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五章『双子との出会い』

 ソーマとアイリスは、情報収集と仲間集めのためにヴェスタ村から一番近い国を目指していた。すると、中世的な建物が遠くに見えてきた。どうやら目的地に近付いたようだ。

「あの国が宝石国(ジェム)かあ」

「ジェム、っていう国なんだ?」

 アイリスの呟きを聞き、ソーマが尋ねた。変わった名前だな、と思っていると、アイリスがクスクスと笑い出した。

「違うわよ、あの国の正式な名称は無いの。今まで他の国に占領されてたみたいで、最近になってようやく独立国として認められるようになったらしいわ。そのとき、国の特徴を尋ねられた王様が“Gracious and Enthralling Men.”――優雅で魅惑的な人々、って答えたみたい。その頭文字をとって、宝石国(GEM)って呼ばれるようになったって聞いたことがある。元々沢山の鉱山があることで有名だから、ぴったりな名前よね」

「アイリスってそんなことまで知ってるんだ……凄い」

「ソーマが知らなさすぎるのよ」

 アイリスが呆れたように言った。確かに、ソーマは村の外のことをあまりよく知らない。他の国の歴史なんて尚更である。と、そのとき。


「グウオォォオオォン!!!!」

 唸り声がすぐ後ろで聞こえた。振り返ると、そこには三つの頭を持つ大きな怪物がいた。

「ケルベロス!?」

 アイリスが驚いたように言った。その途端、ソーマの手を掴んで走った。

「ケルベロスってなに!!」

「悪魔騎士が飼っている犬よ!!普段はこんなところに出没しないはずなのに……どうして!?」

 逃げる二人を追いかけるケルベロス。人間の数十倍の大きさがあるそれは、唸り声を上げながらぐんぐんと二人との距離を詰めていく。

 アイリスとソーマは振り返った。もう逃げても無駄だと覚悟したのである。

「こうなったら仕方ない……戦うよ。ソーマ、いい?」

「大丈夫」

 二人が剣を構えた瞬間、今にも襲い掛かろうとしていたケルベロスが動きを止めた。むしろ、子犬のような声を上げながら近付いてくる。六個の目はどれもソーマを捉えていた。

「どういう……こと?」

 アイリスが首を傾げたその瞬間、どこからか放物線を描いて大量の弓矢が飛んできた。それらはケルベロスの目に命中した。途端、ケルベロスはうめき声を出して消えてしまった。


「ふう、危なかった」

「ケルベロスなんて初めて見たよねえ」

 矢が飛んできた方向を見ると、そこには双子なのか、同じ顔を持つ二人の少女たちがいた。彼女らは弓を背中に担ぐと、呑気な声で会話をしていた。ソーマとアイリスは呆然となった。あれだけの矢を、たった二人だけで射っていたのか。

「お二人さん、大丈夫だった?あんなデカブツを目の前にしちゃあ、声も出なくなるよねえ」

「あの怪物を倒そうとしていたでしょ?正義感があるのはいいことだけど、ああいうのは私たち騎士に任せておくべきだよ」

 ソーマたちは黙って二人の話を聞いていたが、“騎士”という言葉に反応した。アイリスが口を開く。

「やっぱり……貴方たちも騎士なの?」

「え、貴方たち“も”?」

「ってことは、もしかして」

「「お二人さんも騎士なんだ?」」

 二人の少女が声を揃えて言った。同じ顔が同時に話すと、どうも鏡の中にいるような錯覚を覚える。

「だったら話は早いやあ。私は“狩人”のサファイア」

「同じく狩人のエメラルド……よろしく」

 気の抜けたような話し方をするのがサファイア、冷静沈着な話し方をするのがエメラルドなようだ。顔立ちは似ていても、性格は正反対らしい。

「僕はソーマ。一応、剣士」

「一応って……まあいいや、私はアイリス。同じく剣士」

 簡単な自己紹介が終わった後、サファイアが口を開いた。

「剣士さんたちが旅をしているなんて意外だねえ。普通、騎士は自分が住んでいる町を守っているんだと思ってた」

 サファイアの言うとおり、一般的に騎士たちは自らが住んでいる町が平和であり続けるように見守っている。わざわざ旅に出ているということは、何らかの目的があるということである。その“目的”が何であるか、サファイアたちは気付いていた。

「貴方たち、ハーデスに挑もうとしているんだ?」

 エメラルドが落ち着いた口調で尋ねる。ソーマが頷いた。それを見たサファイアたちは顔を見合わせ、何やらアイコンタクトをしているようだった。

「ど、どうかした?」

 アイリスが二人に尋ねた。すると、何かを決意したかのように二人が同じタイミングでソーマたちを見つめた。そして。


「「私たちを、仲間にしてくれない?」」

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