~克己(竜騎士)編Prologue~
想像以上に長くなってしまった。
私、橋都菜々子は斉藤先生が巨大カマキリを目撃した瞬間に近くにあった木の棒で殴りかかったのを見ていた。それで存在に気付いたカマキリはもう一回殴りかかろうとした先生の木の棒を鎌で弾き、そのままかじりついた。最初は両手をバタバタさせていたが、何かが砕ける音がしてからはほとんど動かなくなってしまった。どこから見ていたのかはわからないけど、近くで見ていた南雲みらいさんと錦戸弥生さんの手を掴んで逃げるように急かした。
いつもは私のほうがパシられているのにこんなことがあるんだと思っていた矢先、もう一体が出現した。まっすぐこちらに向かってきている。それに恐怖した二人は私の服を掴み、引っ張ってすぐ離した。一瞬、両足が浮いた私は踏ん張ることさえもできず、頭から地面にダイブした。痛みをこらえながら、振り向いた先にいたのは巨大カマキリ。しかも、鎌を振り上げていた。私は思わず頭をかばうようにしてしまったが、真っ先に感じたのは痛みではなく上下が反転するような感覚だった。
「え?」
見上げるとクラスの男子である克己君が片手を出していた。彼は視線をこちらに向けていなかった。それもそのはず、その視線の先にこちらを向いている巨大カマキリがいたのだから。私が立ち上がったとき、そのカマキリが左方向に移動していくのを感じた。
「はあ…はぁ。とりあえずしのいだみたいだな。」
「…ねえ。なんで助けたの?」
「はぁ。え?女の子助けるのに理由なんかいらないだろ。」
彼は胸ポケットからタバコを取り出した。それを口に加え、煙を吐き出すと項垂れた。
「ひさしぶりの全力ダッシュだったよ。慣れないことはやるもんじゃないな。」
「そう…タバコは18歳でも禁止されているよ。」
「だな…でも、堪忍してくれ。死ぬ前に一服したかったんだよ。」
「なにそれ。私にも頂戴。」
「お?タバコデビューか?一本だけな。」
私は彼から一本もらい、火をつけてもらって煙を吸ってみた。なるほど。これは美味しいかもしれない。彼は小さい袋を差し出してきた。それを受け取り、私は彼の見よう見まねでその中に灰を落とした。
「そそ。そうやって使ってくれ。ボヤって発見されちゃまずいからさ。」
「それって…煙の時点でダメじゃない?」
「おっと。その通りだな。」
私たちは笑ってしまった。
「橋都ってこっち側じゃないって思っていたよ。勉強精一杯やってたし。」
「こっち側?」
「こういうものはタブーな側って意味。」
彼はタバコを掲げてすぐそれを口に戻し、少しできた燃えカスを携帯灰皿に落とした。
「…私さ。クラスカーストだと最下層だったんだよ。そこから脱却したくてあがいていたの。ふー。でも、駄目だった。どうあがいても最下層は最下層。いいようにあの二人に使われてたんだよね。」
「そうか。さて。そろそろだな。」
彼はタバコをくわえながら、指さした。




