俺と妹と可哀想な壁
本を読んでいると、妹の歌声が部屋の壁越しに聴こえてくる。何故か昭和のロボット物のテーマソングを声高らかに歌っている馬鹿は今が何時かということをしっかりと考えるべきだと思うのだ。お前もう2300だぞ?何なの?馬鹿なの?騒音おばさんなの?
そんなことを考えつつ、壁に蹴りを入れると歌が途絶える。十数秒後、激しい打撃音と同時に壁から足が飛び出てきたのだ。なんだこれ。なんだこれ!!!
足が壁から生えている様子に困惑していると、すっと壁から足が消えていく。その後、壁に空いた穴から、先程よりも明瞭な声が聞こえる。
「兄さん、壁に穴をあけないで貰えますか?」
無言で、近くにあった雑誌を使って穴を閉じる。穴を作ったのはお前だよ、馬鹿。
「兄さん、謝罪を要求します。こんなうら若き乙女の部屋と獣のような兄さんの部屋を直通にするなんて、許されることではありません。」
雑誌が吹き飛ばされ、また穴が元に戻る。どちらかと言えば獣はお前だよお前。俺のほうが乙女だよ、乙女。
心の声を秘めながら、もう一度無言で雑誌を使うが、瞬く間に吹き飛ばされる。
「兄さん、無視しないで貰えませんか?……少し傷付くし。」
聞こえないように言ったつもりなのだろうが、聞こえ易い妹の声に少しだけ苦笑してしまう。こんな風に言われてしまった以上は、無視するのもはばかられるのでこう返す。
「で、謝ったら何を要求されるんだ?」
「そうですね。添い寝などはどうですか?」
獣と例えた人間と寝るのか、お前は。
「さっさと寝ろ、馬鹿妹。」
それだけ言って、再度雑誌を……あれ、吹き飛ばされない?
少しだけ不思議に思っていると自室の扉が開く。
「寝に来たぞ。」
枕を小脇に抱えて、胸を張った妹がそこに居た。何も言えず、口をあんぐりと開けていると、妹は更に付け加える。
「今日はブ……」
手元にあったティッシュペーパーの箱を投げると顔に直撃する。ああ、お前の揺れからして付けてないのはわかるが、言わんでいいわ。
「……何をするんだ、兄さん。折角喜ぶと思ったからやったというのに。」
「妹のそういうものは喜ばないから。で、何だ、マジで寝るのか?」
その問い掛けに頷いた妹は、そのまま俺のベットに横になり、手でマットを叩いて早く来いと急かしてくる。
何だかんだで甘やかしてしまっている自分に少し呆れながらも、何故か厳しく出来ないのだから世の中は上手く行かないものだ。なんてことを思いつつ、妹と寝ることにした。
久し振りの投稿です。ブックマークされているのを見て歓喜って感じです。
あまり長く書く気はなかったのですが、思ったよりも書いていて面白いのでもう少し続けていこうと思っています。そんな感じなので、暫しの間、お付き合いお願いします。