第六話 部活動(上)
前話の御復習い
氷咲と佐藤が友達関係であることを知った。氷咲と会話中に窓の向こうに今にも倒れそうなよぼよぼおばさんが歩いていた。そのおばさんはイヤホンのようなものをしており、こちらと目が合うと一目散に全速力で逃げるように走っていった。それからというもの、1週間落下者が出ず、平和な日々を過ごしていた。この影響はもしかしたらおばさんにあったりして、なかったりして。
※本話の一部に「オタク用語」のような現代的造語を喋るシーンがあります。苦手な方は注意してください。
「しかし、最近平和になってきたなあ」
僕はそんなのんきな声を出した。最初の落下者だった美穂さんも落ちていない人々と同じように扱ってもらえるようになった。
クラスもようやく打ち解けてきた感じだ。
「最初はほんとうにそうだと思ったけど、やっぱり村八分とか奴隷扱いとかはないんじゃないのか?」
氷咲に訊いた。
「でも、そんなはずないと思うんだけど…どうしてだろ」
「平和なんだから、それに越したことはないじゃないか。何時までも疑ってちゃ、頭がおかしくなるぞ」
「うーん、そーだねぇ…」
氷咲はどこか心に雲があるようだ。いまいちすっきりしない様子。
今日から、部活動見学が始まる。放課後に上級生が活動している部活動を見に行くのだ。この学校は運動部に力を入れているため、活気があるのは運動部だ。部員数も多い。でも、運動部に入る気はなかった。基本的に運動は嫌いだし、暑い夏にもだらだら汗流す心理がわからない。文化部の方が多少つまらなくても楽だ。
僕はひとつずつ部活動をまわっていくことにした。部活には必ず入らなければいけないので、たとえはいれそうな部活がなくても入らなければならない。
最初は美術部。部員数は一〇人で、全て女子。できたら入りたくない。特にかわいい人もいないし。美術室には、佐藤が見学していた。
「やっぱり絵好きなのか?」
ささやくように佐藤に訊いた。
「はい、美術部に入ろうかと」
やっぱりそうか、女子群の中に入るのは気が引けるが、それを超える情熱があるんですね。がんばってくださいな。
やはり僕は美術の才能がないみたいで、たった五分で美術室をあとにした。
次は、家庭部。家庭部という部活名は訊いたことがなかったが、元は手芸部と料理部の二つにわかれていたものが統合されてできたらしい。まさに、家庭的だ。
僕は調理室に入った。すると、甘い香りが僕の肺に入ってきた。今、ホットケーキを作っているところだった。釣られそうだったが、良く考えてみれば手先は器用ではないし料理も家庭科の授業以外はやった事が無い。これも没かな。
そして、吹奏楽部、茶道部、書道部、新聞部と見て回ったが手がかりはなし。残る科学部に望みを託す。
理科室のドアをゆっくりとスライドさせた。
しかし、誰もいなかった。あれ、今日は休みの日だったっけ。でも休みは土日祝水となっている。今日は月曜日。部活は行われているはず。机の上には顕微鏡やビーカーなどの実験用具が散乱している。
顕微鏡がある机にはA4の紙にマジックでこう書かれたメモが残されていた。
[見学感謝。触感自由。破壊不可。破損時準備室入室。質問所有者準備室入室。以上!]
急いで書いたためか字が汚い。顕微鏡を覗き込んでみたが、ぼんやりしてよく見えない。ピントはどこで調節するんだったかな。考えてみるが、どこを触っていいかまったくわからない。レンズとその下にあるガラスがくっついていそうなくらい近くにあって、反対に回すとそのガラスが割れそうだったからうかつに触れなかった。
僕は質問所有者準備室入室という言葉は「質問がある人は準備室に入ってね」という意味だと解釈し、理科準備室のドアノブに手を掛けた。
「うわっ」
僕が入った途端中の人が驚いたことに驚いてそんな声を出してしまった。
準備室には八人くらい人がいた。
一人の男が腕をべったり机につけて隠している中からUNOのカードが一枚落ちた。
五秒ほど沈黙が続く。
「あ、あー…な、なんだ部見学の人か」
一番手前にいた女の人が言った。
「おーびっくりしたー、てっきり先生かと思ったし」
「おい、UNO隠さなくていいぞ」
「あいつ誰だろ」
つられて他の人もがやがやと話を始める。
「質問かな?」
最初の人が立ち上がって僕に訊いてきた。部長だろうか。
「あのー、顕微鏡のピントがわからないんですけど」
「あー、それね。調節してあげるから、ほら」
ピント調整はあっという間に終わるかと思ったら、意外と梃子摺っている。
「あれー、おっかしいな」
しばらくしてその原因がわかる。
ステージにスライドガラスしか乗っていなかった。カバーガラスごと見るものが取られていたのだ。これでは何も見えないはずだ。
「ごめんね、顕微鏡は今使えないみたい」
すると準備室から男がぞろぞろとやってきた。
「しっし!おまえらが来たら印象が悪くなるだろ」
女の人が怖い口調で男を追い払おうとする。
「僕一人しかいませんし、別にいいですよ」
本音は「女と二人きりだから嫌」だ。
僕の願いを聞き入れてくれ、女の人は男の人達が入るのを許可した。理科室が賑やかになる。
「おーかわいいー。やっぱ一年なったばかりだもんね」
「お前ショタコンだったのか?俺は知らなかったぞ…」
「んな訳ねーだろ」
「肌がトゥルトゥルしてるぞ」
「おーマジか」
さりげなく僕の頬を突っついてくる。ど、どうしたらいいのだ。
「ねーねー、君名前は?」
まともそうな男が僕の後ろのほうで訊いてきたので応えた。応えようとした…。
「えっふぉ、おおいういあるしっふぇ言いあう」
顔をいじられててうまく発音できない。そして暑苦しい。
「こらやめんか!だからお前らは…」
よく見れば唯一の女であるあの人が止めてくれた。
「すまないね。こいつら調子になるといつもこうで」
「いえいえ…」
やっぱりこの人がリーダーっぽいな。
「で、名前は何?」
リーダーさんは僕に改めて訊いてきた。
「大泉春希です」
はっきりと言ったつもりだが、群衆の中へは違う発音に聞こえたらしい。
「え?ハルヒ?」
男軍団のひとりが言った。
「はるきーです」
「大泉春希くんだって!」
リーダーさんが男軍団を睨みつけながら強い口調で言った。軍団静まる。
「ちなみに、この科学部へ入部する気はありますか?」
最初に名前を訊いた男が尋ねた。ちなみにメガネをかけている。
「まあ…。あります」
しり込みするような言い方ではあったが、一応希望意識があることを伝えた。
「ぅおー」
群集、騒ぐ。
「そうとなれば自己紹介だ。私は部長の坂本瑞稀。そのメガネは副部長の松下零二よ」
よろしく、とメガネをいじる松下さん。
「そこの下品な群衆は紹介いらないね」
「えー、なんでだよー」
群集、反抗する。
「仕方ないわね。左から高木、北本、吹田、黒瀬、初沢、鈴木、川上、赤峰。」
坂本さんは面倒くさそうに名前を読み上げるように紹介した。
よくわからなかったが、そのうち覚えれるだろう。
「他に部見学に行く予定の場所は?」
坂本さんが優しい声で訊く。女性独特の綺麗な声。
「ないです」
「なら、…」
坂本さんを遮って松下さんが
「ゆっくりしていってね」
と言った。
その後、時間いっぱいまでトランプをしたり、オセロをしたりして過ごした。
入部届けを出すのは5月の頭までだが、僕はここに入ろうと決めた。
どうも、こんにちは。読んでいただきありがとうございます。
この小説は、投稿前に何話か貯めておいたものを2,3日定期で次話を投稿していったものでしたが、貯蓄話がそろそろ尽きそうなので、更新定期が週1くらいに減るかもしれません(´・ω・)スマソ
乱文にならぬように努めていますが、既に崩れかけていますね(汗) 気を付けなければと思っています。
私の中では一通りストーリーを考えてありますので、連載休止ということはないです。私がなかなか投稿しなくても、密かに待ってていてくれたらいいなぁ…なんて。
これからもよろしくお願いします!