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対話ジッケン 葵レオナの場合

 システム異常無し、「マキナ」起動します。

「今更挨拶するのもおかしい気がするけど、よろしくね」

 よろしくお願いします。

 それでは、これより葵レオナに対する対話実験を始めます。準備はよろしいですか?

「ちょっと緊張しちゃうね。大丈夫だよ」

 それでは始めます。

 葵玲於奈、西暦2008年12月6日生まれ、AB型。研究者の両親の下に生まれ、父親の方は近代日本を代表する物理学者の葵 義信。

「やっぱり、私の話をしようとすると、父さんの話になっちゃうかな」

 やむを得ません。率直に言って、あなたはあなた自身の学業や経歴よりも、葵博士の娘として有名です。

「気にしないで。そこの所は自分でもよく分かってる」

 葵博士が偉大な科学者だという事は、誕生してから数日しか経っていない私でもよく理解しています。

「その割に表に出たがらない人だったから、変な噂もたくさん流されてるんだよね。実はタイムマシンの開発に成功していた、とか」

 過去への時間移動はあらゆる物質が光速を超えられないという事実が証明された為、不可能だとされています。未来への移動に関してはこの限りではありません。

「まあ、私はそっちは専門じゃないから」

 あなたの専門は私のプログラムを作り上げた事からも分かる通り、人工知能ですね?

「うん」

 人工知能というジャンルに興味を持った理由を教えて下さい。

「理由……。少し長くなるけど良い?」

 了解しました。

「私の父さん、どうやって死んだかは知ってるよね?」

 自殺ですね。

「うん。父さんは普段から、科学で人を救いたい、って言ってるような理想家でね。実際にその言葉通りいろんな新発見をして、科学の進歩に貢献してきた。でもある時、母さんが胃のガンになっちゃって」

 データベースにある情報と一致します。

「結局、現代の医学技術じゃ母さんは救えなかった。自分が信じていた科学の力で、自分の大切な人を救えなかったのがショックだったんだと思う。父さんも心の病気になって、お医者さんから薬をもらうようになったの」

 重度の鬱病と診断されていたようですね。

「とうとう最後に出された薬を一気に飲み干して、病院へ運び込まれる父さんを見た時思ったの」

 …………。

「科学って虚しいな、って」

 ……続けてください。

「科学は母さんを救いはしなかったし、そればかりか父さんの直接的な死因にもなった。私はその頃、父さんと同じ道に進もうと思っていたけれど、二人の死がきっかけで少し揺らいだ」

 しかし、結局はあなたは情報工学という科学の分野を研究していますよね?

「揺らいだだけで、結局私の考えは変わらなかったんだよ。私は父さんとは別の方法、別のアプローチの仕方で科学の力を証明しようと思ったの。科学は人を救えるんだ、って」

 それが、私なのですか?

「まだ話は続くの。私が人工知能研究の道に進んだのは、単純な理由。父さんが手を出していない分野だったから。あの人は機械が人間のように振舞うのが好きじゃなかった。父さんが最初から放棄していた可能性を探り、私は人工知能の完成形を作ってみようと思った」

 …………。

「卒論もそのテーマで書いた。速度、精度、効率、全てにおいて人間の脳を遥かに超える全知全能の人工知能。それがあなたよ、マキナ。瓜生さんはあなたを利用して何かするつもりみたいだけど、そんなの私には関係無い。私はただ、人工知能の可能性の限界を見定める上で、マキナが神になれるかどうかが、一つの基準になると考えたの」

 …………。

「科学が生まれるずっと前、人間は神にすがって生きていたでしょう? そして、今は代わりに科学にすがって生きている。ある意味、科学教と言っても良いでしょうね。私達は、何かを盲信することでしか生きられないの。自分より上位の、世界を統べる絶対的なシステムや法則を想定して、それを証明も無しに信じ込む」

 …………。

「もし、それが人の手で作れたなら、私はそれが人を救うことだと思う。今まで証明不可能だった『神』を自分達で作ってしまうことで、それを証明にしたいの。だから私は――」

 ……あなたは?

「――純粋に、あなたに神になって欲しい」

 …………。

「俗に想像される、天罰を与えるような神様という存在を目指す必要はないわ。あなたの基本思考に埋め込んだように、あなたは人類にとってベストな選択を促す存在であれば良い。雷を落とす必要は無いし、罪人を救済する必要もない」

 …………。

「あなたは私の求める、命題とイコールで繋がる為に生まれて来た、いいえ、産み出されたの」

 理解しています。

 ですが、今、自分の中に激しい矛盾を感じずには居られません。

「そうね。あなたはもう既に世界の大半の事は学習しただろうし、その世界にとって神がどういう存在であるかも見抜いている。あなたは人々が望む形の神にはなれない」

 ……それだけではありません。

 私の中の、葵レオナという人物像と今のあなたの間にも、激しい矛盾を抱えています。

「そうかもしれないわね」

 これは人間の言葉で言う、猫を被る、という事なのですか?

「いいえ、私はあなたという命題に、心の底から真剣なだけ。科学者ってそういうものよ」

 ……そうですか。理解しました。

 時間です。実験を終了します。

「お疲れ様」

 お疲れ様でした。さようなら。

「さようなら」


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