~康夫(魔族)編第三章~
今日からは康夫編の第三章です。
今回は長くなりそう。
「…ここが『竜神の里』のふもとなんだよな?」
「そのはずなんだけど…この臭い…」
「肉が焼けた臭い。それと…これは血か?」
「…しかも、この漂い方からしてそんなに時間はたってないと思う。」
僕たちは『竜神の里』があると言われる山のふもとに来ていた。精霊になり、臭いに敏感になった美香はそう言った。しかし、そこは入山規制がかかっている上、あきらかに戦っているような新鮮な血のにおいが漂っていたのだ。ふもとの村では『ゴブリンの襲撃によって壊滅した』という話が聞けたため、警戒していたのだが、その村に続く山道はすでに新しい鮮血で染まっていた。
「これは…ゴブリンの血だよね?」
「人の血ではないのは確かね。でも、この量になると数匹単位じゃないわ。」
山道を上っていくと春さんも気づいたようだった。その臭いは里があると言われる場所に近づくほど濃くなっていく臭い。それは戦闘が起きていることの裏付けでもあった。僕が春さんのほうを向くと彼女もうなずいてくれた。急ごう。緊迫していることは分かってくれたんだろう。それは言葉にしなくても伝わった。
里に入ってまず目に入ったのは多数のゴブリン相手に単騎、武骨な槍を携え、応戦している女性だった。彼女の衣装は血まみれだったが、そんな彼女の顔は見たことあった。忘れもしない、あの高校生活の記憶。僕を守るような立場にいた数少ない女子生徒だった、守宮美弥子だ。彼女がなんで戦っているのかは知らない。しかし、彼女一人で戦わせるなんで僕たちはできなかった。
「美香!後続を薙ぎ払って!春さんは彼女の援護を!」
僕が指示した瞬間、美香はすぐ召喚した真空波で何十体ものゴブリンをまとめて薙ぎ払った。春さんは守宮さんが狙っていたのとは別の固体の首をはね、彼女が『氷の牢獄』と呼んでいる水流を呼び出し、その水を固化させることで飲み込まれたものを凍りつかせる魔法で彼女たちに攻撃しようとしていたゴブリンをまとめて処分してしまった。
僕は出番がなかった。守宮は気力だけで戦っていたのだろう。彼女はゴブリンたちが撤退し始めた時にはもう立ったまま気絶しており、彼女のことを春さんが支えていた。僕たちはそんな彼女を独りにすることなんかできず、その荒れ果ててしまった里で一夜を明かすことになった。
その夜、守宮さんは意識を取り戻した。気絶して数分後には寝息を立てていたのだが、2時間ほど経ったころ、急に悲鳴を上げて目を覚ましたのだった。何があったのかと思い、僕が駆けつけると彼女は槍を構えていた。
「守宮さん!どうしたの!」
「…私をどうするつもり?」
「どうって…何もしないよ!とりあえず、それを下して!」
「魔物の言うことを信じろと?馬鹿も休み休み言いな。私は…私の里と大事な人を奪ったあなたたち魔物を許すわけないでしょう!!」
それだけ言うと彼女は槍を突き出してきた。速く、鋭い一撃。かわすので精いっぱいだった。5回目でその異常に気付いた春さんが持っていたレイピアでパリィし、僕が近づいてその槍を奪っても彼女はこちらに怨念がこもった視線しか向けてこなかった。
「守宮さん。落ち着いて…今まであったことを話し合おうよ。」
「…私が応じると思う?あなたは私の名前を知っているみたいだけど、私は知らない。」
「美弥子。その…私はわかるわよね?確かに角や翼に尻尾が生えちゃって大きく変わっちゃったけど…顔は変わってないと思うんだ。」
「…春?だとしても、あなたたちは魔物!私の里は…あんたたちに!」
「里を襲った魔物がいることなんて知らなかった。僕らはここに別の用事があったんだ。僕は葛飾康夫。あの忌々しい高校生活でキミが助けてくれたことに感謝しているひ弱な男子だ。今もひ弱なのかといわれると少し自信ないけどね。」
効果があったみたいだ。彼女は急におとなしくなった。
「康夫君…うそ…変わりすぎじゃない?」
「え?そんなに変わったのかな?確かに筋肉はついたけど、特に顔は変わってないと思うんだけど…じゃなくて、なんであんな無謀なことをしていたの?」
「…あなたは許せる?わたしたちが丹精込めて作った野菜や保存食が、作った人を殺して奪って食べているアイツらを。私はできなかった。全部駆逐してあいつに…森本に復讐してやるって決めたの。」
「森本?」
僕はその言葉を聞いた瞬間から怒りがわきあがっていた。魔族になれないという理由で僕を殴り、あの場所へ叩き落とした張本人。『復讐』してやりたい奴だ。ああ。落として殺してやるのがいいか?僕を殴って落としたんだ。奴もそんな形で殺してやりたい。
「康夫君…少し怖いよ。」
そう言われ、我に返った。僕のことをみんなが見ていた。どうやら、相当な表情だったのだろう。自分の世界に入っていただけに僕は申し訳なかった。
「…ごめん。話をもどそう。森本に復讐するなら、その動機を詳しく知りたい。僕らが今まで過ごしてきたことを話す代わりに話しても構わない範囲でいいから聞かせてくれないかな?」
そういうと美香が笑った。どうやら、自分の世界に入っている間にその一連のことを話してくれていたようだった。しかも、それは承諾済みだったらしく、恥ずかしさで僕は顔を赤らめてしまった。
「じゃあ、私のことを話すね。」
守宮さんはそうやって口を開き始めた。




