~康夫(魔族)編Prologue~
これで康夫編のプロローグは完結です。
この次の章は別人物の視点になります。
『生きているか?少年。』
『かろうじて間に合いました。でも、ここからは出られそうにないです。』
『出られないようにしてあるからな。そこは死者が復活しやすい場所だ。おそらくもうしばらくすれば2,3体のゾンビが出現するはずだ。』
『…それは僕に死ねってことですか?』
『安心しろ。寝られないのは数日間だけだ。明日には魔法の教材をここから落とそう。それの魔法を覚えればそんな気を張る必要などなくなる。それまではこの剣を使うといい。まさか、妖精の王がこんな場所にいるなんて思わないさ。』
その存在は腰にさしていた剣をそのまま投げ入れた。数秒後に落ちてきた剣は玉座に座っていた魔王が装備していたモノだった。
『…魔王さま?これを投げ入れていいのですか?』
『いい。俺にはもう必要ない。そいつはお前さんのものだ。』
『なら、ありがたく使わせてもらいます。』
『抜けるもんなら抜いてみろ。そこらの雑魚なら抜かなくてもやれるだろうから気にしないでそれで殴りつけておけ。抜けたときは…お前が王だ。』
僕は柄を掴み、鞘からそれを抜き放った。あっさり抜けたのを上にいる魔王も気づいたらしく、苦笑されたような気がした。そんな時、奴らが現れた。右から2体。左から1体。僕は鞘を地面に置き、剣を下段に構えつつ、まず左の奴の喉を突き刺すように股から切り上げた。そして、そのまま流れるように振り向きながら上段に構え、右から迫ってきたゾンビの1体を頭から真っ二つにした。最後の1体は踊るように右腕、左腕、左足、右足と斬り付けた後に残った胴体と頭を十字に切り裂いた。
『さっそく鉢合わせたようだな。明日からは決まった時間に食料を落とす。魔法を教えたら、しばらくはそこの掃除を依頼するだろう。それがあらかた片付いたころに『飛行』のやり方を教える。それを習得すれば、そこから出られるはずだ。そうだな…もし、その時まで俺が生きていたら、一緒に酒でも飲もうじゃないか。』
『…ここに落としたお礼ぐらいさせてもらいます。それまで生きていてください。』
『それができたらな。楽しみに待っているよ。』
魔王はそういってそこから離れた。
僕はその約束をできるだけ早めてやるために翌日から本気で魔法を勉強した。
毎日、夕食前の時間に襲ってきた奴らは最初のうちは剣で斬り殺すことが多かった。しかし、日を追うごとにそれは光を発射する魔法や光でできた武器(剣や拳)で迎撃する魔法に置き換わった。近くにあった汚物は奴らの体の素体だったらしく、それを掃除、消滅させる際には大量の奴らに襲われた。それを迎撃する際は魔法だけでなく剣も使って倒すことも多くあり、剣技を知りたくなった。それを食事を持ってきた人に話すと翌日の朝にはその剣技の奥義が書かれた巻物を何種類か投げ入れてくれた。それは即日試し、その日のうちにモノにした。でも、掃除はそう簡単に終わらなかった。終わったのは2年ぐらい経った後だった。だが、2年も短かったらしい。魔王は喜んでいた。掃除が完了したその日のうちに飛行の仕方は簡単に教えてもらえた。できるようになるまでは相当時間がかかった。自分の体にいつの間にか生えていた羽を自在に動かせるようになるまで3日。そこから飛ぶまでに1週間はかかっただろう。真ん中まで飛び、滞空し続けるようになるまで半年はかかった。そして、僕がついに脱出した時にはもうこの世界に来てから3年も経過していた。
康夫(魔族)編Prologue
完