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『この滅び行く世界に祝福を』  作者: 早稲農家
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~克己(竜騎士)編第三章~

 深い森。でも、漂うのは肉が腐ったような腐敗臭。森に入ると感じる澄んだ空気がここには全くなかった。キララちゃんはもう気分が悪くなっていた。


 「これは…長居できそうにないね。」

 「急ごう!キララちゃん、どの方向?」


 キララちゃんはまっすぐ指をさす。私たちはすぐその方向に駈け出した。

 この森に多くいたのは手足が腐ったサルだ。私たちを発見すると奇声を上げてこちらに噛みつこうとしてくる。噛みつかれたら一巻の終わりだ。それだけでこの森の不快感の原因が私たちの体を侵食し始め、この森にいる不死の存在と同化する。

 彼らの迎撃は私の弓だけでは捌ききれなかったが、みどりの『結晶を何もない空間から生じさせる魔法』で私が討ち漏らしたサルたちを的確に処理していた。

 移動しながら、そいつらを倒していると急に空気が軽くなった。もう近いと思った私たちはキララちゃんがまだ指示している方向に一気に駆け出した。


 そこは若葉が咲き乱れる空間だった。新緑の匂い。それはこの森で本来漂っていたはずの匂いなんだろう。ものすごく心地いいものだった。

 

 「誰?ここは人が立ち入っていい場所じゃないわ。」


 そう言ったのはこの空間の真ん中で咲く花だった。彼女の周りには丸まって寝ているイタチとキツネがいた。彼女は一向に顔をあげなかった。


 「殺すなら…殺してみなさい。」

 「よかった。間に合ったみたいね。ちか。」


 みどりの声にちかは顔をあげた。ものすごく驚いている。お花のように見えたのは彼女の髪の毛だった。束ねた部分ががくのようになっていたため、そう見えていたのだった。


 「うそ…やだ…夢でも見てるの?」

 「夢じゃないよ。その子たちと一緒にこの森から逃げましょう。」

 「…できないよ。私、目をつけられちゃったから。」

 「誰に?」

 「あっち側に行っちゃった絵里に。ここを襲えばこの森は屍族の拠点にできるって。ここがあれば、人の集落を襲う起点にもなるから、私をどうしても取り込みたいんだって。」

 「そう…で、あなたはどうしたいの?」

 「どうしたい?」

 「まだその姿で生きたいのか、あんな姿になってここの住人になりたいのか。って話。」

 「あんな姿になりたいわけないじゃない!」

 「なら、逃げましょう。私たちと一緒にね。」


 その時だった。私たちが入ってきた場所から何か不吉なものが迫っていると直感した。

 振り返るとそこには蜘蛛の下半身を持つ見覚えがある顔、複眼とその体色は大きく違ったが、それでもなお残る面影があった、の女がいた。


 「イマノコトバ…ホンキカシラ?」

 

 確かに絵里の声だった。でも、そこには私の友達だったころの絵里の面影は全くなかった。なんといえばいいか、彼女の皮をかぶった悪魔のようにしか思えなかった。


 「絵里。どうしちゃったの?こんなこと、意味ないじゃない!」

 「イミ?アルヨ。ゼイジャクナ、マモノヤ、ヒトヲケセルジャナイ。」

 「…本気で言っているのかしら?」

 「ホンキダヨ。ミドリモ、ナナコモ、チカモ、ナッテミタラワカルヨ。」

 「ごめんなさい。わかりたくないわ。菜々子。下がって。あなたは邪魔。」

 

 私は息をのんですぐ引き下がることしかできなかった。

 彼女の戦闘は派手だった。同時に何個もの結晶体を召喚しては彼女に向けて発射する。たまにその特性が変化し、回転して切り刻んだり、刺さった瞬間、爆発したりするのだ。絵里も糸を飛ばして彼女を拘束しようとするけど、その特性が変化する結晶によってなかなかダメージを与えられてなかった。均衡が崩れたのは絵里が糸を吐けなくなった時だった。彼女は肛門近くにある出糸突起にその結晶を射出し、爆破したのだ。それで糸が吐けなくなってしまった絵里は彼女を捕まえようと近づいたため、もともと仕掛けてあったのであろう、そこに踏み込むと足がとられてしまうような地面に絵里はその6本の脚をすべて突っ込んでしまったのだ。それに気づいて逃げ出そうとしたときにはもうすでに遅く、絵里は彼女が召喚した巨大結晶の中に閉じ込められてしまった。


 「どうするの?これ?」

 「…これに閉じ込められるとね。時限式なんだけど、勝手に砕けるの。」


 私の質問にみどりは答えてくれた。

 つまり、この後、砕ける際に彼女の体も砕けてしまうのだろう。


 「…夜明けまで時間はないわ。私がちかを背負うから。あの子たちとキララをお願い。」


 みどりが指をさす先には地面から抜けたちかと近くで寝ていたキツネとイタチがいた。

 私はうなずき、彼らを懐にしまった後、キララちゃんを背負ってみどりと一緒にその森を駆け抜けた。サルたちは帰り道に現れなかった。でも、自分たちの後ろのほうから声が聞こえたあたり、追ってきていたのだろう。でも、私たちは襲われることなく馬車に戻ることに成功し、村に帰ることができた。


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