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大魔法を唱えそうで、絶対唱えない魔法使い

掲載日:2026/07/01

 魔王の襲撃を受けているとある王国があった。

 王都の城門が戦場となり、兵士たちは必死に抵抗するが、魔王が手を振り払うだけで一蹴されてしまう。


「フハハハ……ワシが直接やってきたからには全てを諦めるがよい」


 頭に角を生やした怪人――魔王は高笑いする。

 その力に、国王も絶望してしまう。


「我が国もここまでか……! もはやこの世に救世主はおらんのか……!」


 ――と、そこへ一人の青年が現れた。


「私にお任せください」


 金髪でローブを羽織ったその姿は一目で魔法使いと分かる。


「おぬしは……!?」


「ベクセンと申します。この国には旅で立ち寄っていたのですが、ここは私にお任せを」


 もはや他に頼る手段もなく、国王は快諾する。

 ベクセンは、魔王の前に立った。


「なんだ? 今度はこんな若造が相手か。この国にはよほど人材がおらぬのだな」


 魔王のあざけりにもベクセンは動じない。

 両腕を広げ、いかにも魔法を撃とうという体勢になる。


「地よ……広大な大地よ……。大地の奥深くに眠れる赤き奔流よ……。灼熱の濁流よ……。地獄の業火にも勝る激流よ……」


 国王らがざわつく。


「なんだ、あの呪文は!?」


 側近が推測する。


「おそらく、地中に眠るマグマを呼び寄せようというのでしょう。あれを喰らえば、魔王とてひとたまりもないはず……」


 魔王もベクセンからただならぬ気配を察知し、マントで身を守るような構えを取る。


「くっ……! こんな魔法使いがいようとは!」


 まもなく大地からマグマが噴出し、魔王を呑み込む。

 こんな光景を誰もが想像した。

 ところが――


「そのままぐっすりお眠りください」


 ベクセンの詠唱はこれで終わった。

 誰もが「へ……?」と思った。


 国王が側近に尋ねる。


「ねえ、マグマは? マグマはどこ?」


「さ、さあ……。私に聞かれましても……」


 側近もこう答えるしかない。

 魔王もマントで身を守ったまま、バツが悪そうだ。

 とても戦場とは思えない、気まずい雰囲気が辺りを包み込む。

 誰もが思う。


(どうするんだよ、この空気……)


 しかし、ベクセンは再びなにかを唱え始める。


「巨竜よ……。紅き鱗に覆われし、生けとし生ける者の王者よ……。次元をも切り裂く爪と牙を宿し、異界にて我らを見守る、偉大にして雄大なる存在よ……」


 国王が反応を示す。


「むむ……なんだあの詠唱は!?」


「察するに、巨大なドラゴンを召喚する魔法のようです!」


 魔王は再びマントで身を守る。


「ドラゴンだとォ!? むむ……まずい!」


 果たして、どんな竜が飛び出してくるのか――!


「いつもお疲れ様です」


 ベクセンの詠唱はこれで終了した。

 再び唖然とする一同。


「ドラゴンは……?」と国王。


「ただ、労いたかっただけみたいですね……」側近も呆れている。


 魔王は何も言わずに防御体勢を解く。


 だが、ベクセンはまたも詠唱を始める。


「星よ……天より遥か高み、深き暗黒の空間を鳥よりも速く飛行する孤高の天体よ……。大地に縛り付けられた我が声を聴くがいい……」


 国王が目を丸くする。


「今度は期待できそうだぞ!」


 側近もうなずく。


「これは間違いなく隕石を降らす魔法でしょう!」


 魔王は「ぬうっ!」とマントで全身を包む。


 さて、ベクセンの詠唱はどうなるのか。


「よく飛んでますね」


 国王は叫ぶ。


「ただ呼びかけるだけかい!」


 側近も肩を落とす。


「隕石……見たかったなぁ」


 魔王はさすがに不機嫌になっている。


「おのれぇ、さっきから肩透かしばかりだ! 貴様、ふざけているのか!」


 そんな声を聞いているのか聞いていないのか、ベクセンはさらに詠唱を始める。


「神よ……。この世を統べる、神羅万象の創造主よ。今ここに我はあなたに語りかける……。その無礼を許したまえ……」


 国王と側近は盛り上がる。


「まさか、神の力を借りるというのか!?」


「四度目の正直ですね!」


 魔王はやはりマントで身を守る。


「か、神だと!? ぬかったわ!」


 ベクセンは頭を下げる。


「週に一回ほど祈ってます」


 国王、側近、魔王の声が揃った。


「報告じゃん!!!」


 さらに誰かが「大した頻度でもないし」と付け加えた。

 詠唱を終えたベクセンは、やけに清々しい顔をしている。

 そして――


「それじゃ!」


 そのままベクセンはどこかに行ってしまった。

 あまりに自然に去っていくので、国王も、側近も、魔王も、誰も、彼を引き止めるタイミングがなかった。

 国王と側近は開いた口が塞がらず、魔王は怒りに顔を歪める。


「なんだったのだ、あの若造は……。時間を無駄にしたわ!」


 しかし、ニヤリと笑う。


「これで人間どもは打つ手なしというわけだ。愚かな人間ども、まとめて滅してくれるわ!」


 魔王がいよいよ魔力を高め始め、国王らは全員死を覚悟する。


(我が国はここで終わりかッ……!)


 ところが、その瞬間――大地から赤いマグマが噴出し、魔王に炸裂した。


「ぐおおおおおおっ!!?」


 さらにどこからともなく赤い巨竜が飛んできて、魔王に炎のブレスをお見舞いする。

 空から隕石が降ってきて、魔王を直撃する。

 しまいには、雲に乗った神とおぼしき老人が現れ、魔王を強烈な雷で攻撃した。

 究極ともいっていい四連コンボを受け、


「えええ……!? なにが起こったぁぁぁぁぁ……!?」


 魔王は困惑とともに跡形もなく消滅した。


 国王は思わず魔王を倒した者たちに質問を投げかけた。


「あ、あなたたちはいったい……!? なぜ、我々を助けてくれたのです……!?」


 マグマが答える。


「“ぐっすりお眠りください”なんて言われたから、嬉しくてたまには起きようかなって」


 巨竜が答える。


「“いつもお疲れ様です”って声をかけてもらえたので、力を貸そうかなって」


 隕石が答える。


「呼びかけられたから、ちょっと寄ってみようと思って」


 神が答える。


「“週イチで祈ってます”と言われたら、神として手助けしなければなるまいて」


 質問に答えると、彼らは元いた場所に戻っていった。


 全てが終わり、国王はつぶやく。


「助かった……のか?」


「そのようですね……」


「あっ、そういえばあのベクセンとかいう若者は……!」


「兵士に探させましたが、もうこの近くにはいないようです……」


「ううむ……彼はいったい何者だったのだ……」



……



 ――その頃、ベクセンは一人、街道を歩いていた。


「あ~、さっきは楽しかったな。さて、次に寄る国はどんな国だろうなぁ……」






お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
時間差コンボで笑えました!w …ひょっとしてベクセンは、呼び出せたのを気づいてないのでは?ただ相手をからかうことを生き甲斐にしてる自称無能の無自覚大魔道師なのかも? …と思わせるラストでした! …こ…
ノリの良い人外どもめwww いや、でも実際の所「距離や次元を超えて語りかけることができる魔法」ってめっちゃ凄いな……?
狼少年とかいいつつ、ガチで狼を召喚するんかいww
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