1章【getaway】
一面に真夏のような青々しい深緑の木々がたちならぶ。空もまたそれに負けじと快晴極まりないのだが、その日和の中、中心にある木組みの家の前には物々しい雰囲気が漂っていた。
ショコラティアの声に反応する逆立った金髪の男はゆっくりと歩を進める。
「おいおい、俺は『魔女の家を襲え』としか言われてねぇんだが……何でこんなところにアンタがいるんだ?」
ぼそぼそと疑問を口にする男は片手に掴んだ狐の頭部を真横に投げ飛ばした。
それを見た東の魔女シュウキは殺意の眼差しを向けると同時に、全身から赤黒いオーラを放出している。
「聞きたいのはこちらだ、黄の王エルキア。なぜ貴殿はここにいる」
エルキアと呼ばれた男はその金髪を掻きあげるようにいじりだす。
「こっちは見ての通りさ、ゴディバルトのお偉い様方に雇われてなぁ。地球にいる魔女二人を殺せってさ」
どうやら敵国にこちらの手を読まれていたらしい。
森の木々が風に揺れる中、それに反比例するように場の空気は硬直していた。
「ゴディバルトに雇われた…?引いてくれる……わけはないか」
「まぁ、報酬も貰っちまったからなぁ。何もしねぇって言うんなら、アンタは見逃してやってもいいんだぜ?管轄外だしな」
「戯言を……魔女を襲うと知っていて、はいそうですかと引くわけがない」
「面倒くせぇな……まぁ、たとえ相手が白の剣聖だったとしても、引くことはしねぇが」
そう告げるとエルキアは片足を下げ、大きく腰を落とした。それはまさしく臨戦態勢。腰に備えられていたもう一つの円形の武器を取り出すと目付きは一変する。
その刹那、ショコラティアはこちらに振り向くことなく呟く。
「カグヤ、絶対に出てきてはダメ。いざとなったらニャットと二人でガルロッテに向かって。あとはトッポがなんとかしてくれる」
「お前、そんなこと……!」
カグヤの呟く間にショコラティアは右腰の剣をゆっくりと引き抜き、ぶんと下に払った。
「アンタもやる気満々じゃねぇか!それじゃあ見せてもらうぜ、剣技の頂をよォ!」
その言葉を放った瞬間、魔女やリザードマンが動く前に二人の剣は交じりあっていた。
激しい連撃の打ち合いの中、エルキアの、おそらくドライアーツの姿が変化しているのがわかった。
「おい猫、あの丸い武器、外側に何本も刃が付いてるように見えるんだが……」
「あれはエルキア様のドライアーツ、『獅子円刃』ニャ。見るのは初めてニャけど……」
まるで丸いチェーンソーのように回転をかけながら素早い攻撃を見せるエルキア。
対するショコラティアは、火花を散らしながらもそれを正確に流しては自らの剣を打ち込む。
一瞬遅れをとった魔女とリザードマン達の攻防も開始され、突撃するリザードマンに二人は魔法陣のような紋章を宙に描き、ビーム兵器の砲台のように連射を続け、辺りには砂けむりが舞い始めた。
魔法による爆風が部屋の中に流れ込み、思わず手でそれを防ぐ。
「俺達には何もできねぇのか猫!」
「リザードマンにすら丸腰のお前じゃ歯が立たないニャ!黙示録の使い手ニャらなんとかするニャ!」
「なんとかって……」
黙示録とか言われてもこれはただのスマホだ。なんの兵装も特殊機能も搭載してない。
しかし俺にすがるものはそれしかなかった、管理者ページを開き、ギルフォードの書き残した小説を読もうとする、が、
「ストーリーが、変わっている?」
そこにあったのは少年と白の少女の出会いの物語だった。それは確かに同じように見える、しかし初めて見たものと比べ圧倒的に文章が少ないことに気づいた。
「どうなってやがる!」
その上、そこに記録されていたのは黄の王と戦い、無残にも敗北する白の少女の終末だったのだ。
「まさか、この小説は……この現実が反映されている…?」
信じられないことだが、仮にこれが現実だというのなら彼女の命が危ない。
それを思えば思うほど、カグヤの中でそれは確信へと姿を変える。
「話を、変えなくちゃ……」
何か、何かないのか……。
何か俺にできることは。
何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か何か。
その思考回路の中でカグヤは一つの可能性に行き着き、ニャットの方へ向き直る。
「おい猫、ドライアーツって誰にでも、どの種族でも顕現できるって言ったな」
その言葉にニャットの耳と尻尾は真上にぴんと伸びて、カグヤの言うことを直感的に理解したようだ。
「お前、ドライアーツを使ってこの状況を打破できると思ってるのニャ…?」
「このままじゃ、ショコラティアが危ない。今は説明できないけど……猫、やり方を教えてくれ」
これが正解なのかという確証など元より持ち合わせてはいない。ただひたすらな自分がいて、何もできないで終わってしまうかもしれない、そんな時に何もしないで諦めるのは、後の自分を苦しめると感じるから。
今やるべき事は『抗うこと』だと思えるからだ。
俺の目をまっすぐに見たニャットは歯をかみしめ、木張りの床に爪を使って魔法陣を描き始める。
「こんな即席の魔法陣でどうなるかわからニャいけど、我慢するニャ」
「悪いな」
「謝るんじゃないニャ、気持ち悪い。でもニャ!」
床から爪を離し、その人差し指をカグヤの胸に突き立てる。
「今はお前に賭けるしかないのニャ、申し訳ない話ニャが、ニャットには何もできないのニャ……」
しょんぼりとうなだれるニャットの目には悔しさの念が溢れ、床を濡らした。
そんなニャットの肩をカグヤは、ぽんと叩き、任せろと一言言い、魔法陣の上に立った。
ごしごしと服の袖で目を拭うニャットは心機一転、呪文を復唱するように告げ、カグヤもそれにうなずく。
「いくニャよ、グソクムシ!」
「減らず口が!」
「「我、内なる力を欲する者。自らを供物とし、その代償とせん。願わくば生に抗う望みを与えよ。我が器を満たす糧となれ!」」
呪文の発動と同時に魔法陣は輝き、轟音と共にカグヤの周りは眩い光に包まれた。
目を開いた時、そこは魔女の家ではなかった。辺り一面が白の空間になっている、ただそれだけ。
「呪文は成功したのか?」
どうやら意識はしっかりしているようだ。自分の体を触って確かめてみるも、何の変化も起きていない。
「もしかしたら失敗したのかも……いやいやいや、ここでくよくよしたって仕方がねぇ。ってか、こんなんだったらあの猫に色々聞いてからやるべきだったか」
頭を乱暴にごしごしと掻き回し、カグヤは一人の空間を彷徨う。
白い空間には微塵の音もなく、自分の声すら反響しない。もしかするとここに限界はないのかもしれない、まるで宇宙のような。
「……どうすりゃいいんだよ」
「お困りのようだな」
自分の後ろから飛んできた違う言葉にすかさずカグヤは振り向く。
そこにいたのは無の白銀空間に相応しくない黒い人影、それも思ったより近くに。
「お前は……誰だ?」
「知らねぇでこの世界に来たのかよ竹井カグヤ」
「なんで俺の名前を……」
「それはそうだ、俺はお前で、お前は俺なんだから」
どこかで聞いたような声に腕を組み首をかしげてみせる。
「まぁ、それはおいおい理解できるさ。それよりお前、『力』が欲しいんだって?」
まるで俺の全てを見透かしているように質問してくる影。クスクスと笑っているようにも見えるが、そうでないようにも見える。
そんな影の質問にカグヤはふっと現実世界の事を思い出す。
「そうだ!ショコラティアが危ないんだ!」
「ショコラティア・ビタニア・リリメイジ・ガルロッテ皇女殿下、か。チョコも不運だよなぁ」
「チョコ?」
「あ?……あぁ、知らねぇのか。俺が付けたあだ名だよ、ショコラティアなんて長ったらしい」
その影は腕で頭を掻きながらつぶやく。
どうやら現実世界のことまでお見通し、と言ったところだろう。
「どうしたら……お前の言うチョコの運命を変えられる!」
「運命を変える、かぁ……。それで俺とドライアーツの契約に来たんだろ、お前?」
そう、ドライアーツと呼ばれる人の中に宿る内なる力。その者の中にある真意が具現化した武器。それを求めてここまで来た。それがあれば黙示録の内容が変わる……かもしれないから。
「ほう、スマホのこと、ちゃんと黙示録だと認識できたか」
「お前、スマホって!?まさかお前……お前がギルフォードなのか!?」
「アハッハッハ!……いや、すまん、けどな勘違いもいいところだぜ。言っただろう、俺はお前だってな」
これまた読心術だろうか、すべての質問をうまく受け流されてしまう。片手をついてその影は立ち上がりその指のようなものを俺の胸元につきたてる。
「それじゃあ、お前の代償を聞いてやろうか。知ってるだろうが、この代償によってお前に与えられる力は変動する」
「俺の、代償……」
「まぁ、代償と言ってもドライアーツが不要となればそれを返すって決まりだからな」
「支払った代償は戻ってくるのか?」
「いわゆる担保ってやつだ。その時までお前にその価値があればの話だがな」
価値というのはおそらくは『命』のことだろうと、俺の中にはなぜか確信めいたものがあった。
一体何を差し出せばいいのか。目か、腕か、それとも………。
「俺の代償は………」
「あと一つ」
「え?」
お喋りな影の言葉に自然と変な声が出てしまった。
「この空間には何度か来ることになるだろう。現状を理解し、今の状況で必要なモノを考えろ」
「今の状況で必要なモノ………」
カグヤは再び腕を組み思考する。
そして一つの回答を導き出した。
「俺の代償は『足』だ」
「なぜそう思う?」
この影はおそらく分かっているのだろう、俺が一体何を考えているか。
「あの状況を変えるために『逃げる足』が必要だと思ったからだ」
「なるほど、戦略的撤退ってやつか。悪くない」
そう言うと影は立ち上がりその指を俺の胸元につきたてる。
「先に言っておくが、ここに来れる限度は三回だ。ドライアーツって言うくらいだしな。もちろん、三回分の契約を一回で済ませることもできる」
ドライアーツのドライとはドイツ語で『三』という意味をもつ。まったくこの設定を作ったギルフォードの中二心といったら。
「わかった」
「よし、これで契約は完了した。せいぜい頑張るんだな」
影が言葉を放つと辺りの白銀空間は光り始め、その光は俺自身も飲み込んでいく。
「チョコのこと、頼むぜ」
影のつぶやく言葉の意味は理解できなかったが、俺はただ、任せろとだけ言ってその場から消滅した。
暗転した視界に差し込む光と、全身に伝わる地鳴りに現実世界への帰還を知らされる。
ゆっくりと目を開くと目の前には心配そうに俺を見るニャットの姿があった。
「よぉ猫、戻ったぜ」
「契約は成功……したようニャね」
床に伏していた体を起こす俺の目を見てニャットは安堵のため息を漏らす。
「どうやらそうらしい」
自分の中にある新しい次元の可能性を俺は感じていた。これがドライアーツってやつなんだろう。
「状況は?」
「正直、あまり芳しくないニャ。エルキア様の獅子円刃の機動性が予想以上で姫様は防戦のままニャ」
「そっか……けどまぁ、あとは任せとけ」
そう言ってカグヤは立ち上がり、その目を閉じる。
知らないのに全て分かる。ドライアーツの鼓動のようなものが。
「我の名の元に顕現せよ、この器を満たす糧となれ!」
言葉とともにカグヤの足元には灰色の翼が一瞬現れ、その姿を消した。
「ステルス機能付きなのか?いや、今はそれどころじゃねぇか」
カグヤは床に置かれた魔導書の切れ端を片足で大きく踏み付ける。するとそこから淡い光が放たれ、すぐに収束する。
「何をしているニャ?」
「魔導書のデータをコピーしたんだ。細かい説明は後にしてくれ!お前はこれを使って先にガルロッテに行け、俺は全員を連れていくから向こうで合流する!」
「おい!竹井カグヤ!」
ニャットの言葉を聞くより前にカグヤは玄関を飛び出し戦場へと繰り出した。
俺の背後からは青白い光が放たれている。おそらくニャットは俺の言う通りにガルロッテに向かったのだろう。あとは俺の仕事だ。
魔女の家前の戦場にはリザードマンの鉄臭い血で溢れかえっていた。
「おいチョコ!待たせたな!」
「カグヤ!?なぜ出てきた!」
思わずチョコと呼んでしまった、あいつのせいだけどショコラティア自身は俺の声に気づいたようだ。
しかしエルキアの獅子円刃はワイヤーでヨーヨーのように変幻自在の攻撃を繰り出している。おそらくニャットの言っていた『想像以上の機動性』ってやつだろう。
「チョコ!シュウキにバルバラ姉さんも!一旦退け!ここから離脱する!」
「カグヤ君、さっきの光は!?」
「ニャットは先に離脱した!三人とも今は俺の言う通りにしてくれ!」
「しょうがないわね!」
バルバラは巨大な魔法陣から粒子砲を放つと後ろへと後退してくる。ショコラティアも一瞬をついてエルキアの体勢を崩した刹那、大きく後ろへ飛んだ。しかし、
「シュウキちゃん!」
「私は……残る……こいつら………ぶっ殺す…」
全身に巻かれた包帯はいつの間にか彼女の赤黒い髪のように染まっている。返り血だろうか。
「ダメよシュウキちゃん!戻って!」
「シュウキ様、撤退を!」
バルバラやショコラティアの声に耳を貸さず、シュウキは生み出した使い魔とともに戦い続ける。
「なんだよなんだよ、俺様が簡単に逃がすわけねぇだろ!」
一方のエルキアも砂を巻き上げながら切りかかりに来る。が、シュウキが放った魔法によって周囲は黒い霧に包まれた。
「クソッ!東の魔女がぁぁぁぁ!」
「行け!黙示録の担い手!」
シュウキの今までにないはっきりとした声にカグヤは片足で大きく地面を踏みつけた。
カグヤの足元を中心に魔法陣が形成され青白く輝きだす。
「待ってシュウキちゃん!」
走り出そうとするバルバラの腕を掴み止めたのはショコラティアだった。
「いけませんバルバラ様!これ以上は……」
光の間から見えるのは黒い霧を一掃するエルキアと、リザードマンを掃討し怒りの矛先を彼に向けるシュウキの姿だけだった。
俺を中心に異次元空間に入ると、ショコラティアとバルバラは気が抜けたのかその場に崩れ落ちる。
「なんで……なんで、シュウキちゃんを助けなかったの?」
彼女の泣きそうな声の中には悔しさ以上に怒りの感情がこもっていた。
「あいつは魔女を殺せって命令されていたわ!シュウキちゃんがタダで済むはずがないじゃない!」
「バルバラ様、あの状況で退路を確保できたのは、後にも先にもあの一瞬が最後でした」
「アナタが一番よくご存知でしょう……?七色の王は王にしか倒せないって…」
「………」
ショコラティアは剣を鞘に収めると、俯き黙り込んでしまった。
詳しい事情こそ分からないがさっきの選択をしたのは紛れもない『俺』なのだ。それでいて、彼女の目をまともに見ることができない自分の意志の弱さがなんともいたたまれない。
「シュウキ様もタダでやられるとは思えません。きっとどこかでまた会うことができます、ですから今は……」
「分かってるわよ……」
長い服の袖で目元を拭うとバルバラは立ち上がりカグヤとショコラティアの方に向き直る。
「約束した通り、任務にはあたらせてもらう。でもね、アナタ達と一緒に行動はできない」
「……そう、ですか」
「いいのかチョコ!?またこんな事になるかもしれないんだぞ!」
押し黙っていた俺もさすがに意見する。しかしショコラティアもバルバラも顔をうつむかせて悔しさを噛み締めている。
「それは仕方がない、カグヤも精一杯やった。その結果でしてもこうなってしまった。私にバルバラ様を止める権利はない」
「けど、さ……」
俺達の口論を静かに聞いていたバルバラは取り繕った笑顔を見せて、
「ありがとうございます、姫殿下……」
その言葉とともに空間は再び光だした。
光が弱まり、この世のものとは思えないような異臭が漂う。
「着いたみたいだな……っ!」
転移した大地で目を開いた時、そこにあったのは皮膚が焼け落ち、苦しみの表情をする死屍累々の山だった。
山積みになった人々に火を点けたのだろう。未だにところどころで燃えている箇所が見える。
「こんなのって……」
一足後ろに退くと足元でぴちゃっと水音がする。それを見た途端、俺は口を抑えるのが間に合わず、その場に逆流した胃液を吐き出した。
「カグヤ、大丈夫?」
ショコラティアの言葉さえ耳に入らないほどの恐怖が俺を襲っていた。足元にあったもの、それは先ほどの死屍累々から流れ出た鉄臭い血の池と故意に引きずり出されたような臓物だったから。
「うぐ……なんなんだよ、これ」
「おそらくガルロッテの貴族や民衆。見る影もないほどに焼かれてしまったけど」
一気に吐き散らした分、出すものがなくて気持ち悪さだけが俺の中に渦巻いている。
「どうやらこれはただの征服戦争ってわけじゃないみたい」
その屍の山の向こうには曇天の中たたずむ巨大な城、ガルロッテ公国の象徴であるガルロッテ城があった。どうやら転移先はその城壁外だったらしい。
「さっきの話の通りならニャットが先に着いてるはず」
「あぁ、それは間違いない」
俺は口についた胃液を拭いながら答える。
「それと、カグヤ」
改まってこちらを向きショコラティアは不思議そうな顔で話し出す。
「さっき私のこと『チョコ』って呼んだ?」
この状況でその事ですか。
「あぁ、あれは何て言うか……」
「私のこと、ガルロッテに住む者達はみんなそう呼ぶの。チョコとかチョコ姫とか、何でかな?」
どうやらあのお喋り影野郎だけではなかったらしい。しかしそうだとするとあの影はガルロッテの人間、あるいはそれに近しい人間のはずだ。
うーんと考えるオレのことを見つめるショコラティア。どんだけ興味あるんだよ。
「多分だけど、ショコラティアのスペルが関係してるんじゃないか?」
「スペル?」
「だって、英語……って言っても分かんないかもだけど、その文字で書くとこうなる、と思う」
そう言って俺は少し移動した土の上に『chocolatia』と書いて説明する。
「偶然かどうかは分かんないけどショコラティアのスペルの前半が『choco』だからチョコなんじゃないか?」
「ふむ……そういう事なのか」
まじまじと字を見つめるチョコ、もといショコラティア。そんなに気にすることなのだろうか。
「チョコって」
「そう、俺が持ってたあのお菓子と一緒の名前なんだよな」
小難しい顔をして考える素振りを見せる俺を見てショコラティアはふっと笑った。
初めて見たのはチョコレートをあげた初対面の時だった、今回が二回目。
「落ち着いた、かな?」
「えっ?」
そういえば気持ち悪さや胸焼けが治まっていた。今さらになってショコラティアが俺の緊張感を和らげてくれていたのに気づく。
「何て言うか……さんきゅ、チョコ……ってこの呼び方はやめた方がいいか?」
「いいよ別に。そっちの方が落ち着く」
「……そっか」
頬が緩む俺を見て、ショコラティア改めチョコはガルロッテ城を見つめる。
「バルバラ様は既に行動を始めてるから、私達も続かないと」
思えば先ほどからどこにもバルバラの姿はなかった。どうやらそういうことらしい。
「分かった。やれるだけのことはやるさ」
「うん。……じゃあ、行こうか」