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『この滅び行く世界に祝福を』  作者: 早稲農家
74/144

~康夫(魔族)編第三章~

今年最後の投稿!

まあ、最終日に投稿してるんだから、当然ですが…

 目を開けたらそこは光に満ち溢れた部屋だった。

 その部屋には二つの出口しかなかった。部屋にはその真ん中で線が引かれており、私は手前側に倒れていた。そしてその奥には私が会いたかった人たちがいた。私は裸で、起きてすぐ驚いたが、その部屋の異常性に私はもう死んだんだと思っていた。

 そこにはジャックがいたのだから。


 「…ジャック?」

 「…よかった。まだ美弥子は生きているようだね。」

 「本当にあなたなのね!」

 

 私は前に出ようとしたけど、それはすぐ彼の手で止められてしまった。


 「ここから先はモルテ・ウイア。キミたちの世界の言葉では『彼岸』にあたるんだ。」

 「でも、私は…」

 「さっきも言ったように、『まだ』いきているんだ。」

 「まだ?」

 「…キミには選択肢があるんだ。一つは引き返す。もう一つはこちらに来る。そのどちらかを選ばなくてはいけない。どちらを選ぶかはキミ次第さ。でも、キミだけの選択じゃない。キミたちの選択になる。だから…慎重に選んでほしいんだ。」


 彼はそう言って私のおなかを触った。


 「キミのことを世話役として、2人目の妻として迎えることができてよかった。」

 「待って。サラは?ミアは?二人は…そっちにいるの?」


 サラは彼の最初の奥さんだ。そして、私の世話役を支持してくださった人でもある。


 「サラはこっちにいるよ。でも、ミアはまだ来ていない。彼女は…」

 「どうなったの?」

 「奇跡的に里を脱出したんだけど、商人に扮していた魔族にさらわれてしまったようでね。しかも、新興の『屍族』と名乗る連中でね。彼女は…かろうじてまだ人として意識を保っている状態だ。」

 「そんな…」

 「もし、戻るなら、キミに頼みたいことがいくつかある。一つは『おなかの中にいる子を育てること』だ。それと『娘を助けてくれ。』キミの知り合いなら、彼女を助けることができるんじゃないかと思うんだ。お願いできるかい?」

 「もちろんよ。必ず、何とかして見せるわ。彼女の居場所は?」

 「奴らが『屍の森』と呼ぶ場所だ。そこで瘴気を浴び続けている。」

 「わかった。必ず、すぐ何とかするから。」


 私は彼に背を向けた。


 「そっちに行くのは当分先になりそうだけど…とりあえず、またね?」


 私が手を振った瞬間、私は吸い込まれるようにしてその空間から追い出された。


 「…やこ!…美弥子さん!」

 

 私を呼ぶ声が聞こえ、私は目を開けた。私は裸で彼、康夫君の腕の中にいた。


 「ここは…そう。戻ってきたのね?」

 「美弥子さん。今、どんな状況かわかりますか?」

 「うん。そうだ…みんなに伝えたいことがあるの。聞いてくれる?」



 美弥子さんが語り始めた内容は衝撃的だった。

 まず、彼女の妊娠。しかも、彼女は妊娠した状態で精霊化した。その精神世界で生きていると言われたのだ。あの衝撃で流産してしまったはずの命がいまだに彼女に宿っているのは間違いなさそうだった。もちろん、もう人ではなく精霊に近い存在のようだったが、そんなことは大きな問題ではなかった。

 そして、もう一つの頼みごとである、彼女の夫の忘れ形見の救出。『屍の森』という場所に囚われている上、瘴気を浴び続けている。間違いなく米山の実験に無理やり参加させられているのだろう。許される所業では決してなかった。


 「…みんなはどう思う?」

 「情報が足りないかな?でも、行くべきだと思う。」

 「美弥子の頼みだよ。聞かないわけないでしょ。」

 「…決定だね。でも、美弥子もつれていくの?」

 「当然でしょ?彼女じゃなかったら、見つけられないでしょ?」

 「妊婦だよ…彼女は危険じゃないか?」

 「…ここで話しているより、ふもとに下りない?いい加減暑くてたまんないんだけど。」


 美香の言葉にはっとした僕らはここで会話をいったん打ち切り、里の跡地に戻った。



 その里には先客がいた。銀色の竜とそのそばでその竜の首を撫でている男。

 その後ろ姿は見覚えがあるものだった。


 「…山から下りてくる奴らがいるとはな。何者だ?」


 彼は背中を向けたまま、こちらに対して明確な敵意を向けてきた。僕もとっさに戦闘態勢に入ってしまった瞬間、チャイナドレスに両手槍という格好の美弥子さんが僕らを制するように左手を横に伸ばしながら前に出た。


 「今更、何しに来たの?克己くん。」

 「その声は!美弥子じゃないか!」


 こちらをおどいた表情で向いてすぐ剣に手をかけた。


 「…見たような顔もあるがみんな、雰囲気がずいぶん違うじゃないか。」

 「そうね…違うことがそんなに警戒するようなことかしら、元狩猟長さん。」

 「…その真ん中の男は誰だ?そいつは見たことないぞ。」

 「えっ…ぼく?」


 僕は警戒を解いてしまった。その口調と発音で克己も気づいたようだった。

 

 「…康夫かよ。どんな流れでこうなったんだ?聞かせろよ。」

 「えっと…僕、そんなに違うかな?」

 「違う。まあ、向こうの感じと比べたら、こっちのほうが何十倍もいいけどな。」


 そうして完全に警戒を解いてくれた克己との再会を祝いつつ、今までどんなことをしていたのかをたがいに報告し合うことにした。


 「…そうか。そっちは完全に生きるのに必死だった感じだな。」

 「全くだよ。春以外はなんだかんだで死にかけるか、精神が崩壊しているからね。」

 「そうだ…春。お前の兄貴に会いに行くか?」

 「私…角生えて前みたいな面影しかないからなぁ。尻尾もあるし。」

 「そう気に病むことでもないぞ。あいつはもう娘が二人、息子が…」

 「なにそれ!聞かせて!」


 でも、その続きを僕は遮った。その前に直樹と一緒に王都を破壊しに向かったと言っていた。直樹はそこで瀬戸を殺害したと言っていたのだ。直樹は理由もなくそんなことしない。つまり、克己が口ごもったのは…息子があいつらに殺されたのだろう。


 「…一つ聞かせてくれないか?僕らは『屍の森』という場所を探してる。」

 「『屍の森』?聞いたことないな。あいつなら知ってるかもしれないが。」

 「そっか。なら、僕たちは真っ先に直樹たちに会うべきかな?」

 「この世界のことを一番知ってそうだしね。春もそれでいい?」

 「うん。そうしたいな。」

 「美弥子はどうする?ここに残って…」

 「それはしないでおくわ。だって、菜々子も妊娠してるんでしょ?あの子と一緒にいたいから。だったら、いるべき場所は直樹たちの村じゃない。」

 「そうか。なら、直樹たちにも言ったけど、菜々子を頼むな。」

 「そっちも探し物、見つかることを祈っているよ。」


 僕らはそう言い、その地を飛び立った。

 その先で新たな出会いと目的への手掛かりが得られることを信じて。



 米山はその頃、イライラしていた。自分の能力で死んだ人間や魔物は配下にできる。絶対支配できるのにあの女、間宮ほのかは俺の支配が効かなかった。そのせいで自分たちは魔王城から遠く離れた『魔の森』改め、『屍の森』にいるしかなかった。援軍は当然ない。間宮ほのかが裏切ったことさえもまだ連絡できていない。つい先日、この森全域を瘴気で包むことに成功したのだが、その際、何者かの魔術によって水戸絵里がバラバラの状態で発見されたのだ。


 俺たちを脅かす存在がそこらじゅうにいる。


 そんな状況であるにもかかわらず、籠城戦をしていたからだった。

 話し相手もいない。そんな状態で米山は日夜放たれる炎を鎮火することばかり指示していた。しかし、しなければ、全滅する可能性があるのだ。死体は自己分解の過程でメタンガスを出す。そのため、鎮火しなければ森が火の海と化すのだ。

 それを繰り返していたある日、ついに小峰からの連絡用鳥形ゴーレムが来たのだ。

 命令内容は『いますぐ連絡が取れなくなった明石たちと森本を捜索しろ。』というシンプルなものだった。つまり、ここを捨ててその命令を遂行しなければならない。

 それを行うことに関して何も抵抗感はなかった。しかし、ここをただ明け渡すのは自分が負けたように感じ、それだけは避けたいと思ったのだ。そうして彼の発案で生み出されたのが、『ギガントキマイラ』だった。もともとこの森を支配していた『サンライズレオン』の四肢。このエリアで捕獲された『テンペストホーク』の翼。最後までこの森で戦い続けた『スノーホワイトウルフ』の頭。そして、この森に侵入しようとした際に最初に殺した『ヴェノムコブラ』の頭から胴体を尻尾に持つ魔物だ。そいつはこの森の新たな守護者として周囲の住人に死をまき散らしてくれるだろうと思ったのだった。


 しかし、この魔物を国家存続の危機と考えた大和によってすぐ討ち取られることになる。


康夫(魔族)編第三章


というわけで康夫編の第三章が終わりました。

なぜ、あの『大和』がここで出てくるのかは次の章の最後に明らかになります。

来年は1月2日から。直樹編の第三章になります。

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