その十七 ユカタンの洞窟伝説
マヤの神話と伝説
ユカタンの洞窟伝説
ユカタン半島には沢山の洞窟があります。
歴史学者はマヤ民族が造ったものとしています。
実際の先住民がそれらの洞窟を隠れ場所として入口を隠している暗さと結び付けているという事実は洞窟にまつわる何百という物語に耳を傾けることに正当性を与えているのです。
ホンデュラスとニカラグアの湿地帯にある、モスキティアには洞窟は悪魔精神が宿るところとされています。
これはサンタ・バルバラ、チョルテカ、コマヤグアやその他の洞窟にも共通して言われるところです。
マヤの祖先に、スペイン人の征服時代に生きたラ・バラ・アルタ(高潔な棒)という一人の部族長がおりました。
これらのスペイン人は大変残酷なことをしましたので、古代マヤの末裔である、先住民の主な族長たちは敵が侵入出来ない洞窟に避難しました。
ラ・バラ・アルタに命じられて、その場所に部落の人たちは用心深く食料とか衣服を運びました。
にもかかわらず、族長たちは全てそれらの洞窟の中で死に絶え、洞窟を知っていた部落の人たちも同様に死に絶えていきました。
それ故、洞窟に関する伝説が形成されていったのです。
「だが、洞窟に隠れているこれらの神秘的な人間たちは一体誰なんだ?」
スペイン人が古代マヤの国を征服した時、先住民たちにキリスト教を広める必要がありました。
否定する人々は宗教裁判にかけられました。
そして、洗礼を受けているにもかかわらず、古くからの儀式をとり行う人々には過酷な刑罰が執行されました。
神官或いは霊的な指導者であった人々は、異端者或いは魔法使いと見なされ、火あぶりにされました。
これらの人々の多くは炎の中で死にましたが、中には、仲間の先住民によって救い出された者もかなりおりました。
先住民たちは彼らを当時はスペイン人に知られていなかった洞窟の中に匿いました。
時が経ち、逃げた者もこの孤独な隠れ家の中で、祖先のピラミッドとか神殿から取り出してきた聖なる祭具に囲まれて死んでいきました。
長年にわたり密林を徘徊し、スペイン人がマヤの土地に辿り着いたということを語る伝説同様、そういった地下の隠れ家の秘密を知る者も全てが死に絶えていきました。
或る日のことです。
ペテン族の一人の美しい娘がいつものように密林を一人で歩いていると、危険な場所とされる方向に歩いて行く大きな人影を見て驚きました。
そのあたりを知り抜いていた娘はその道を行くことは死に繋がるということをその人影に伝えようとしました。
「止まって。その道を行っちゃ駄目」
娘は繰り返し言いました。
その見知らぬ人は彼女の言葉に少しも注意を払わず、その道を歩き続けたばかりか、歩みを早くしました。
一方、その美しい娘は危険を彼に何回も告げました。
「そっちへ行っちゃ駄目、危ないのよ」
もう少しで谷に出ると思いました。
よそ者にとっては死は確実なものとなる場所であったのです。
歩きながら、その娘は自分の警告を聴こうともしないひとがどこから来たのか推測しようとしました。
谷の切り立ったところに着いた時、娘は落ちないように努めながらも、自分の忠告を無視したあの可愛そうなひとが落ちた、まさにその場所がどんなところか見ました。
「生きているのかしら」
娘は自分に尋ねました。
しかし、生きていたとしても、これらの谷では野生の動物のえじきに容易くなってしまうということはまさしく明らかでした。
もうそれ以上は考えず、娘は部落に帰って、起こったことを伝えました。
マヤ部落の人々が娘によって道案内されてその場所に着いた時、見たことのない一つの洞窟の入口に残された足跡以外には何も発見することは出来ませんでした。
「敵かも知れないな」
部落の人々は疑問を持ち、戦士を呼ぼうと思いました。
「確かめるべきだろう」
部落の長が言いました。
このようなわけで、彼らは松明に火を燈してその洞窟の中に入って行きました。
そこには誰もおりませんでした。
ただ、昔の住人の暮らした跡はありました。
伝説を語る者たちはその後に起こったことを否認していますが、或る者は闇の中で一つの影法師が彼らに来るべき危険を説いて聞かせたとか、その影法師は前兆を伝える巨大な蛇であったとかいろいろと語っております。
「この洞窟は大きな危険が近づいているからには、初めから終わりまで熟知していなければならない人々とかその部落によって調査されるべきものである。これは全ての土地をがつがつとあさりながら、海からやって来る髭の生えた人々を前にした隠れ家であろう」
マヤの人々はこれは神々からの命令であったと信じ、その警告に従いました。
何十年もの間、それらの洞窟は時代を乗り越えて生き延びようと求める多くの人々のために隠れ家として役に立ちました。
このようにして、マヤの国の何千もの洞窟の中を徘徊する奇妙な存在を物語る伝説に命が吹き込まれたのです。
- 完 -