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第二話 一通の手紙

前話の御復習い(おさらい)

平凡だった入学式を終えて、机の上に追加された手帳のような緑の本を見るとそれは校則ブックであった。数百の校則がびっしりと書かれている。そして、中上なかがみ 氷咲ひさきという女に声をかけられた。校則を全て覚えているという氷咲は突然僕を守ってやると言い出した。その詳細は学校や人前では言えないから家に来て欲しいという。僕は一応抵抗したが、なんだかんだで行くことになってしまった。


 学校から一〇分ほど歩いただろうか。洋風の新しめな家だ。ここがあたしの家、と氷咲が玄関の戸を開ける。マンションの扉は開け閉めの際に油の切れた鈍い音がするが、この扉は無音で開いた。すこし妬ましい。俺もこんな家に住みたいもんだ。

 中はきちんと掃除されていて、フローリングもしっかりとコーティングされていた。荷物もほったらかしにはしていなく、玄関からは物が何も見えなかった。まるで引越してきたばかりみたいだ。

「中上さんって最近引っ越してきたんです?」

「やだなー、氷咲でいいよ。それに同級生なんだから敬語はやめてちょうだい」

 なんだか無理やり仲良くさせられている気がする。

「あーすまんな。氷咲は最近こっちに来たのか?」

「最近っていっても五年くらい前からここに住んでるよ」

「へえ…」

 氷咲の部屋は二階にあるため、階段を通らなければならないがその途中、左手に居間があった。氷咲はただいまあ!と部屋の中に声をかけた。おいマジかよ。お前の母さんか父ちゃんいるのかよ。そして不覚にも部屋の中にいた三〇後半くらいの女の人と目があってしまった。きっとお母様だろう。

「お、おじゃまします」

 軽く頭を下げてすぐに階段に向かった。その女はきっと五秒くらい固まっていただろう。誰なんだこの人は、初日に彼氏なんてできるわけ無いし、もしや…なんて思われてるかもしれん。お母さん、僕は普通の中学生ですよ。勘違いしないでください。

 氷咲の部屋についた。中に入るとほんのりいい香りがした。女子の部屋なんて入るのは初めてだ。六畳ほどの洋室には薄いピンク色のカーテンに可愛らしいぬいぐるみや水色のデスクマットがしかれた学習机、その他女の子っぽいものがいろいろあった。女子ってこんなもん持ってるんだな…。気づくと僕は学習デスクに飾られている青髪ロングにイコールオメガイコール顔のフィギュアに視線が向いていた。

「春希くんって、もしかしてソッチ方面興味あるの?」

「い、いや、ないない。決してそんなことはないからな」

 むしろ僕の方がアニメ好きなのか?と訊きたかったが、氷咲の機嫌を斜めに曲げそうなのでやめておいた。

「ふふ、隠しきれてないよー」

 薄々い心地がいい部屋だとは思っただけだ。新鮮で、居ても飽きなさそうだ。単純にそう思っただけだ。隠し事など無いぞ。


「それで、話なんだけどさ」

 ようやく本題が始まるのか。さて、学校でも言えず人前でも言えないこととはなんだろうか。まさかずっと前から好きでしたーなんてオチはないよな。

 しかし、そんなかわいらしい話ではなかった。

「さっき外で無数のマイクがあるって話したよね。」

「ああ」

「他にもあの学校にはいろんな仕掛けや機械が設置してあるの。中にはありえないものまであったけど、校則を守らせるためとしてなんでも買うことを市が許してしまったみたい。今ではこの北陸一体を支配できる力を持っていると言われているの。」

 そんなすごい学校だったのかあそこは。日本全国を支配ではなく、北陸のみというのがなんとも本当っぽい。

「元々は普通の真面目学校だったんだけど、だんだんエスカレートしていっていつの間にか生徒を苦しめるほどの学校になっていったの。今日配られた緑の本の校則は一部にすぎないわ。実際は数千の決まりごとが決められていて、三年間の間でその校則を守れたものは一人もいない。みんな、何らかの出来事で破ってしまい、処置を取られたわ」

「生徒を苦しめる?どういうことだ。まさか、注意を受けることが苦しめることだなんて言わないてくれよ」

「そんなわけないでしょー。極秘にされているから報道でも伝えられてないけど、校則を破った時の処置って言うのはその場では直接的にはないの。注意を受けたあとにまるで村八分のような扱いを受けたり、奴隷扱いされたりしてしまうの。教師から生徒への暴言暴行なんてあたりまえだわ」

「その生徒が卒業したらすぐにその情報が広まっちゃうじゃねーか。なんで何も知らされないんだよ」

「さっき言ったでしょ?情報は極秘にされているって。万が一外部に漏れても学校が所有している大量の資金の一部を支払って口止めしているの。…きっと春希くんも抵抗もできずに三年間地獄の思いをするとおもうわ。明日から苦しい思いをする人だって出てくるかもしれないの」

「地獄の思い――」

「うん、だから、あたしが守ってあげるの。あたしが守って、春希くんを助ける」

 お、そうだ。肝心なことを訊かなければ。

「あのさ、守ってくれるのは感謝するけど、なんで氷咲が俺を守ることになってるんだい?俺の親が秘密でお願いでもしたのか?」

「ううん、違う。その、んぅ…」

 氷咲は言葉を濁らせる。

「あたしが決めたの。この人を守るって」

「つまり、僕はたまたま氷咲に選ばれたのか?」

「たまたま!?えっと、それはその…。」

 顔がほんのり赤い。なんでここで照れる必要があるんだ。

「あ、あたしが春希くんなら守れると思ったし、ちょっと見た目も良かったし…偶然なんかじゃない」

 そりゃよかった。生まれて初めて見た目を認められたよ。

「わかった」

こんな冷静に対応してるけど、内心はとても嬉しいぞ。


「ありがとー、じゃあ…スマブラでもしない?あたし強いよ」

 得意げに笑う氷咲。wiiの電源を入れてスマブラことスマッシュブラザーズXを起動させる。

 氷咲はマルスを選んだ。女はピカチュウとか選ぶもんだろうが、ちょっと本気かもしれない。僕は遠距離攻撃ができるファルコを選んだ。直接攻撃しかできないマルスには有利なはずだ。ステージはやっぱ終点だよねー、とカーソルを上に持っていく。終点いいよな、と僕が返す。

 試合が始まった。適当に遠距離からじわじわ行こうと思ったが、マルスは素早くこちらに近づく。最初に打ったブラスターは外れた。接近戦だとマルスの方がリーチが長めだ。

 ダッシュしたあとに小ジャンプしてやってきた。上から攻撃するつもりだ。上方向の攻撃ですぐ出せる技でなおかつ剣に勝てる技は…ない。ファルコはガードを張った。マルスはそれを察知し、もう一度ジャンプをした。空中ジャンプだ。空中ジャンプはジャンプ力が弱いので大して高さを得られない。ファルコは少しだけ右へダッシュしてすぐに上スマッシュ。ジャンプ直後で緊急回避が遅れたマルスは攻撃をもろに受ける。しかし、まだまだ序盤。マルスはすぐに空中で下攻撃をだして反撃した。ファルコは左に緊急回避して避ける。マルスの空中した攻撃は攻撃中に床に着くと一秒弱怯んでしまう。ファルコはそれを見計らって床に着地するかどうかのタイミングでダッシュし、そのまま右へのダッシュ攻撃。またもやヒットした。よし、連続で攻撃をあてたぞ。

 やがて二分のタイム戦が終わった。結局あの後、マルスの連続攻撃にはめられてしまい、ファルコもなかなか抜け出せずになんども倒されてしまった。結果は-1対1で負けた。

「おー、なかなかやるじゃん」

「氷咲って強いんだな」

「そりゃー毎日やって鍛えてるもん」

「え?毎日」

「うーんうーんなんでもない!」

 氷咲は首を大きく振って、もっかいやろ!と言った。そのあともゲームで遊び通した。途中で昼ごはんにおにぎりも頂き、結局四時間色々なゲームをやり続けた。

 視力は落ちてないだろうか。小学校から六年間なんとかAAを守ってきたが最近ギリギリな気がする。確実に視力は1.5から1.1くらいに落ちてる。ゲームなんかやってたら一代の寿命が縮んでしまう。

「こんなにゲームやって疲れないのか?」

「全然疲れないよ?だって楽しいじゃん」

 視力が落ちるなんて日本語は知らなさそうだ。

 その後は一緒に本を読んだりお喋りをしたりして過ごした。そして何時の間にやら陽は傾き始め、時刻はもうすぐ六時というところになった。

「俺、そろそろ帰るかな。暗くなってきてるし」

「あ、うん。今日はありがとねー」

「ああ。じゃあな」

「バイバーイ」

 全く、無理に連れてこられてどうなることやらと心配はしたが、意外と普通の女の子じゃないか。明るくて楽しい人だし。でも、なんで喜瀬尾中学校のについて詳しく知ってるんだろう。校則も本気で全部覚えていそうでし。んー、親が学校関係者とか。とりあえず明日にでも訊いてみるか。


 僕は通学カバンを背負ったまま自分の家に向かった。教科書が入っていてずしりと重い。これをあと2kmも運ばないといけないと思うと足取りも重くなる。その道中、氷咲が言っていたことを思い出す。生徒を苦しめる学校か…しかもそれが金で口封じされてるってかなり危なそうだ。僕はそんな中学校に通って大丈夫なのか?でも、氷咲は守ってくれるって言ってるし。まあ彼女を信頼してもいいかな。


 氷咲の家を出てから自宅につくまで四〇分もかかった。足がしんどい。

「ただいまー」

 返事はない。母はまだ帰ってきてないようだ。郵便受けになにか封筒があったので手にとってみると、送り主には喜瀬尾中学校 豊田瑠衣と書かれていた。なんだこれ。僕宛だからあけてみるか。

[こんにちは、私はあなたの担任の豊田です。今日初めてあったばかりですね。これからもよろしくお願いしますと言いたいところなのですが、そのためにこの手紙を書いたわけではありません。あなたは校則を初日から破ってくれました。下校時にこの学校の女の子と一緒に歩いていてその人の家に入ったでしょう。学校関係者がしっかりと見つけています。喜瀬尾中学校則第一二一条の下校時の約束事にきちんと書かれています。一回目だからといって見逃すわけにはいきません。明日学校に来るときには、それなりの覚悟と心の準備をしてきてください。

 厳しい言葉を並べてしまいましたけど、失敗にめげずにこれからも頑張ってくださいね。私たちはあなたの成長を応援していますよ。]

 急いで緑色の本を開くとちゃんと一二一条に書かれていた。下校時はすみやかに自宅に帰り、他人の家に入ったり店に入ったりしてはならない。ただし学校が特別に認めている場合はこの限りではない――。


「あああぁ、明日学校行きたくねえぇ…」

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