~康夫(魔族)編Prologue~
~葛飾康夫(魔族)編~
「うら!立ってみろや!」
「やすぴー。立てないのかい?」
馬事雑言とともに繰り出される腹部への蹴り。クラスにいる女子は見て見ぬふりだ。
クラスの人数は30人。その中で擁護してくれるのはたった数人。両の手で数えられる程度だ。そんな数少ないクラスメイトがやってきた。掃除から戻ってきたタイミングだったのだろう。クラスに入った瞬間、跳び蹴りでリーダー格の和宮大和のことを吹っ飛ばした。
「いい加減にしろよ。こんなことしても全く面白くないだろ。」
「全くよ。いい加減にしなさい。」
蹴っ飛ばした男子、八神直樹とその双子の妹である八神春がそう言った。
そのまま二人は僕の手を取り、立ち上がらせてくれた。
「大丈夫そうじゃないな。保健室って手もあるぞ。」
「大丈夫。そこまでひどくはないから。」
そうはいったものの、せき込んでしまった。腹部に受けすぎてしまったようだ。
和宮はまだ倒れている。そのタイミングであいつ、担任の斉藤が入ってきた。
「おい!大和!大丈夫か?」
「八神に蹴られました。腕が痛い。」
そう答えた瞬間、八神君は斉藤に殴られた。八神君はうまく受け流したのだろう、まだ二の足で立っていた。そして、その双眸で斉藤に軽蔑の視線を送ったのだろう。もう一発殴られた。
「てめえ。うちのエースに蹴りいれて、顧問に対してはその視線か?学校を退学したいなら、そうしてやろうか?」
「その発言。撤回したほうがいいぞ。春が上書き不可能なレコーダーで録音してる。」
斉藤が振り返ると春さんが右手にレコーダーらしきものを見せびらかしていた。それをみるや斉藤の顔はみるみる青くなっていった。前科があるのだろう。
「ほっ・・・ホームルームの時間だ。席に着け!」
話題をそらした。この学校、秀英学園は国内でも屈指の英才高校だ。でも、その中身は腐っており、このクラスは『担任によるいじめ』や『クラスカースト制度』が特にひどかった。だけど、教職員達はそれに対してなにもしない。見て見ぬふりだった。
そんな時だった。3年F組の教室、僕らがいるこの場所だけが突然真っ暗な闇にとらわれ、そこにいた全員がこの世界から消滅したのは。