く帰りたいオーラ全開で終わるのをひたすら待つ。

おそらく先生も、こんなの配るだけで終わりたいんじゃないのかな。

だが、業のように先生は読み生徒は聞く。

要約すると、タバコを吸うな、酒を飲むな、パチンコ屋へ入るな、バイクの免許を取るな、深夜徘徊するな、先輩などの車に乗るな、男女交際はほどほどに、そしてしっかり勉強しろだ。

こんなこと聞かされても、するものはするし、しないものはしないのに。

最後に3学期の主な行事が書かれている。

始業式、課題考査、百人一首大会、第3回実力テスト、学年末考査など。

鬼に笑われそう。

早く終わって欲しい。

俺達にはこの後重要な会議があるから。


勉強会が始まっての最初の長期休業を迎えるにあたり、今日は、その運営会議が開かれた。

まず敵を知ることから。

宿題の形式は、夏休みと同じく、国数英は数ミリの厚みがある冊子。理社は5枚ほどの両面印刷のプリント。

数学の問題は実力テスト並みの難問が大半で、これを自分だけでするのは大変難しい。

英語は長文を読んで答える問題が半分以上。

国語もテスト形式で小説や評論を読んで答える現代文に加え、古文、漢文も同じ形式。漢字の読み書きや語彙も鬼のようにある。

これを、この短い冬休みの間でやれと言うのは余りに無理がある。百歩譲って俺のようなフリーの人間ならまだしも、運動部のような毎日長い時間練習がある部に属していたら、100%無理だ。何か裏技でも使わないと、物理的に不可能だ。

大変由々しき事態であるため、その件について放課後、と言っても終業式後なので昼前にだが、いつものごとく俺の家に参集し協議を行った次第である。

最初の議題は、休み中に勉強会を行うか否か。

俺の提案は「行う」である。

この案が否決されれば、協議自体がここで終わってしまう。

それだけは何としても避けたい。

俺としては死活問題である。

「どうする?」

俺が皆に尋ねる。

蒼が数学の冊子をめくりながら

「これを一人でやってたら、これだけで冬休みが終わっちゃうよ。」

と、学校側の配慮のなさに不満を隠せない。

メイも

「それに国語や英語も半端ないし。いい加減にして欲しいよね。これじゃあ、クリスマスも正月もないよ。」

と、憤懣やるかたない気持ちを誰にぶつけたらよいものかといった様子。

そして俺。

「みんなの言う通りだよ。これじゃ、遊べない。」

全く中身がなくて申し訳ない。

協議の結果、俺の提案は可決され、協力して助け合おうという結論に至り、無事にとり行われる運びとなった。

続いて、次の議題の実施計画についての協議に入る。

「どういうふうにやる?」

メイが

「単純計算だけどやれる日でそれぞれを割ってみようよ。」

いい意見だ。

まず、何日あるのか。

行事予定表を見る。

大晦日と三が日および土日を除くと、何と平日は9日しかないという事実がここで突きつけられた。

無理だ、これでは絶対に終わらない。

もちろん、個々が家に帰ってからも努力することが前提であるが。

厳しいようだが、大晦日と三が日以外は土日もやるという方向性で一致した。

そうでもしないと、とても終わりそうにない。

これで14日確保できた。

元日以外は全部やるべきという強硬案があるKYによって提案するされたが、それは他2名によって否決された。

各冊子のページ数を14で割ってみる。

ページ数は大したことはないが、何分1ページの内容が濃い。

これでも終わるかな?と不安はあるが、最善を尽くすほかない。

そして、時間は9時から17時まで。

どうせなら学校が始まる8時半を2名が希望したが、1名が泣くようにせめて9時にしてくれと頼み込むので、可愛そうに思って飲んでやった。

朝が弱くて、毎日大変らしい。

さっきは強硬な意見を出しておいて、何なんだ、こいつは。

昼食時間は1時間で昼食は各自で確保。

場所は福嶋家の一階の居間で、部屋の主であるムーアの許可を予め得ておくことなど、次々と具体的なことが決められていった。

先程の14日には今日も入っているので今日から始めるが、もう昼過ぎなので、腹ごしらえを先にする。

みんなはこうなることがわかっていたのだろう。

昼食を持参していた。

俺はうっかりしており、スーパーへ弁当を買いに行った。

今回は長いので、母ちゃんに頼んで、何でもいいから弁当を作ってもらおう。

午前中は勉強をしていないので、昼食は40分で切り上げる。

なかなか、ストイックだ。

まずは数学から始める。

今回の問題は、今までのような、その日の復習のような宿題ではないので、解けるかどうかはやってみないとわからない。

まず、各自が自力でやってみる。途中でどうにもならなくなると、メイが解けるまで待つ。

その間に、日本史なり、世界史なりのプリントをやる。

これは小問の寄せ集めが大半なのでいつでもやめられるから。

メイが解けたら、ポイントポイントを教えてもらい解き直す。

メイは次の問題に進む。

解けたらメイの答えを見て確認する、といった流れ。

それでやってみると、いつもの終わりの時間までやって、計画上のページ数で、できない問題が2問だった。

これは良好だ、明日からは朝から始まるので、今日より3時間以上は長くやれる。

このペースなら、数学の予定分が終わって、英語に取り掛かれる。家では国語、理科、社会をもっぱらやったらいい。

光明が見えてきたぞ。

その後、女子たちがムーアと少し絡んで解散した。


夕食の前にも後にも宿題をする。

もっぱら国語を。

気が付けば12時前。

クリスマスイブか。

何かロマンチックな思い出をつくりたいけど、来年もこうなっているんだろうな。

ひたすら宿題をするイブ。

そして3年生になったら、いよいよ入試前だ。

イブだの正月だの言っていられなくなる。

せめて、元日の初詣は蒼とどこかの神社に行きたいな。

お父さんが帰ってきて家族で行くなら、2日でも3日でもいい。

蒼と行きたい。

危ない、日付が変わらないうちにと、蒼にLINEを送る。

「まだ起きてる?」

すぐに既読がついた。

「うん」

「メリークリスマス」

「メリークリスマス」と返って来た。

「といっても何もメリーじゃないね」

「そうだね。宿題してたの?」

「してた。ずっと。」

「私も」

「いつか楽しいイブを一緒に過ごしたいね。きれいな夜景が見えるホテルのレストランでとか(笑)」

「私はイブに一緒にいられたらどこでもいい」

「なら現役合格だな。浪人にイブはない」

「だよね。早く大学生になりたいな」

「ほんとそう。年末年始はお父さん帰ってくるの?」

「うん どうして」

「帰ってきたらいいねって思ったから。ひょっとして蒼ってお父さんっ子?」

「よくそう言われる。自分ではわからないけど」

「帰ってきてくれるのが嬉しいならお父さんっ子だな」

「嬉しいからそうなんだ」

「気が早いけど初詣は家族で行くの?」

「ずっと友達と行ってた」

「今年も?」

「高校が別々になって話すこともLINEすることもなくなったから行かないと思う」

「じゃ俺と行かない」

少しして

「うん行きたい」

「よかった」

もうとっくに日付が変わっている。

「じゃ明日も地獄の勉強会があるから」

「そうね。体力を回復しとかないとね」

「おやすみ」

「おやすみなさい」


楽しい正月になりそうだ。

蒼の晴れ着姿が見られたりして。

よし、明日も頑張るぞ。


翌日は予定通りに朝9時から勉強会が始まった。

まず数学から。

1学期の範囲からの問題は、わかってないことが多いのでかなり手ごわい。

メイはすらすらと解くが、俺はなかなか進まない。

蒼も苦戦している。

それでも午前中に予定の範囲を終えることができた。

これは1学期のいい復習になる。

1時間の昼食休憩は本当に憩いの時間だ。

今日から作ってもらった弁当を皆といっしょに食べる。

メイは姉弁、蒼は相変わらず小さなサンドウィッチ。

コーヒータイムで楽しく話をしてリフレッシュ。

1時間きっちり休んでまた再開する。

オンとオフの切り替えがうまくいくと効率も上がる。

午後からの英語は自習形式。

メイは文字通りの自習。

俺も基本的には自習だが、わからないことが出てくると、蒼に教えてもらう時間になっている。

甘えてばかりはいられないので、調べればわかることは聞かない。

本質的にわからないことだけを聞くようにしている。

大問が終わるごとに、蒼のを見て答え合わせをする。

「合ってるかどうかわからないよ。」

と蒼は言うが、合ってるに決まってる、と信じている。

調子よく英語も予定の分が終わったので、予定外に化学をやることになった。

これは蒼の希望だ。

化学のプリントの問題は、大学入試のような文章題の応用問題で、化学の得意な俺にとっても難しいと感じる。

メイでさえ

「これどうやるの?」

と、聞いてくることがある。

蒼は放っておくと唸る時間が長いので、遠慮なく聞くように言ってある。

それでも遠慮するので、唸りだして止まってしまったら気に掛けるようにしている。

やはり俺が難しいと感じた問題で止まっていることが多い。

なるべくヒントを与えて自分で考えさせる。

そうでないと力がつかないから。

答えが出たら、英語の時の俺のように、蒼が俺の解答を見て答え合わせをする。

「合ってる保証はないよ。」

と蒼をまねて言うと

「絶対あってるよ。」

と返してくれた。

嬉しいけど、恥ずかしいな。

明日は俺も言おう。


大問1つに結構時間が掛かるので、1問終わればよしである。

それでも余裕で終わらせることができるから。

基本、明日からも数学、英語、化学の順でやり、余った時間があれば各自でやりたい科目をやるというスタイルになりそうだ。


やっと5時が来た。

これは疲れた。

夜、やれるだろうか。

でもやらなきゃ終わらない。

早く年末年始が来ないかな。

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