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『この滅び行く世界に祝福を』  作者: 早稲農家
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外伝・大和(贖罪)編

 地下牢。今夜、完成するという話を耳にした俺はその場所に向かった。

 そこに横たわるのは両手足がおかしな方向で曲がっている上、関節の数も増えているような状態で、顔が腫れあがり、両足首から出血している京子がいた。俺はすぐその増えてしまった関節と出血している足首をあらかじめ連れてきていたサラに素早く魔法で治療してもらった。しかし、まだ予断を許さない状態なのは確かだったから、各関節の可動域を治すことよりも、顔や頭の中で出血がないかをスキャンした。案の定、くも膜下出血を起こし、血が脳を圧迫し始めていた。素早くその血を消滅させ、出血箇所を同時進行でふさいだ。そのすぐ後、彼女が生きているのを確認した後、瞳孔が正常に機能しているかを確認し、脳が死んでないかを確認した。


 そして、俺はサラに監獄から出るように指示しつつ、前もって用意していたフードで顔を隠し、案内役として隠し入口の場所に向かった。杉野を彼女のもとに案内し、確実にこの国から脱出させるために。



 話は数日前に遡る。彼女が囚われた日、俺たちはわざといくつかのクエストを失敗した。それは俺がギルドに持っていき、京子が囚われたという情報と共にそれを杉野が受けるように頼み込んだのだ。そのギルドは俺たちが圧力をかけて潰した場所だった。それゆえ、俺が入ってくるとその受付の男はあからさまに殺気を飛ばしてきた。でも、事情を話し、俺だけではどうにもできないことを察してくれた彼はギルドの『非人道的所業に対する抑止力』として今回のことに協力してくれた。

 代わりに突き付けられた条件は3つあった。1つがこの国での冒険者ギルドを再開すること。2つ目が貴族による圧政が起きないように貴族、政界に参入してきた王都の東西南北を管理しているアルバスト家、ベスタ家、ヘワード家、エストラル家の4貴族を解体もしくは政界から追放すること。最後が宰相として俺がこの国の政治を行うことだった。最後のはどうやら、ギルドがこの国にある人物を通して実現を模索していたことらしい。その人物とはまた後日会うことになった。


 そこで俺はまずその4家の代表に会うことにした。最初にあったアルバスト家はもともと武門の出であったが、頭の回転も速かった。長剣一本腰に差した状態で「自分の身は自分で守るゆえ、一対一の対談を望む。」と言われた時、朱里は「そんなことさせません。」と即答していたが、俺は彼の家に一緒に向かうという条件で一人、向かったのだった。

 その家にはその男と娘が住んでいた。もちろん、メイド数人と執事がいたが、そこまで豪勢な様子は全くなかった。その娘も武人基質で俺が訪れた時も槍を振っていたのだった。


 「さて。内政にまったく興味がなかった勇者殿が何の用だ?」

 「…そうですね。たわいのない身の上話をしてもいいですか?」

 「かまわぬ。時間はいくらでもあるからな。」


 ちょうどいいタイミングで執事が紅茶を持ってきた。そのお茶を飲みながら、俺は今までこの世界に来て行ってきた残虐非道な事件を話し、それをこれからも行うことが必要なのにそれを行うことができなくなってしまったことを話した。

 最初はこの人の怒りを感じた。でも、それは会談中になくなっていった。

 そして、その話が終わった瞬間、その人は口を開いた。


 「ここは教会ではないゆえ、お主の罪を和らげることもお主を助けることもできん。だが、そうだな。私がおぬしら勇者一行を見ていて感じたのは醜悪さのみだ。しかも、そのやってきたことの醜悪さも考えれば、裁かれるのが一番いいのだろうな。まぁ。私にその権限はない。年老いた老害の戯言と思っていてくだされ。で。そんなことを話すために来てもらったわけじゃなかろう。そろそろ、本題に入ってくださらぬか?」

 「…ええ。このことを実は王国に唯一残っているギルドの方に話したんです。そしたら、来た回答も同じように自分でその道を見つけるべきだと言われましてね。その一環でその醜悪なもの共がまた奪おうとしている命を助けることにしたんです。」

 「話が見えない。なぜ、私と会談する必要がある?」

 「ギルドから協力を得るために今の王国を支える4貴族をなくす、追放するかもしれないということをお伝えするためです。」

 「ホウ…それは私に伝えてもよかったのか?」

 「ええ。王様や王女殿下がなくなり、今は4貴族が政治を行っている。それが国民に対しての圧政になっている。それを解消すること。それは俺にとって償いの第一歩ですから。その一環で、俺は朱里と瀬戸にも王国を出てもらうつもりです。」

 「…大きく出たね。この情報は流布されてしまえば奴らは最後、キミを確実に殺すだろう。それでも私に明かしてしまうとは…浅はかだよ。仮にも私は4貴族の1人。私の家を潰すならば、私は…キミを殺してでも止めなければいけない。」

 

 その瞬間、扉が開かれた。

 稽古場での恰好ではなく、しっかりとしたドレスだった。しかし、その左手には彼女が先ほどまで振っていた槍が握られていた。その視線には怒りが込められていた。


 「先ほどの言葉は本当か?そうなら、生きて返すとはよもや思われてないだろう?」

 「うそ偽りなんかないさ。俺はそのつもりだ。」


 その瞬間、彼女はその槍を突き出した。本当にこの家を奪われたくないのだろう。

 俺は額の真ん前でその刃を受け止めた。


 「…こんな若い子でも覚悟できているのに俺は未熟者ですね。」

 「なに。双方ともまだまだだよ。さて。この場のことは不問にしてくれるかい?」

 「ええ。俺は何もされていません。いいんですか?」

 「私はもう家督をその子に譲るつもりだ。それは彼女にも伝えてあったことだ。彼女が選んだ道に茶々をいれるようなことはしないさ。さて。先ほどの話だが、私は少し前倒しで彼女に家督を譲るとしよう。それと私を含めた4貴族を追放するには大掛かりな作戦が必要だ。私も少しは案を出す。それが民草のためのようだからな。」

 「父上!この者を見逃すのですか?この男は各地の人々のために活動していたギルドの冒険者を何人も殺めたんですよ!」

 「そうだとしても彼は私たちを問答無用で追放できたのにそれをしなかったんだ。その点だけでも感謝するべきなんだよ。彼がこれからやることに関して味方はいない。少なくとも私たちが手を貸すことは悪いことじゃないだろう。」

 「…信じてもいいですか?」

 「ノブレス・オブリージュ。高貴なるモノは義務を強制するのさ。我々貴族は何のために生まれたのか?民草の平和のためだろう?そこを勘違いし、民草を苦しめる私たちは…滅びるべきなのだろう。」

 「また、後日、話し合いの時間を設けてくれませんか?具体的には…」

 「一週間だ。そこまでに何とかこちらでも協力者を募ろう。」

 「いえ。時間があまりないので5日後にしてください。」

 「わかった。5日後にこの屋敷で。その席には彼女も同席してかまわないか?」

 

 俺はうなずいた。そのあとは特に何も起こることなく、この屋敷を出た。

 その時はまだこの次が現当主との最後の邂逅になるなどとは全く思っていなかった。


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