1章【cooperation】
山の中を歩き始めて随分時間が経った。魔女の家まではおそらくあと一時間ほどはかかるとのこと。さぞかし隠居生活を謳歌しているのだろう。
それもこれも、時は三時間ほど前にさかのぼる。
遠い宇宙のある星に、ガルロッテ公国という国があった。ガルロッテ公国はその星を統括する四つの国の内、最も大きな国であり、一切の戦闘行為の廃止を世界に呼びかけ、公国歴百八十年にして他国との不可侵条約を締結させる。
だが公国歴二百二年、その平和に終止符を打つかのように第二の権力を持つとされるゴディバルト帝国の『革命軍』と呼ばれる軍隊によって侵略を受けたのだ。
奇襲とも言えるこの侵略にガルロッテ公国は劣勢を強いられ、混戦の中、皇族でありガルロッテ国王の嫡子である、皇位継承権序列第一位の皇女、ショコラティア姫は侍女長トッポの計らいで、彼女の知人の魔女がいる地球へと送られたという。
長い説明になったが、聞いた話は以上だ。つまるところ亡命ってやつだろうか。
ひとまずは、その侍女長の知人という魔女のお宅に突撃してご飯でもご馳走いただきたいわけだったのだが、あいにく俺とガチホモリザードマンのせいで転移座標が少しずれたらしい。心底申し訳ないとは思っているが、アレはわざとじゃないし、むしろ俺は被害者だと主張させていただきたい。
「ショコラティアさん、まだ着かないんですかね?」
「気安く姫様の名前を呼ぶんじゃないニャ、このヘタレゴミ虫!」
「なっ……!」
このニャットとかいう猫もどきとは犬猿の仲、いや人猫の仲と言ったところだろうか?なんにせよとにかく馬が合わない。
「じゃあなんて呼べばいいんだ?」
「ショコラティア皇女殿下と呼ぶがいいニャ。ゴミ虫に姫様の名を汚されるようで虫酸が走るニャ」
「ニャット、私はそんなに気にしてないけど」
ワイワイと(主に俺とニャットが)騒ぎながら進む道中で、俺は姫殿下様を見てふと気がつく。
「あれ、そういえばさっきのレイピアはどうしたんだ?」
よく見てみると赤いマントの下にその姿はない。忘れてきた、とか?
しかし俺の疑問を解消するように、鼻息で笑いながらクソ猫もどきが説明する。
「まったく、これだから無知な唐変木は」
「誰が唐変木だ、誰が」
「あのレイピアは姫様の『ドライアーツ』に決まってるニャ」
「ドライアーツ?」
思わず聞き返してしまった。俺の中の中二心が揺れたことは否めない。
その反応を見てニャットは鼻高々といった口調で説明を続ける。
「ドライアーツとは、どの種族にも与えられる武器の総称ニャ。誰でも発現させることはできるニャ、でもその形状はそれぞれに異なるのニャ」
「例えば、ショコラティアさんのそれがレイピアであるのもたまたまってことか」
「気安く呼ぶんじゃないニャ。けどその通り、必ずしもそれが武器とは限らないのニャ。でもドライアーツを発現させるためには条件があるのニャ」
「条件?なんなんだ、もったいぶって」
少々口ごもるニャットだったが意を決するように告げる。
「ドライアーツの発現条件、それは代償を払うことニャ」
「代償って……どんな?」
「それは……発現させる本人の『なにか』ニャ」
ためらった原因がそれですか、ニャットさん?なんだかちんぷんかんぷんってやつだ。
「例えば、自らの身体の一部。腕とか足とか、まぁ色々ニャ。その代償が大きければそれだけドライアーツは強力な代物になるってわけニャ」
「そうか……じゃあ聞くけど、ショコラティアは何を支払ったんだ?」
その一言を放った途端、場の空気は一瞬固まった。
鈍感王とか言われた俺にもわかる、地雷踏んだのかもしれない、スキップ感覚で。
それを聞いて、ショコラティアはこちらに振り返り、真っ直ぐな赤い瞳を向け話し出した。
「私の代償は、他の人達と違ってイレギュラーなの」
「イレギュラーって……心を売ったとか言い出すんじゃないだろうな?」
明るい雰囲気作りをしようとするが、それもまたニアピンだったらしい。
「それは半分正解かな。私の代償は『罪』、『七色の王』に生まれた罪、存在そのものが罪。……つまり私の全てを支払った」
「全てって……」
そんな俺の言葉にさえ、表情をそのままに、全く動じることなくショコラティアは語る。
「私の持つべきだった全て。この先の未来……輪廻転生の法則があるとするなら来世さえも、それに当たる」
『一生』だけじゃない。自らの『全て』を賭して彼女はこの世界を生きている。たとえこの世界の永遠の呪縛に捕えられたとしても、それを苦と思わないだけの信念が、彼女の中にあるのだ。
このタイミングで俺は、ショコラティアが先ほど零した言葉を思い返す。
「そういえば、七色の王って……」
「雑種、もう止めるニャ。それよりアレを見るニャ」
「誰が雑種だっつーの」
ニャットに言われるがまま彼女の指さした方向を眺める。
歩いてきた獣道の向かう先には木々の間にひっそりとたたずむ、なんともバーベキュー場によくありそうな木造のロッジがあった。意外と簡素な造りなのね、魔女宅。
「ここが東の魔女、シュウキ・ココノミヤ様の家ニャ」
「東の魔女の家……」
これからまもなく到着する魔女宅にお邪魔するわけだが、俺の中にある『魔女』のイメージというものがこの世界においてどこまで通用してくれるのか、その事しか考えられない。
言い忘れていたが、今回の地球へ来た目的は大きく分けると二つ。一つは、東西にいるというそれぞれの魔女の協力を得ること。もう一つは、前者をクリアした上で、ガルロッテ公国を救う方法を思案し、再び戦地に戻ること、である。
「着いた…」
この世界のことにおいて知識皆無な俺は、二人にくっつくただの腰巾着といったところか。まったく泣ける話だぜ。何はともあれ、ここは二人に任せるとしよう。
正面の玄関らしき扉の前でニャットは大きく息を吸い込み、一言。
「ご、ごめんくださいニャァァァア!シュウキ・ココノミヤ様ァァァァァア!いらっしゃいますかニャァァァァァア!!!」
思わず耳を両手で塞いでしまうほどの大音量。今どきの小学生でもそんなことしねぇぞ。
「おおい、いきなり人様の家に向かって地響き起こすレベルの声あげてんじゃねぇ!」
「だって、初対面ニャし……ここはビビってないアピールをしニャいと…」
「ただの人見知りじゃねぇか!」
よく見るとニャットの顔は真っ青だし、声もガタガタと震えている。やっぱ猫でも人見知りするんだな、ざまぁクソ猫もどき。
そんな事とは関係なく、入口の扉はゆっくりと開いた。
「シュウキ様、お久しぶりです」
ショコラティアの淡々とした挨拶にこちらも我を取り戻す。
彼女の向こう側を覗いてみると、これまた小さな、片目に眼帯のように包帯が巻かれた子供が一人たたずんでいる。
見れば片目だけでなく、腕や足まで全身あらゆるところに包帯が巻かれている。ふざけるところでないのを承知で言うが、中二精神が発狂しそうです。
そんな俺の心情とは関係なく、子供はおもむろにこちらを指さした。
「……お前が、黙示録の担い手、だな?」
「ん?あ、あぁ、どうやらそうらしいな」
声ちっさ!?思わず耳を澄ましてしまった。ここでの行動一つ一つが死亡フラグ直結だからな、注意せねばなるまい。
「……まぁいい…事情はトッポから聞いてる。……入って」
どうやら、公国の侍女長様が手筈を整えておいてくれていたらしい。
俺達は魔女の導かれるままに木造建築の魔女宅の玄関をくぐる。
中もいたって平凡。大きな鍋やら錬金術の本が大量に詰まった本棚があるわけでなく、生活感あふれる家具の数々がほどよく並んでいる。ほんとに隠居生活をしているのだろうか?
中央に設置された大きめのテーブルを囲むように椅子が五脚、促されてそのまま着席。
「竹井カグヤ……だったか」
「えっと、はい。竹井カグヤ、十八歳です」
「私は、シュウキ・ココノミヤ。……シュウキでいい……歳は、七百と八歳…」
「ぐっ……!」
なんで苦しそうに胸を抑えて悶えてるかって?中二心がえぐられるように締めつけられるからだよ!こういうの大好き!
まったく、一瞬精神崩壊しそうになったがなんとか堪えたぞ。この世界の普通に慣れねば。
シュウキといったかこの魔女。子供の見た目と声、ボサボサとした赤黒い短めの髪、男か女か判別できん。
「私は……女」
「えっ?」
まさか、この御方って。
「おいグソクムシ、シュウキ様は読心術を得意としてるニャ、隠し事なんてもってのほかニャし。洗いざらい吐くといいニャ」
「読心術ってレベルじゃねぇだろこれ!」
もはや心の声を一言一句聞き取っているかのような、不思議過ぎて不用意な思想も持てない。
「そんなに、構えなくていい。……それで、皇女殿下……用件は?」
静かに、というよりギリギリ聞き取れる声量で話しかけるシュウキにショコラティアはすんなりと応じる。
「我らがガルロッテ公国がゴディバルト帝国の襲撃を受けたのはご存知でしょう。表向きは帝国側の侵略、しかしこの襲撃には何か裏がありそうなのです」
「裏………ですか」
「はい、東の魔女であるシュウキ様にはその諜報活動とともに、私たちにご助力いただきたい」
淡々と語るショコラティアの目には、悔しさのような感情があらわれている……ような気がする。
対する東の魔女っ子様は片手を顎に当て考えるそぶりを見せる。
「バルバラには……もう会ったの?」
バルバラ?はて、新しい人物名出てきちゃったよ。どうしよう、覚えられるかな?新入りのサラリーマンの気分だわ。
隣に立つニャットに疑問の表情を見せると、頭を抱えて、やれやれといった顔をされたが耳打ちで教えてくれた。
「バルバラ様は西の魔女のことニャ、シュウキ様とは昔からの馴染みだとか」
「なるほど、西の魔女か。それならまだ会ってないけど、何か問題があるのか?」
俺の言葉を聞いてシュウキは『そう』と告げてどこか遠く、というか自分の直上を見上げる。
その目線を追って俺を含め三人も上を見上げてみる、が、もちろんそこには丸太のような木製の天井があるのみ。
しっかし、さっきから風の音だろうか、『ゴォォ』という謎の音が室内にまで響いている。まさかと思うがさっきのリザードマン先輩達じゃないよね?
「……来る」
「えっ?」
シュウキのボソッとした呟きを聞き返そうとした、その時だった。
「シュウキちゃぁぁぁぁん!」
声がしたと同時に、木造の屋根をぶち抜いて黒い何かがシュウキの元へと降り立った。
「久しぶりぃ、会いたかったよぉシュウキちゃん」
「……久しぶり……バルバラ」
ん?バルバラって……
そこで気づいたようにシュウキは抱きついてくる女性を引き離そうとしながら話し出す。
「こちら、バルバラ・フォン・ノースフィリア。……西の魔女」
「え、西の魔女様ニャ?」
ポカンとした表情をしながらニャットは女性の方を見る。確かに探す手間が省けたけどさ、手順ってものはねぇのか?RPGとかだったらクソゲーだぞこれ。
「ハァイ、どうもバルバラ・フォン・ノースフィリア、西の魔女でーす。よろしくね、カグヤ君」
いきなり自己紹介して口元でピースしてますね、いやこれ可愛いわ、お姉さん反則ですわ。
全身を真っ黒なローブで覆い、頭にはトンガリが折れ曲がった帽子。いかにもな魔女装束といったところ。
その上、胸元が若干開いており、そこから見える桃源郷は今までに見たことないほどの特盛りである。けしからんけしからん。
「それで、シュウキちゃんから話は聞いたから大体の事情は分かってるけど……アタシは何をすればいいのかしら?」
「協力していただけますか、バルバラ様?」
「はい、皇女殿下。トッポにはお世話になったからね、少しくらいお返ししてあげないと」
バルバラはショコラティアに深々と頭を下げながら言葉を返す。
公国の侍女長はかなり顔がきくらしい、地球から相当遠くの星らしいけど、色々あったんだろうな。
ここからは随分込み入った話が始まった。つまり姫様が言うところの『襲撃の裏』について。内部政府の反乱とか、軍事機密の流出だとか。あらゆる可能性を出しあってみるものの、これといって裏をめぐるパズルがはまることはない。
それでもやることの方針は定まったようで、
「私達はガルロッテ公国奪還を第一の目標……にしたいところだけど、外堀を固める必要がある」
ショコラティアの声が心なしか弱々しく感じられる。
それを見たバルバラは、パンと手を叩くと、
「難しいことを考えるのもいいけど、できないって言うことよりやってみた方が早いんじゃないかしら?」
その明るい声に、その場にいた全員が顔を見合わせる。
「その前に、殿下御一行はお疲れでしょう。食事でもしながら与太話でもいかがかしら?」
バルバラに集まる視線に反論の色はなかった。魔女宅ご飯は現実のものになるらしい。
バルバラがテーブルの上に手をかざすと光の渦が生まれ、それが消えた途端に豪勢なランチが用意されていた。これが魔法なんだろうか。
「それじゃあいただきましょう。カグヤ君にはいっぱい教えてあげないといけない事があるだろうしね」
「肉体的にお願いします」
「こんな老いぼれでもご所望かしら?嬉しいけど他にもっと知りたい事あるんでしょ?『七色の王』について、とかね」
どうやらバルバラお姉様も読心術が使えるようだ。話が早いことに越したことはないか。それにしてもお姉様に弄ばれてる感覚、たまりません。
バルバラは俺の表情を見るなり、ニヤリと笑い、話を始める。
「皇女殿下の事もよく知らないのよね?」
「実のところそうですね」
「それじゃあ簡単に。殿下は『白』の王であり、全ての王を統括するすっごく偉い人、重役なの」
どうやらショコラティアはかなりのお偉いさんらしい、なんとなくわかってたけど予想以上に。
「それで七色の王って言うくらいだから、王様は七人いるの」
「そのままの意味だったんですね」
用意されたブドウテイストなジュースを飲みながらカグヤは相づちを打つ。
「そう。まずはご存知、『白の剣聖』、ショコラティア・ビタニア・リリメイジ・ガルロッテ皇女殿下」
「剣聖……ですか?」
「そう、ガルロッテ流剣術から派生したオリジナルの剣術を使うの。いわば我流剣術ね。それがまるで一つの剣舞や芸術に見えてしまうことに加え、強いったらありゃしない、もはや敵なしね」
「確かにあれは凄かった、寸分の狂いもないような」
「そんな異常な強さから付いた通り名が『剣技の頂』、最高峰の……いいえ、間違いなく史上最強の剣士よ」
どおりでリザードマン軍団に臆することなく立ち向かう事ができたわけか、納得といえば納得。
現にあの剣を見てしまったからこそ、すんなりと受け入れることができる。
「他にはどんな王様がいるんですか?」
「先に言っておくけど、王様と言っても、皆がみんな国を治めているわけじゃなくてね、いわば通称なのよ」
へぇ、とまとも過ぎる説明を受けて思わず素の声が出てしまう。クソ猫みたく屁理屈臭いこと言わないし、さすがバルバラお姉様。
「他には『黒の鬼神』、ギリアス様。以前、ゴディバルト帝国に仕えていた元傭兵……」
「そして、私の許嫁」
さらっと凄いことを口にしたのは隣で食事を楽しむショコラティアだった。
「……そうなのか?」
「そう…」
黙々と食事を続けるショコラティアの顔に目立った感情は見られない。皇族ともなればいろいろあるのだろうか。
それを横目に、うんうんと頷くバルバラは再び話を再開する。
「あとはギリアス様の義理の弟であり『青の勇者』、カイン様。『赤の魔女』、ディアナ様。『緑の賢者』セキエイ様。『黄の咎人』、エルキア様。『紫の詩人』、リシュリュー様。この七人が『七色の王』として崇められ、畏れられているの」
「それが『七色の王』ですか……」
ショコラティアの実力を見た通りだとすれば、その王達も同じように引けを取らない精鋭揃いなのだろう。
「それぞれの王様の事も説明した方がいいんでしょうけど……まぁ、旅していれば恐らくはその全員に会うことになるでしょうね」
「そんなに凄いなら、その王様達に協力をお願いすることはできないんですか?」
俺の言葉を聞いて反応を返したのは、ひたすらに食事にがっついていたニャットだった。
「それができたら苦労はないニャ。でも、仮にそれができたとしたなら、この上なく心強い味方になると思うのも確かニャね」
「それじゃあ片っ端から王様を探していくしかないか。ガルロッテに戻ってからはどうするんだ?」
ショコラティアの方へ質問を投げると、彼女は食事の手を止め、唇に軽く握った手を置いて考えるそぶりを見せる。
「そうだな……まずは現状の確認。国が潰れてしまえば元も子もない、けどそれはないと思う」
「なんで?」
「国が一つ潰れるとなればゴディバルト側のデメリット……経済的、政治的な面で強国であるガルロッテが機能しないと他の国にまで支障をきたすから」
「ふむ、なるほどな」
ガルロッテ公国の偉大さを保ったまま侵略を進めるってわけか。
内容を理解できなくて適当に相づちを打ったわけじゃない。先にも述べたが俺は頭がいいのだ。ほんとだよ?
「それでは、一度ガルロッテに戻りましょう」
お腹も満たされたようで、ショコラティアは調子は万全といった目つきをしている、ように見える。
彼女の言葉を聞くと、すかさずニャットは腰に巻いたバッグの中をごそごそとあさりだし、一枚の紙を取り出す。
「おい猫、それはなんだ?」
「転移のために使う魔導書の切れ端みたいなものニャ。単細胞脳のお前には難しい話ニャね」
「それがあるならここまで何時間も歩く必要なかったんじゃねぇか?」
「これは一枚につき一度の転移しかできないのニャ。トッポ様から貰ったのは二枚、お前がいなければこんな事にはなってないニャ」
反論の余地もないな。つまり往復するには二枚必要ってことか、本当に申し訳ない。
ニャットがそれを床に置き、それを囲むようにその場にいる全員が立つ。
「それじゃあ、行くニャよ」
「シッ!……ニャット、ちょっと待って」
人差し指をたてるショコラティアの目線は先ほど入ってきたドアの方へ向いている。それは魔女達も同じだった。
「どうやらあなた達、お客さんも連れてきちゃったみたいねぇ」
「……リザードマン……五十ほど?」
彼女らの言葉を聞く限り、さっきのリザードマン達がここまで来ているようだ。
「初めの転移の件もある、邪魔されると厄介」
「また、戦うのか?」
正直、強いとはいえ女の子が戦うというのはあまり好ましくないと思う。
しかし俺の意見に耳を貸すわけでもなく、そう、と告げるショコラティアは右手を腰にあてる。
そこから一瞬の光とともにドライアーツが彼女の手に収まるように顕現した。
「けど……おかしい。……ここまでの道には…私の使い魔達が…いたハズ」
「使い魔?」
「妖怪とか悪魔とかの怪物のことよ」
シュウキに代わって説明するバルバラもどこから出したのか木の枝のような杖を構えている。
「何かおかしい、カグヤは隠れてて」
そう言うショコラティアと魔女二人は歩きだし、静かにその門扉を開いた。
外には間違いなく先ほど撃退したリザードマン達がはびこっていた。使い魔と思われるバケモノ達を片手に引きずって。
「シュウキちゃん、あの子達は残念だけど……」
「わかってる……あいつら……生かして返さない」
そんなリザードマン達は中央を開けるように道をつくる。思いに反して、その道の向こう側から歩いてくる人影はリザードマンの大将ではなかった。
金髪に、武士を思わせる袴姿。片手に狐の使い魔の頭を、もう片方には円形の武器のような物を携えている。
「随分と歓迎してくれるじゃねえかぁ、東の魔女とやら。でもコイツら見掛け倒しだなおい」
勝手に話し始めるその男を見てその場の空気は固まる。
「あなたは……!」
「エルキア……」