~康夫(魔族)編Prologue~
『』で囲まれたセリフ部分は念話みたいなものと考えてください。
僕は真っ暗な暗闇の中にいた。両足は全く動かない。呼吸はかろうじてできるが、口からは血が溢れてきた。溢れ出る血液が多くなるほどに体から力が抜けてきた。這って壁に寄り掛かると幾分か楽になったが、体力が失われていく感覚があった。何かが体からせりあがってくる感覚があり、抵抗せずにそれを吐き出した。目が慣れてきて見えた両足はあり得ない方向に曲がっていた。しかも関節がもう一個増えているようにも見える。僕が這った道がわかるような跡があり、僕がいる場所も液体の上のような場所のように感じた。そんな時、僕は遥か頭上から僕を呼ぶ声が聞こえた気がした。動かない体でその声が聞こえたような気がした先に手を伸ばす。視界がかすんできたが、それでも手を伸ばし続けて僕は倒れた。
『このまま終わっていいの?終わらせちゃうの?』
突然聞こえたかわいらしい声に応えようとしたが、もう声も出なかった。
『キミが望むなら、僕が手を貸してあげる。』
『でも、それには代償が必要だ。』
『キミの体はもう朽ち始めた。それを巻き戻すなんてことをすればキミは自我を失う。』
『キミが出さなければならない代償はその朽ち始めた体を捨てること。』
『ボクが払う代償はこの小さき体の抹消だ。』
『ボクは覚悟できたよ。キミの覚悟を見せて。』
その声の方向に手を伸ばそうとする。でも、手は動かなかった。
だから、念じたんだ。『まだ、やりたいことがある。あいつに復讐したいんだ。』と。
『それがキミの生きる希望なんだね。』
『約束してほしい。キミの復讐が終わったら、必ずこの世界に祝福を与えると。』
『ボク1人ではできなかった、妖精たちの亡き想いを継いでほしい。』
『なに。大丈夫さ。キミは妖精の王となるべくしてこの世界に来たんだから。』
『さあ。立ち上がって。我ら、妖精の王『オベイロン』様』
僕は目を開けた。真っ暗で見えないけど、明かりのつけ方はなんとなくわかる。
僕はその本能的な動作で明るい光を発生させた。はるか上に命の気配を感じる。この感じは間違いなく春さんだ。しばらくすると別の強大な魔力を持った存在がやってきた。