俺と妹と珍しい日
「喜べ兄さん、今日は私が晩飯を作ってやる。」
休日の昼下がり、居間で借りてきた映画を見ていたら、唐突に妹が宣言してきた。このタイミングということは、この映画のせいなのだろうか?
「おい、お前が料理をしても、うちにテロリストが来たりしないぞ?」
「何を当たり前のことを……。兄さん、フィクションと現実の区別は付けるべきだと思うぞ、私は。」
どうやら違ったらしく、頭のおかしい人を見る目でこちらを見てくる。
「で、何を作るんだ?」
「人が隠れられるくらいの大きさのケーキを作ろうと思っている。」
「おい、お前えええええええええええええ!!!!!」
思わず叫んでしまった俺は悪くないと思う。それに驚いた妹が、小さい声で「ひっ」と声を出して後退ったが、気丈にも再度前に出てくる。
「わ、私は兄さんが喜ぶと思ってだな……。」
「普通に作れ!!普通に!!」
そう言って指を突き付けると、妹は眉尻を下げてどこか残念そうに頷いた。最近になって思ったが、俺は妹を甘やかし過ぎてきたのだろうか?
「……で、では兄さん、私は作ってくるぞ?」
こちらを伺うように見ながら、声をかけてきた妹へとこう返してやる。
「ああ、普通の物なら期待しとくよ。」
すると妹は、腰に手を当てて胸を張る。少し偉そうに見えるが、仕方がないから許してやろう。あと、態々胸を強調するのはやめろ。
「任せておけ、私にかかれば兄さんが普段作るものよりも旨い物など簡単に作れるからな。」
ドヤ顔でサムズ・アップしてきた妹から視線を外す。その後にあっちへ行け、という風に手を振ると、妹は台所へと向かっていった。さて、借りてきた映画の残りでも見るか。
その後は、爆発したりといったこともなく、至って普通の音から、料理をしているのがわかる。その音を聞いている内に、徐々に眠くなり、俺の意識は夢の中へと吸い込まれていくのだった。
「お……に……ん、め……ぞ?」
肩を揺すられている気がする。だが眠い。
「おき……キス……ぞ?」
「すまん、それはちょっと嫌だわ。」
妹の声からキスという単語が出てきたせいで、一気に意識が覚醒する。膝の上には妹がこちら向きに座っていて、既にキスをする気満々だったようだ。
「流石にプライドが傷付くぞ、兄さん。」
「プライドなんてのは犬に食わせとけ。で、何だ?」
「飯だ。何時間寝る気なんだ、兄さんは。」
悲しそうな表情から、即座に呆れたような表情をされる。流石の切り替わりだ、凄いぞ、妹よ!
「……わかったから早くどいてくれ。立てん。」
決して重いとは言わずにどくように要求すると、すぐにどいてくれる。祖父母は既に食卓に着いており、こちらを見て微笑ましそうに笑っていた。
「では、兄さん。私の作った物を刮目して見ろ。」
そのまま食卓に着いた時に見たものは、アホのように盛られた米とこれまたアホのように用意された生姜焼きの山だった。俺は次にこう言うだろう。
「量を考えろバカ妹!!!!!」