~直樹(帰還者)編第三章~
時は少し遡る。アルドは直樹が地下水路に入る数分前あたりで自宅だった邸宅に到着していた。『探知』魔法で気配を探ると何人かがリーダーらしき男の後ろにいる。そして、そのリーダーの前に懐かしい魔力の波動を感じた。
「あのリーダーの魔力は確か…エストラル家の二男坊か。」
全く持って災難だった。まさか、あの悪ガキに俺の自宅を奪われたのだと思うと反吐が出る。あの部屋に入れなかっただけマシだが、あの人数をすべて犠牲にして入るつもりなんだろう。さすがにそれだけはさせたくなかった。俺が侵入し、その様子をうかがっていると何か聞こえてきた。
「…ないからでしょう。全く。あの人は甘いから、返り討ちにされたんでしょうね?」
「…で、あなたは後ろの人たちと何をするつもりなのかしら?」
「…これから死ぬ人に何か教える必要もないのですが、特別に教えてあげましょう。この家を破壊します。『ヘキセンの秘宝』を手にするためにね。」
ほう。そこまで知ってるってことはその人数も計算して用意したんだろう。
だが、俺はそんなことをさせるつもりはない。感知されないように『隠蔽』魔法を重ねつつ、『土槍』の魔法をそいつらの足元に展開した。
「そんなものがあると思うの?」
「あったんですよ。ですが、血のつながりがない我々では簡単には入れなかったので。いっそのこと、この混乱に乗じて破壊しようと思ったんです。まあ、ここまで教えてしまったあなたはここで死んでもらいますけどね!」
その言葉を言い終わると同時にナイフを大量に投げてきた。取り出した瞬間に見えた刃が染まった色から、大体の毒の種類は分かった。全部遅効性の麻痺毒だ。しかも、種類が違う。一本でも当たれば厄介だから、『土壁』魔法を彼女の目の前に発動し、そのすべてをことごとく受け止めてやった。
「いったい、何事ですかね?なぜあなたが魔法を使えるんですか?」
「…おいおい。このポンコツ騎士が魔法を使えるわけないだろう。よく考えろ。ギリアス・エストラル。俺が会わなかった数年間はお前の脳味噌をここまで腐らせたのか?」
土壁が崩れると同時に俺は飛び降りつつ、剣を2本抜いた。ギリアス、エストラル家の二男坊は両手に十手を構え、あからさまに俺を警戒し始めた。俺はこのタイミングで数秒後に発動するように設置した魔法を起動した。
「ああ。確かに魔法使いを相手にする際は距離を取っちゃダメだったな。でも、それは俺の対策にならないから、どうしたらいいかを考えている感じかな?」
「ちっ…!」
考えを読まれていたために勢いよく飛び出してきたが、俺に近づく前に『毒茨』の魔法を仕掛ける。この魔法は設置型の魔法であり、相手が魔法陣の中に入らないと効果を発揮しない魔法だが、焦ったこいつはそれに気づくことなく踏み抜いてくれた。
「こいつはいったいなんだ?くそ!」
「もがかないほうがいいぞ。それは『アイビーラッシュ』という魔法だ。そのとげには毒が含まれている。うっかり刺さってしまうと…ああ。手遅れだったな。」
ギリアスはその時にはすでに穴という穴から血をふきだして死んでいた。
彼らの部下に関しては全員、地面から突然突き出された杭によって体を貫かれていた。
「で、お前は何やってんだ?」
俺は敵意を彼女に向けることなくそう言った。
「何って…心配だったのよ!今まで何やってたの?お父さんだって…」
「アイザックさんは息災か?」
「殺されたわ!お父様は…あの人、エストラルの当主に!」
俺は思わず彼女を抱きしめた。
「そうか…どうしてもここに来るわけにはいかなかったんだ。」
「どうして…このタイミングなの…」
「ここにあるものを取りに来たんだ。それが終わったら、すぐまたこの国を離れる。」
「どうしてもここを離れるの?」
俺はうなずいた。そして、その入り口に手を触れた。俺の体に流れる『魔女の血』に反応し、隠し扉は音を立てて開いた。そこには俺が想像した通りの装備があった。
『昇月』と『落陽』、部屋の真正面にクロスするように飾られた剣、『ルーンブレイカー』。それと魔法、物理に対する防御を貫通する拳銃『ジークフリード』、魔力があるが、魔法が使えないものに装備させることで魔法を使えるようにする篭手『マギ・レール』、精霊を纏い、自らの力にする『霊憑の衣』、道具を無限大に入れられる『マジカルポーチ』、そして…各種大精霊が復活した際にその精霊たちに渡すように聞いた各種『霊剣』。それがこの部屋にあった。
「そうだ…これはお前にやる。」
そういって『マギ・レール』を彼女に渡した。彼女はその篭手を見て驚いていた。彼女は篭手をつける習慣がなかったようだった。
「つけられないのか?」
「ううん。でも、これって『古代遺物』でしょ?」
「そうだ。この地でやらなきゃいけないことはこれで終わりだ。」
その時、教会のほうから爆発音が聞こえた。それは…あの男が『古代遺物』を保管している場所だった。俺はこれから起こり得る最悪の展開を予測し、家から飛び出した。
「こいつは…帰れなさそうだな。」
「どうしたの?」
「最悪の方向に事象が進んでるって話さ。」
俺はお父さんからもらっていた通信機の電源を入れた。
「どうした?」
「お父さん?ごめん。ここでやらなきゃいけないことができた。一緒には帰れそうにないんだ。だから、あの竜騎士の方と一緒に帰ってくれないかな?」
「わかった…だが、無茶だけはするなよ?」
「ああ。お母さんによろしく。」
そう伝えて幼馴染にこう言った。
「あの場所に向かうぞ。」と。




