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両想い


ついにその時が来た。

終礼で連絡をしている先生の手には輪ゴムで止められた個票の束が握られている。

一通り連絡を終えた先生が、にやりとしてのたまう。

「じゃあ、これからいいものを渡すぞ。みんなが楽しみに待っていた実力テストの個票だ。1番から取りに来なさい。」

教室がざわめく。

出席番号1番の相沢が立ち上がる。

受け取る。

自分の席に戻るまでに見てしまった相沢は、顔を歪めた。

次々と個票が手渡されていく。

小さくガッツポーズをするものも。

悲喜こもごも。

やがて俺の番がくる。

受け取るが、すぐには見ない。

席について、深呼吸。

蒼が振り向く。

溜めて溜めて・・・見る!

3教科総合、78番。

「うわぁー」とまたもや叫んでしまった。

今度は何なんだと、周りの生徒たちの視線が集まる。

スミマセンと小刻みに頭を下げる。

蒼がそんな俺をみて笑っている。

「見る?」と口だけ動かして個票を差し出す。

蒼は首を横に振り

「あとで」とまねた。

やがて蒼の番。

蒼も溜めてから見るようだ。

大きく息を吸って、吐く、そして見る。

蒼の体がピクッとなった。

そして振り向く。

満面の笑顔。

「見る?」口が動く。

「あとで」と返した。


その後の勉強会。

俺が座卓に座ると、右にメイが座った。

蒼はメイの右に座ると思っていたら、何の躊躇もなくごく自然に俺の左に座った。

各自でカバンから個票を取り出す。

「それじゃー」といつもの明るい蒼の掛け声に

「どーん」と三人の声が重なる。

もうこれがないと始まらない。

何とも楽しい。

バーンと各々の前に個票が叩きつけられる。

そして、中央の俺の個票にスーッと左右の個票が寄ってきて連結した。

個票を覗き込む俺の顔に、メイと蒼の顔も寄ってくる。

当然、そうなるよな。

でも、これは近い、近すぎる。

メイはともかく、蒼はこれいいのか。

もう数cmで蒼の頬っぺが当たりそうな距離。

個票の数字よりそっちの方が気になる。

蒼の順位は?・・・42番。

すごい!大幅に順位を上げたな。

予想していたけど、一気に50番入り。

メイは?・・・6番。

いやー、もう笑うしかありませんな。

住んでる世界が違います。

「わー!!すごい!!」

俺の個票を見た蒼が自分のことのように喜んでくれている。

気分が高揚して、いつもの蒼でなくなっているのがわかる。

「やったね、真ちゃん!100番以内どころか70番台なんて。一気に50人抜きだよ。すごい、すごい、

すごすぎるよ!!」

それを聞いた俺も興奮がマックスになり、訳がわからなくなってしまった。

「うん、やったよ。蒼が英語を教えてくれたから、思った以上に点が取れたおかげだよ、本当にありがとうな。」

そう言ってしまった後、あっ!互いに顔を見合わせる。

ヤバいぞ、これ。

遅いか?

メイを見る。

しばらく何も言わないのが不気味だ。

そして

「へー、そうだったんだー。知らなかったなー。」

抑揚のないしゃべり方で、わざとらしさを演出している。

不満そうだが目は笑っている。

「違うよ、付き合ってるとかじゃないんだ。」

「そうよ、これは二人だけの時のコードネーム。嘘じゃないよ。」

これには蒼の言った通りに何一つ嘘ははない。

全部真実だ。

「私に隠れて?」

さらにメイが面白そうに畳み掛けてくる。

それは当たっているから、何て答えたらいいのかわからない。

俺も蒼も黙りこんでしまう。

気まずい。

突然、ハハハハハとメイが楽しそうに笑いだした。

「いいからいいから。わかってたから。蒼ちゃん、おじさんが蒼ちゃんにベタ惚れって知ってた?蒼ちゃん蒼ちゃんって、聞いてる私が恥ずかしくなるほどだよ。」

そんな話したっけ、捏造じゃない?

気持ち的にはほぼ合ってるからいいけど、でもそれって恥ずかしすぎる。

蒼の顔が赤くなっていく。

「おじさんの蒼ちゃん好きはよーく知ってたけど、蒼ちゃんもおじさんが好きってこと?」

メイが俺の代わりに、ど真ん中ストーレートで蒼に聞いてくれた。

ダメだな、俺。

こういうことは俺の口から聞かないと。

蒼は真っ赤な顔でうつむいたまま、小さな声で、それでもはっきりと「うん。」と答えてうなずいた。

それを聞いて今度は俺が驚く番。

「えっ!ほんと?」

思わず大きな声が出てしまった。

一方通行の片思いで、いつかは俺を見て欲しいと思っていたのに、蒼が?

蒼も?

俺の声に蒼が顔を上げる。

目が合う。

何も言えないまま見つめ合う。

蒼の俺への気持ちがどんどん流れ込んでくる。

「二人の世界は二人のときにやって。」

メイに現実に引き戻された。

そうだった、メイもいたんだ。

重ね重ねごめん。

「もうはっきりしたんだから、堂々とやってよ。私も混ぜてよ。」

子どもの遊びのようメイがに言う。

「わかったよ。ごめんな、メイ。」

俺が代表して謝る。

「はいはい、これでいったん終わり。」

そして勉強会が始まった。

その後は、メイの言葉に甘えて「真ちゃん」と「蒼」で呼び合った。

なぜだろう、メイの前だと自然にそう呼び合える。

帰り際に蒼が心配そうに

「美樹ちゃん、このことは誰にも言わないでもらえる。」

「わかった。面倒な人もいるかもね。ウサギ同盟だけの秘密。私、何があっても絶対に口を割らないから。」

と少し怖いシチュエーションを俺たちに想像させてうなずいた。


夜にメイからLINEが入って来た。

「やっほー」

「テンションやけに高くね」

「アゲアゲでいこうよ」

「で何?」

「わかってるくせに」

「何?」

「やったね 彼女と100番以内を同時にゲット」

「うん」

「それだけ?」

「他に何?」

「いろいろ言うことあるでしょ」

「メイ様のおかげです(笑)」

「(笑)はいらない(怒) でいつから?」

「だから付き合ってたんじゃないよ」

「じゃあ何だったの」

「呼び合ってただけ」

「私がいないところで?」

「それはごめん いろいろあって」

「いろいろねぇ」

「うん いろいろ」

「そのいろいろ今度聞かせてよ」

「聞いても全然おもしろくないよ」

「聞かせてくれたら全部許してあげる」

「わかった 話せないことじゃないし」

「約束よ」

「うん、約束」

「蒼ちゃんの気持ちわからなかった?」

「全然」

「それを鈍感っていうんだよ」

「お前に言われる日が来るとは」

「私でもわかるくらい頑張ってたこと結構あったよ」

「ほんと?」

「もう気づけよって感じ」

「お前に言われる日が来るとは」

「2度も言わないでよろしい」

「じゃ」


メイは今後、俺たちを静かに見守ってくれるのだろうか。

期待半分、心配半分だ。


その後すぐに蒼からLINEが入った。

「今日は、びっくりしたね」

「何に?」

とぼけてみる。

「私たちのこと。美樹ちゃん、知ってたんだね」

はっきり言わないのが蒼らしい。

「俺のはすぐにばれちゃって、応援するってメイが」

「そうだったんだ、知らなかった」

「メイに鈍感って言われた」

「ほんと鈍感」

「傷つくんですけど」

「私、何度も傷つきました 気づいてもらえなくて」

「ごめん」

「いいけど」

思い切って思いを告げる。

「俺、今の席になって、初めて蒼と話したときに好きになった」

少し間を開けて

「そのとき、蒼ちゃんって呼んでくれたでしょ。嬉しかったよ」

そうだったのか。

俺たち、出逢った時から・・・。

続いて

「真ちゃんって呼びたかったからコードネームって言ってた。ほんと、鈍感。」

そうだったのか。

「俺も蒼って呼びたかったから、すっごく頑張ったんだぜ。」

「わかってる。とってもムリがあったから。」

バレてる。

「でもそう呼んで欲しかったから嬉しかった」

何て続けたらいいのかわからない。

指だけが迷って動いていたら

「じゃ、今日はお疲れ様」

そうだな。

急がなくていい。

ゆっくりと近づいていこう。

始まったばかりなんだから。

「お疲れ様、おやすみ」

と送って終わりにした。


彼女か。

何か恥ずかしいし信じられないな。

まぁ、これもゆっくり慣れていったらいいか。

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