俺と妹とプラモ
日曜日の昼下がり。ゆっくりと流れていく時間の中で、手だけを機敏に動かしているのが俺の妹だ。というか、何をしてるんだ、お前は。
「兄さん、何故こちらを見ているんだ?私に惚れたか?」
「ああ、マイシスター。お前に惚れちまったよ。」
「何を言っているんだ、気持ち悪い。」
そういうネタかと思ったのに全く違ったようだ。妹はこちらに話しかけながらも只管に手を動かし続けている。
「兄さんは何をしているのかを聞きたいのだろう?」
「よくわかったな、お前。」
「兄さんの考えることなど、妹としてわかって当然だろう?」
手の動きを止め、妹はこちらを真っ直ぐと見る。少しだけ鼻の穴が広がっていて、何となくだが小憎らしく感じる。じっと凝視していると、妹はほんの少しだけ頬を赤らめた。
「コホン……で、だ。これを作っているんだ。」
態とらしく咳払いをした妹にプラスチックで出来た腕のようなものを見せられる。しっかりとヤスリで削られているそれをまじまじと見ていると、妹は更に言葉を重ねていく。
「覚えていないか?昔、兄さんと一緒に父さまから作り方を教えて貰ったと思うのだが……?」
少しだけ不安そうにこちらを伺う妹は、普段の傲慢不遜な様ではなく、歳相応の少女のように感じられた。こういう時の妹は可愛い。可愛い、が打たれ弱いせいでこうなるとすぐに泣く。泣かれては困るので、妹の頭を撫でながらしっかりと答えてやる。
「ガンガルのプラモデルだろう?親父に教わったことといえば、プラモデルと蛙に爆竹を積めて吹き飛ばすことくらいだしな。」
そう答えると、妹は嬉しそうな表情をした後に、また咳払いをすると顔を逸らして、手を動かし始める。少しだけ、気不味い空気が部屋を支配する。すると妹がまた話しかけてくる。
「兄さんは、もうやらないのか?昔は喜んで作っていたのに。」
「流石になぁ……。今はゲームのほうが楽しいし手軽だからな。」
「まぁ、私もゲームはするしな。けれど、プラモデルもプラモデルで趣があって楽しいぞ?」
「……考えておくよ」
妹のお誘いには日本人の古代から続く伝家の宝刀である保留を使ってやんわりと断り、席を立つ。そのまま台所に行き、急須に茶葉を入れてお湯を注ぐ。湯気が顔に当たり少しだけ熱い。緑茶独特の匂いが出た所で、二つの湯呑にお茶を淹れて居間へと戻る。
妹はこちらに見向きもせずにヤスリでパーツを削っている。何度も言うが、黙っていれば可愛い。そんな妹の邪魔にならない位置に湯呑を置いてやる。妹は一瞥すらせずに、ありがとう、と言った。
TVの音とお茶を啜る音、そしてヤスリでプラスチックを削る音が延々と続く。日が暮れる頃までそれは続いた。部屋が暗くなってきたので電気をつけると同時に妹が声を上げる。
「完成、だー!」
その声に少しだけ驚き、背を震わせると、妹がこちらに完成したプラモデルを見せてくる。まるで褒めろと言わんばかりの様子でこちらを伺う妹を見ていると、心が何となく安らぐ。多分だが、この妹が次に言うのは確実にこの雰囲気をぶち壊すものなんだろうなぁ、などと考えていると妹が口を開く。
「どうだ、兄さん如きにこの出来のものは作れないだろう?」
本日二度目になる平手が妹の頭部に直撃した。




