外伝・大和(贖罪)編
その翌日の早朝。俺はアルバスト家の門を叩いた。しかし、様子が変だった。応答する様子がない。不思議に思った俺はその門を飛び越え、館に侵入した。
そこは血の海だった。
玄関には執事の亡骸があった。袈裟斬で一撃。そこからすぐ隣の部屋にはメイドが3名。逃げているところを背後から斬られたようであった。嫌な予感しかしなかった。練武場では現当主が壁にもたれかかっていた。
「アイザックさん!いったいどうしたんだ!」
「その声は…勇者様じゃないか。十分なもてなしができず、誠に申し訳ない。」
「っなことはどうでもいい。一体誰がこんなことを。」
「残りの4貴族、連名で謀反の疑いをでっち上げたそうだ。この傷ではそう長くは持つまい。娘を…マリアをキミに頼みたい。」
「おい…そんな弱気なこと言ってんじゃねえ!」
「そうだ…俺の部下に決起の日を伝えるといい。お前さんと一緒にこの歪んだ国を正したいと言ってあるからな。それと…キミに合わせたい人がいたんだが、私が仲介するは厳しそうだ。このお方に会ってくれ。キミの力になってくれるはずだ。」
俺は小さな紙の切れ端を受け取った。そこには彼の血で『アルヴェルト・E・シャーロット』と書いてあった。シャーロットってのは亡くなった王様の苗字だったはずだった。だが、王様にそんな血縁者がいるとは知らなかった。いるならば、王様になっているはずだった。それを問おうとしたときにはもう彼は息を引き取っていた。
「…仕方ないな。マリアだったか?彼女だけでもたすけてやる。」
俺はアイザックが持っていた大剣に手をかけた。これは彼の誇りだ。一対一だったら負けるはずのない彼がここまで傷だらけになっているのは一人で多人数と戦ったからだろう。練武場にはそれを証明するかのように数多の死体が転がっていた。
「この剣はいただく。自分の得物は持ってこなかったからな。」
そう呟いておれは2階に向かった。その階段にも数人が死んでいた。その傷は間違いなく彼女の槍が放ったものだった。死体はまだ温かった。すぐ向かえば、彼女は無事だろう。そう考えつつ、向かった先には彼女がいた。しかし、裸で。その近くにはエストラル家の当主がいた。
「おや?勇者様じゃないか。一体こちらで何をされているのです?」
奴はそう言いつつ、彼女の後ろに束ねられた髪を掴み、ひぱった。
マリアは呻き、痛みを耐えているように見えた。
「その手を放してもらおうか。」
「…なぜ?こいつは戦利品だ。いい声で鳴いてくれるし、自宅でかわいがってやろうと思ってんだよ。邪魔するなよ。いくら勇者様とはいえ、いいこと悪いことわかるだろ?」
「そっくりそのまま返してやるよ。俺が見逃がすと思うか?」
「そうか…ならば、こいつしかねぇなあ。」
そいつが構えたのは斬馬刀。騎兵を馬ごと叩き斬るために開発された片刃の無骨な大剣。持ち手を選ぶというが、あながち間違いじゃないだろう。この男の威圧感は下で亡くなってしまったあの人とは比べ物にならないほどなかった。
「そうだな。そこに立ってろ。一撃で終わらせてやる。」
俺は背中に構えていた剣に手をかけ、思いっきり横に振った。




