~康夫(魔族)編第一章~
次で康夫編の第一章が終わります。
「わが羽よ。触媒となりて、彼の者の傷をいやせ!『リジェネレーション』!」
モルガンの傷に船橋が翼と化した両腕を振り、そこから抜け落ちた羽が覆いかぶさり、その傷を瞬く間に癒した。
「おや…少し体が楽になった。キミのおかげかな。」
「ごめんなさい。私は『ハーピー』になっていくのが怖くて思考ができなくなっちゃったんです。そのせいで…救えるはずの命も救えなかった…」
「…大丈夫だ。これが私の実験の失敗だ。彼女の恐怖を取り除いてから実験を行うべきだったんだよ。申し訳ない。」
「なら、榎本は?」
「彼女の場合、適正値が低かったせいもあるのだろう。脳が完全に委縮したうえ、骨格が変化していた。彼女は回復する見込みがまったくなかったんだ。」
「そうか…モルガン。ここを脱出するぞ。立てるか?」
そう言った時、モルガンの私室に春さんが駆けつけてきた。
「モルガン様!資料はこのかばんに入れ…え?康夫君?」
「あ…春ちゃん!」
船橋は春さんに飛びついた。春さんは船橋さんに抱きつかれるという状況になって彼女の自我を取り戻せたことに気づいたようだった。
「モルガン様…もしかして!」
「彼の魔法のおかげだ。さて…研究資料は持ったね?」
「はい。ここに全部あります。」
「よし。彼にそれを見せたら、必ず燃やすこと。ヤスオ君。」
「はい?」
「その資料にはキミの旅にきっと役立つだろうことを記してある。もしなんかメモしたいことがあったら、キミの手帳かなんかに記して肌身離さず持っているんだ。それとここを出たら、南の方角にある『風の峡谷』に向かいなさい。いいね?」
「はい。でも、それは直接教えてくれれば…」
僕は『いいんじゃないんですか』と言おうとした。しかし、俺たちはその直後、水中に転移したかのような状態になった。モルガンが俺たちを水の塊の中から出られないような魔法で拘束し、私室の奥にあった暖炉のほうに移動させたのだと気付いたのは暖炉をモルガンが金網で閉めた後だった。
「私はいけない。ここからはキミたちの旅だ。いろいろなことを教えたかったが、何もできないうえ、こんな世界を救ってくれと頼むしかできない私を許してくれ。」
直後、モルガンは背後からゾンビ兵に剣を突き刺された。ほどなくしてモルガンの口から緑色の血が流れた。遠目からでもわかるあれはすぐ処置しないといけない。
「モルガン!開けろ!まだあきらめんじゃねぇよ!」
「…少年少女よ。大志を抱け。」
モルガンが何かしたのだろう。俺たちがたっている床が上に動き始めた。
「モルガン!モルガン!畜生!開け!開けよ!ちくしょーーー!」
僕は拳を柵に打ち付けた。後ろから嗚咽が二つ聞こえる。僕は泣かないように努力した。泣いたら、この怒りが、憎しみが、復讐心が薄れてしまうような気がしたから。
しばらくすると僕たちは煙突の先端にいた。2人はまだ泣いている。
こんなの、許せるはずがなかった。この件の元凶は絶対に殺してやる。
「…泣いてる中、ごめん。こんなことができるのはだれか予想できる?春さん。」
「ごめんって思うなら聞かないでよ!」
そう言ってこっちを見た春さんは一旦視線を落とし、決意したようにこっちを見た。
「米山君。彼の能力は死体をゾンビにして自由に操る能力だから。」
「わかった。あいつ…あいつらを倒すには力がまだ足りない。移動しよう。」
「そうね…美香。飛べる?」
船橋さんはうなずき、両手を羽ばたかせた。僕と春さんは肩甲骨に木からを入れるようにして飛び上がった。
「行こう。『風の峡谷』へ。」
僕らはうなずき、南の方角にあるという『風の峡谷』 へと向かった。




