外伝・大和(贖罪)編
「帰らないのか?」
「…そうか。お前らは感じないのか。あの兵器は人々が『恐怖』や『心酔』状態じゃないと改変できないんだよ。そんなことを引き起こすために画策していることは大体わかるだろう?そして、そいつは裏切られてないんだ。」
アルドラントは右手を前に突き出し、魔法陣を出現させた。その瞬間、魔法に隠されていた存在が産声を上げた。3つある黒犬の首、獅子の四肢、鷲の翼を携えた魔物が10体もいた。それを見たマリアは息をのんでしまった。
「こわかったら、梯子で地上に上ってしまえ。邪魔だ。」
それだけ言って彼は下に降りてしまった。
ヴェルトはもう詠唱を始めていた。広範囲に風の刃を発生させる魔法、『アリーヴェルチ』だ。私は魔法適性がなかったために使えない。それは私の昇進の可能性を小さくしたのだ。今もそれを引きずっている私にとってこの戦場は一番回避しなければならない。しかし、ここで引けば、確実に出口付近にいる魔獣は外に出てしまうだろう。外には『勇者』たちがいるとはいえ、その処理を押し付けたくはなかった。私は手すりに両足をかけ、適性がなくとも補助具をつければ使えるようになる『強化魔法』を使い、解放されている出口に飛び出した。その瞬間、天井から落下する形でそこに封印されていた真打、前脚が赤黒い結晶に守られた巨大なクモが登場したのだった。
瀬戸を止める、正確には直樹に殺させに向かわせた後、俺は監獄の地下に戻ろうとした際に不穏な魔力を感じ、監獄ではなく、国の北側に向かって疾走していた。単身向っている真っ最中に朱里が彼女の新装備を持ってきていた。
「大和!これを使って!」
「こいつは…あいつに強制的に作らせたものじゃないか。」
「ごちゃごちゃ言わないで。あの気配はタダモノじゃないわ。」
「ちっ!朱里。お前の力を少し貸してくれ。間違いなく…」
「わかってる。ヘワード卿の暴走ね。この辺りはあいつの管轄だったから。でも、一体何の魔力?こんな魔力、魔物じゃないわよね?」
俺はうなずいた。今まで戦ってきた魔物は独特のにおいを発していた。亜人たちもこのにおいを持っていたため、魔物と同じだと考えていたのだが。でも、今、この国に出現した魔物はその臭いとは全く異なるにおいを発していた。しいて例を挙げるなら…腐ったような臭いなのだ。でも、酸っぱい臭いじゃない。どろっとした奇妙な臭い。それがかすかに、しかし、確かに感じられたのだった。
そして、俺たちが到着した場所、鍾乳洞を人工的に改造した営倉には明らかに魔物ではない存在が誰かの風魔法を受け、後退していた。マリアが倒れている。左肩を貫かれたのだろう。夥しい出血を起こしていた。しかし、それだけではない。彼女の左側に黒い靄のようなものが見える。それが何なのかはわからなかったが、放置するのは危険だと直感が告げていた。
「『風よ!悪しきを払い、生けるものを癒せ!『ヒーリングストーム』』!!」
朱里が唱えたのは範囲内の生きているものを癒し、死してなお襲い掛かる魔物、『屍族』と呼ばれる不浄のもの共に有効な魔法だった。彼女はこの世界に来てすぐに過去にこの世界を滅ぼそうと企んだ軍勢に有効だった攻撃を真っ先に学んでいた。それが聖魔法と炎魔法であり、彼女が最も得意とする魔法だった。しかも、彼女は職業的にも回復魔法に適性があるため、彼女しか使ったことがない風と炎、聖と風、聖と炎の2つの属性を持つ魔法があった。そのうちの聖と風の複合魔法の中の一つがこの魔法だった。それを受けた魔物ではない存在は呻き、数歩後退した。そのタイミングで俺はその魔物の前に陣取った。
「やっぱり…あれが『屍族』だ。」
「…『屍族』って、お前が勉強するのを散々バカにされた種族じゃないか。」
「そうよ…死滅したはずだって言われていたんだけどね…」
そう言って朱里は傷を負って倒れているマリアのそばに駆け寄った。俺は同時に妙に硬い赤黒い結晶に包まれた前脚を剣で捌いていた。その脚の結晶こそどうやら『屍族』の力の源らしく、そこからマリアを侵食している黒い霧のようなものが発生していた。
「朱里。一旦逃げろ。ここに彼女をとどめるのは危険だ。」
「…だね。私は逃げるね。約束…はたしてよね。」
俺はうなずいた。彼女はマリアを背中に担ぎ、見知らぬ誰かとともに脱出しようとした。それを察した目の前の屍族は朱里を狙って前脚を振り上げた。しかし、その頭部に着弾した数発の弾丸が着弾した個所の近くにあった複眼らしき真っ赤に輝く水晶体を破壊し、注意をそらしたのだった。
「…こんなもので十分でしょうかね?」
「…そうか。お前の武器は拳銃だったんだな。」
「ええ。これも立派な『古代遺物』なので彼に没収されてしまうかもしれませんけどね。」
「あいつは何者だ?」
「あなたがあなたらしくあれば、また会うことになるでしょう。その時に改めて紹介しますよ。ですが…今は目の前の敵を倒すことに集中してください。」
「そうだな…だが、あいつは俺一人で十分だ。さきにこんな魔物がほかにいないかを調べに行ってくれないか?」
そう言って俺は再度剣を構えた。相手は一匹でも道連れにしてやるつもりなんだろう。が、俺はそんなに甘くない。剣に魔力を通す。その瞬間、その刃には青い炎が宿った。それを見て目の前の怪物は明らかに怯えたようだった。
「この一撃で沈め。『蒼峨灰燼剣』!」
俺はそう呟き、まずは上段からまっすぐ振り下ろし、右下、左下からの逆袈裟を繰り出した後、真一文字に斬り裂いた。その連撃で大きく後退した怪物はそのとどめと言わんばかりに大和が放った突きと同時に放たれたすべてを灰燼に変える蒼き炎の射線上に頭から先を居すわらせてしまい、彼が技を解いたときにはもう脚しか残っていなかった。
「…これがあなたの本気ですか?」
「そうだ。これが『勇者』の力さ。ああ…学校でいじめをしていた時はこんなこと思わなかったんだが…なぜだろうな。こんな力が空しく感じるんだ。」
「…その答えはあなたしか見つけられません。さあ。宰相閣下。最後の仕上げのお時間です。『貴族』共を追い払うんでしょう?この国から。」
俺はうなずいた。この苦悩の先に答えがあることを祈りながら。
そのとき、監獄から別の侵入者が来たという連絡が来た。俺はヴェルトに捜索を依頼し、監獄へと急いだ。




