~康夫(魔族)編第ニ章~
「康夫君!あれをみて!」
しばらく飛んだ先にいくつもの煙が上がっているのが確認できた。
僕は春のほうを見た。彼女もうなずく。もう手遅れかもしれないけど、そこを確認しに向かった。着陸した村の跡地は夥しい血が流れた跡と木材家屋が焼け落ちた臭いでひどいことになっていた。この村の跡地に残っていたのは老人と子どもの死体ばかりであった。
「何てこと…」
「…酷いね。」
そう言った時、僕の魔力センサーが生きている反応を捉えた。僕はすぐそこに向かう。春もついてきて同じように何かを察したようだった。そこは焼け落ちた廃屋だった。そこを掘り返すと自分たちより5歳は若い女の子が出てきた。彼女はここに残っていた死体と同じように肩口を噛まれていた。それを見て春は『人狼…明石たちね。』と言っていたのを僕は聞き逃さなかった。
「大丈夫かい?」
そう声をかけるとわずかだが反応があった。亡くなっていた子供たちは10歳以下で老人たちは大体65歳以降だ。その時、春は剣を抜いていた。
「春。納めて。」
「ダメ。彼女はもう『人狼』よ。」
「それがなんなんだ?それだけで生きちゃいけないなんて道理はない。」
「彼女は獣。この村の惨劇を作った張本人に変わるのよ?」
「…一度、そうなったらそういう存在に固定されるだろうね。」
「そうしない自信があるの?」
僕は彼女に『妖精の加護』を与えた。その時、彼女に巣食う獣のような波動を見つけた。この波動をはるか先の峡谷から感じる。間違いない。あいつらの遠吠えを聞けば、彼女は同化する。でも、それを1週間聞かなければ、彼女は大丈夫だろう。だから、その波動を『加護』で抑え込むと同時にその遠吠えを耳にしたとしてもその時、彼女がどうしたいかで『加護』の力が増減するように仕掛けた。もし、彼女がなりたくないと少しでも思ってくれた時は『自我』を失うことなく、独立した存在になる。そうならなければ、引導を渡してあげよう。
「今、僕は彼女に暗示をかけた。あいつらの遠吠えを聞けば、彼女は同化する。たぶん、聞かないってのは無理だから、その遠吠えを耳にしたとしてもその時、彼女がどうしたいかで『加護』の力が増減するように仕掛けた。もし、彼女がなりたくないと少しでも思ってくれた時は『自我』を失うことなく、独立した存在になるよ。」
「ならなかったら?」
「その時は僕が責任を取るよ。」
「…そう。なら、私が連れて行くわ。」
「え?春?そうしたら、奴らが遠吠えした瞬間、一番危険じゃないか。」
「私はあなたを信頼してる。それに。確かにあなたの言うとおり、人狼になりそうだからって理由で殺すのは間違ってるから。」
春は剣を納めた。そして、美香のほうを向いた。
「美香。気を付けてね。待ち伏せされているみたい。たぶん、あなたと私を捕まえるつもりなんだと思う。敵は…5組。番なしが6匹。あとは3匹。この臭いは前に嗅いだからわかる。明石たちよ。あいつらがここに3日前にいたみたい。今はその臭いがこの先、目的の場所じゃないかな。そこから香ってる。」
「香ってるって…そんなに臭いのか。」
「『リリム』ってのはその…男のアレが主食なのよ。言わせないで…」
「え?あれって…」
「勘違いしないで、私はまだそんな汚いもの、一回も食べたことないから。」
「ふふ…2人して顔を真っ赤にしちゃって。ちゃんと言わなきゃ。リリムの主食は…」
「美香。ちょっとお話しする?」
どうやら春のスイッチが入ったようだ。こんなに騒いでも彼女は目を覚まさない。
おそらく、彼女の目覚めも奴らの遠吠えなのだろう。さすがにもう許すわけにいかなくなった。この村を荒らした落とし前をきっちりつけてもらうことにしよう。
「二人とも。行こう。」
そう言った瞬間、2人の表情が変わった。向かうは『風の峡谷』。
人狼どもが涎を垂らして待ち構える地に僕らは飛び立った。




