外伝・大和(贖罪)編
「さて…私たちは待機になるんですかね?」
「…王子。私たち、本当にこれでよかったんでしょうか。」
ヴェルトとマリアは騎士団の駐屯所にいた。マリアは心配そうな表情だった。
一方、ヴェルトは南門のほうをじっと見たまま、何かを考えていた。
「…ねえ。本当に来るのかしら。」
「どうやら、こちらの想像をはるかに超えてくれたみたいですよ。ドラゴンです。」
「…ドラゴン?うそ…伝説上の生物じゃなかったの?」
「貴族や上流兵士は知っていると思いますよ。北の一部地域では彼らの食害がたまに起きますからね。しかも、その個体はほとんど管理されていますから、しかる場所に報告すれば、その補てんを行ってくれるので楽な稼ぎ口になるんですよ。今はその場所が魔物に襲われてしまったそうでドラゴンも全滅したと聞いていたんですけどね…まあ、小説よりも奇なることが一つや二つ起きていても気にすることはありませんよ。あなたは宝物庫に火をつけに行きなさい。そのあとは騎士団とともに避難する住人達の誘導をお願いします。」
マリアはうなずき、すぐ駐屯地を抜け出したようだった。
ヴェルトは胸に納めてある自分の得物を確認しつつ、自分の役割である、神託騎士団の撃破とその寄宿舎の破壊に向かった。
クーデターが起きたことはすぐ王国騎士団によって王宮にいた右大臣に伝わった。しかし、その場には私しかいなかった。当然だ。大和はこのクーデターを起こした張本人だし、瀬戸は京子を殺すために監獄にいるのだから。
「ええい!あいつらは何をやっているんだ?」
「…知りません。私は何かしたほうがいいですか?」
「ああ。私を守れ。あと、逆賊を探るんだ。王国騎士団にさせろ。」
「そうですか…悪手ですね。」
「なんじゃと?」
私はため息をつきながら、読んでいた本を閉じた。
「…あなたはここが安全地帯だと思っているみたいですね。」
「違うか?ここにはお主がいるだろう?」
「はあ…ここを囲むようにクーデターが起きているのに安全地帯ですか。」
「違うか?ならば、お主が守ればいいだろう!」
「いい加減にしてください。私はあなただけのものじゃない。」
「私に逆らうのか?」
「逆らうんじゃないわ。黙らせるの。『オーバーヒール』」
その瞬間、大臣は苦しみだした。私はそのまま背を向けて王宮から出た。
『待て!くる…し…』と言って破裂した音を聞きながら。
神託騎士団に与えられる『上位駐屯所』にはドラゴンが向かったようで駆けつけた時にはもう火の海になっていた。その神託騎士団の隊長であるバリー・ダングレアは鎮火するためにいろいろ指示していた。そんなかれもここに俺がいることに気づいていた。
「おや。坊ちゃん。どうしたんだい?」
「…被害状況は?」
「そんなにひどくねえ。ドラゴンに破壊されたが、その乗り手が理解ある人でな。」
「そうかい…そりゃ、残念だった。お前さんがけがでもしていたらよかったんだけど。」
「相変わらずですね。…私は妻子が気がかりなんで『貴族院』に向かいます。」
「…俺たちが仕組んだ計画は知っていたよな?」
「ええ。ですが、邪魔する意味はありませんでしたからね。北側か東側に逃げます。」
「…さみしくなるな。気をつけろよ。」
バリーはうなずき、『貴族院』がある方角へと部隊を移動させていった。
マリアの部隊と俺の部隊が『宝物庫』と『貴族院』に放火した頃だろう。俺は宝物庫に用がある。十中八九、邪魔をする者がいるだろう。それでも、教会の地下に俺が必要なものがあるのだ。それを取りに向かうため、俺は業火の真ん中を通って教会に向かった。




