過去話 俺と妹と下校
「兄さん、一緒に帰りましょう?」
教師が出て行った教室に入ってきて、俺の前にまで来た妹は、家では浮かべない笑顔を顔に貼り付け、そう言ったのだ。妹が、俺と同じ高校に入学して以来、毎日のようにこの猛攻が続いている。クラスに一緒に帰るような友人は居ないのか、妹よ。
そんなことを考えていると、妹は更に畳み掛けてくる。
「まだ不慣れですから、一緒に帰っていただけますよね……?」
上目遣いにこちらを見てくる妹を見た友人がこちらに顔を向け、妹に助け舟を出してしまう。
「おい、妹ちゃんがお願いしてるんだから、帰ってやれよ。ほれ、行った行った。」
そして有無も言わさずに、鞄を渡されて教室から追い出されてしまう。その時に妹が悪魔のような表情をしていたのを俺は忘れない。
「兄さん、良い御友達をお持ちになられましたね。」
そう言った妹に溜息で返事を返してから、鞄を渡すように手で指図する。すると、妹は当たり前のように鞄を渡してきた。
「俺はお前の将来が心配だよ……」
「あら、兄さんに心配されるほど、私はダメ人間ではないですよ?」
「そういう事じゃない、馬鹿妹。」
そんな軽口を続けている内に、下駄箱に着く。そのまま、すぐに靴を履いて外へと出る。既に外で待っていた妹は、こちらを見てからそのまま歩き始めた。それを追い掛けるように小走りで横に並ぶ。並ぶと、こちらを見た妹は楽しそうに笑った。
「アニメでこういうシーン有りますよね。高校っていいですね。」
「いや、大多数はそういうの無いから。特に何もなく高校生活を送っていくから。Do you understand?」
「Ja. Ich verstehe. とでも言うと思いましたか?現に今、それをしているんですから、絶対に高校生の半数くらいは経験していますよ。」
英語を使ったら、ドイツ語返されて悔しい。少し苛ついたが、平常心で当たっていこう。そう、冷静になれ、俺。そもそもこいつは中二病の時に少しドイツ語を齧っただけなんだから!
「だからないってんだろ。俺は今までそんな経験ないし。」
「けれど、今は経験しているでしょう?」
「……」
「無言は肯定と捉えます。ふふ……」
遠慮したような笑い方をした妹を見て何ともいえない、むずむずとした感情を覚えるがそれを我慢して話を続ける。
「そういや、友達は出来たのか?毎日、俺んとこばっか来てたら仲も深まらないぞ?」
「いますよ、勿論。ただ、友人とはあと三年間も有りますけど、兄さんとは残り一年しかありませんから。ね?」
そう言うと、妹が腕に抱き着いてきた。ここ一年位で見れるようになるくらいにまでは育った胸を強く押し付けながら、上目遣いで此方に同意を得ようとしてくる。ほんの少しだけ頬が赤いのは夕日のせいのか、それとも恥ずかしいのかはわからないが、そのせいで少し小そばがゆい気持ちになる。
「……友人もしっかりと大切にしろよ?」
「はい。でも、当面は兄さん優先ですから。」
甘えるように言ってくる妹を無碍に扱うというのは俺には出来ず、こう返すのが精一杯だった。
「好きにしろ、馬鹿妹。」
今回は兄妹の高校時代の話でした。
ギャグ要素無しのせいか、よくある恋愛話のようになってしまいました。あと、兄は口調は外と家で特に変わりがないのですが、妹は弁えた中二病のせいか猫を被りまくっています。因みに、時系列的に過去に飛んだりを繰り返すと思うので、ご了承下さい。