~康夫(魔族)編第ニ章~
これで康夫編の第二章は完結です。
次は直樹編の第二章になります。
一歩踏み出すたび、風のマナが体に触れてくる。その中には数日前の悲劇の悲鳴を携えてくる者もいた。私に流れ込んでくる数多の悲劇の光景。私はそれを聞き取り、その中でもあの村の惨劇を詳しく聞いた。それを聞いた私は許す気が完璧に失せた。とくに宇野の野郎は小さい子どもを殺し合わせ、最後まで生き残った子をかみ殺したのだ。ただ泣きわめき、うるさいからという理由で。
「美香?終わったの?」
「うん。でも、まだ終わってない。」
春の魔法で足止めを食らったんだろう。こっちに近づこうとしている奴らが見える。
私は左手の人差し指で天を指す。そこに風のマナを循環させ、直径1メートルくらいの風の球体を発生させる。そして、それを奴らに向けた。
「あなたたちは罪を犯しすぎた。その悲しみの連鎖を断ち切らせてもらいます。」
私はそれを放った。最初はただの突風だっただろう。それでも、道中に転がっていた岩に叩き付けられ、痛そうだったが。しかし、その直後、それがまさか背後からも来ているとは思わなかったのだろう。数体の人狼は空中に打ち上げられた。そして、逃げる間もなく、上から風速60メートルの風が襲いかかり、同時に発生した鎌鼬によってそこにいた人狼たちは細切れになった。
「…とんでもない技ね。」
「『風精霊の息吹』とでも名付ける?」
「お疲れ様。気分はどう?」
「悪くない。むしろ最高だよ!」
私はウインクしながら、春の後ろにいた女の子を覗いた。彼女はこちらをうかがうように見ている。耳はなくなり、頭から生えているが、それ以外はオオカミのような形にはなっていない。両手足がオオカミのようになっているだけだった。
「あなたは大丈夫かしら?」
「…私のことも殺すの?」
「そんなわけないでしょう。怖かったかしら?」
私は彼女の頭を撫でた。気持ち良かったのか頭を撫でている手にこすり付けていた。
「…次の場所、指定してもいい?」
「どうした?」
「…風のマナが語りかけてきたの。悲しい悲鳴を。」
「いったいどこなんだ?」
「ここから北上したところにある『竜神の里』だよ。」
そこは奇しくも克己たちが脱出してから数日たった場所だった。
僕らはローズと名乗るオオカミ少女をどうするかを道中話しながら、焼け落ちたはずの村に飛んで戻った。
そして、一つの異変に気付いた。
村のいたるところに放置されていた死体が一か所にまとめかれている。しかも、何人かの子どもはなぜか別のところに安置されているのだ。しかも、焼け落ちた家屋のがれきは村の端っこにまとめられており、それをオオカミが器用に運んでいるのを目撃したのだ。『何をしてるんだ?』と僕が言うと彼は運んでいた資材を置いた。
「想像以上に早いな。もっとかかると思ったんだけど…船橋さん、元の姿に戻ったんだね。髪の毛が素敵な色に変わってるけど。あ。八神さんは強そうだ。それだけ強かったら、あいつらが全滅したのも当たり前か。目の前の彼はもっと強そうだしね。」
猪俣は僕たちを見てそう言った。
「答えないつもりか?」
「見ての通り。この村の掃除だ。このまま放置されちゃいけないだろ?あの子たちやじいさんばあさんの死体が放置されていてあまりに悲しくなったのさ。だから、群れからはじき出された俺は一人、罪滅ぼしをしていたんだ。」
「…それが罪滅ぼしになると?」
「…ならないだろうな。失ったものは戻んないし。」
「わかってんならいい。遺言は?」
彼は首を横に振った。それを見て僕は剣に手をかけた時だった。
『待ってくれ!』という声とともに男が飛び出していたのは。
「こいつを殺すのはまだ待ってくれ。」
『何のつもりだ?』と僕が問いただそうとした瞬間、ローズが『ウェストンさん!』と叫んだ。どうやら、この村の住人だったらしく、お互い生きていたことを確認し合っていた。彼の言い分はこうだ。『俺は彼のおかげで助かった。でも、妻が逃げる時に追手に襲われ、眠りから覚めなくなった。それが発覚した俺たちはふもとの村を追いだされた。ここで暮らしていきたいが、自分だけでは何もできないから、彼を生かしてほしい。』
僕は認めたくなかった。
「なんで、彼らを分けた?」
「俺が噛みなおし、遠吠えをあげれば、俺の眷属として生まれ変わるからだ。」
「…お前もあいつらと同じように眷属を増やしてるだけじゃないか。」
僕が怒りをあらわにした瞬間、ローズが割って入ってきた。『私からもお願いします。彼を…』なんて言うのだ。僕は剣に手をかけるのはやめ、春たちに出ると合図し、飛んだ。
『一つだけ約束しろ。もう小峰とは手を切ると。』とだけ言って。
康夫(魔族)編第二章
完




