~康夫(魔族)編第三章~
本日連続投稿になります。
思った以上に長くなってしまった。
僕と守宮さんが向かった先で待っていたのは今まで相手してきた魔物とは一線を引くほどの強さだった。大体5メートルはあるだろう。そこから巨大な斧で何もかもを破壊するような横薙ぎを絶え間なく放ってくるのだ。1人では抑え込むのでやっとだった。
「どうしてこんなことをした!森本!」
「その名前は捨てたんだよなぁ…だって俺、人間じゃないし。」
「質問に答えろ…」
「答えたじゃん。俺は人間じゃないし。人間は餌か繁殖用の道具だからな。」
そう言われた瞬間、背後にいた彼女の周りに漂うマナが暴れ出した。
彼女は何かしらの方法でこの地に集まるマナを取り込めるような体質にしているのだろう。その取り込んだマナは彼女が持っている槍の性能を底上げしていた。もともと彼女は向こうで薙刀をたしなんでいたそうだから、勝手が違うとしても踏み込みながら繰り出される一撃一撃が奴に協力していた高位のゴブリンどもには致命的なダメージを与えていた。
そんな彼女の周りのマナが暴れ出したことでその槍には炎が宿った。ゴブリンたちを一撃で死に至らしめる攻撃に炎が宿る。それだけで本来なら称賛されるべき高等技術だ。でも、僕たちはそんなことを称賛し合えるような状況ではなかった。
「ほぅ…劣等種のくせにそんなことができるんだ。生意気だな。」
僕は一旦距離を取った。彼女を止めるためだ。それを察したのか、森本は斧を振るのをいったん止めて、それを背中に構えて口を開いた。
「さて…そこの男、確かに魔物じゃないな。ここまで戦える奴に魔物は失礼だ。俺たちに従え。悪いことは言わない。お前、魔族のままだと死んでしまうぜ。」
「悪いけど。屍族にこのまま世界を支配させるわけにはいかないんだ。この世界のマナを枯渇させてすべての生命が死んでしまった世界なんて作らせるわけにはいかない。」
「…なんで、俺たちの計画を知っているのか知らないけど、そこまで知ってて反逆するとはただの愚か者じゃないか。仕方ない。お前は殺す。決定だな。で、そこの女。人間のくせに魔法を使えるなんてあいつが知ったら、大喜びする。どうだ?一緒にこんなくだらない人間たちを支配する側に立たないか?こちら側はいいぞ。」
「…冗談言わないでくれない?なんで私があんたたちの仲間になると思ったの?私がここにいるのはあんたたちに!!」
もういてもたってもいられなくなったのだろう。彼女は飛び出した。その様子を見た森本の口元は笑っていた。このままでは彼女は真っ二つにされてしまうだろう。そうなる前に衝撃波を彼女の真上を通りすぎるように放ち、奴の顔面にヒットさせた。ふらついたところに彼女の槍が迫る。瞬時に6回も突き出したことで奴の脚には左右に3つずつ、小さな穴が穿たれた。それらは的確に奴の骨まで穿っており、彼女がとどめと言わんばかりに3回転ぐらいしながら放たれた横薙ぎによって右足の骨は折れ、その穴のあたりから肉を突き破るようにして白いものが飛び出した。
奴はその痛みに耐えきれず、前のめりに倒れた。それでも、無抵抗にやられるのはこいつの矜持が許さなかったのだろう。まだ動く左足を立て、持っていた斧を振るおうと構えていた。そのまま振るえば、彼女の体は確実に斬り裂かれる。そこまで予想できた僕は彼女が交代した瞬間に前に飛び出し、僕は再び剣に風を纏わせた。狙うのはただ一点。守宮さんが作ってくれた突破口だった。
「突き貫け!『タービュランス』!!」
掛け声とともに放たれた一撃が巨人の左足を吹き飛ばした。
軸足を失い、体勢を崩した巨人は地に伏せた。両足からは夥しい出血があり、死ぬのも時間の問題かのように見えた。そんな時にこんなことを言ったのだ。
「わかった…もう降参だ…おとなしく出ていくから命だけは助てくれよ…」
僕は一瞬、何を言われたのか分からなかった。でも、応じるつもりはなかった。でも、その言葉を聞いたのは僕だけじゃなかった。守宮さんはそれを聞き、すぐ前に出てしまった。その刹那、振るわれた左拳。僕はそれを再度『タービュランス』を放つことで弾いた。それの余波で左手はボロボロになったが、奴はにんまりと嫌な笑みを浮かべていた。その直後、右の拳が迫っていた。とっさに防御しようとしたが、間に合いそうになかった。しかし、暖かい誰かの両手が僕を突き飛ばし、僕の耳に届いたのはその誰かが殴り飛ばされ、肉がつぶれる音だった。
僕の視界は真っ白になった。殴られた瞬間の彼女は笑っていた。一度、二度ではないんだろう。こいつはこうやって…ああ。そうだった。こいつは僕を…。
森本は女を殺してしまったことに後悔しつつも、目の前で人を殺され、放心状態になっていた男に向かって残っている右手でミンチにしてやろうとした。しかし、潰そうとした瞬間、こいつを中心にとんでもない魔力が噴き出し、その右手は跡形もなく消え去った。黒髪だった男の髪の毛は真っ白になり、その背中には薄い膜のような翼が生えていた。その右手に持つ剣には先ほど自分の手を消失させた忌々しい光を帯びていた。
「なっ。こいつ…何なんだよ。」
「…森本。キミはこのような手口で何回も危機を乗り越えてきたんだろう。でも、それは今日で終わりだ。もう誰もお前に殺させはしない!」
俺の目の前でそいつはそう言って剣を構えた。




