第13話 収穫祭前日、大神殿にて(1)
――いっぽう、その頃。
王都では、開催を明日に控えた収穫祭の準備に大忙しであった。
収穫祭とは、作物が豊作である事、そして無事に収穫を行えることを感謝する祭りだ。
王都では、収穫の出来を競い合う品評会や、農作物を使った出店などが多数出店して、かなり盛り上がる大きな祭りである。
その頃、大神殿はというと、大忙しであった。
守護龍メサイアウト様の『我は守護龍メサイアウト。いまのは警告だ、次は容赦しないぞ』といって、火炎を放った事件。詳細は伏せられていたが、王都の住民はその攻撃先が"勇者"の故郷である事は分かっていた。どうして守護龍様はご乱心なのかと、今日も今日とて多くの信者達が、説明を求めて大神殿に押し掛けていた。
その対応だけではなく、大神殿には品評会で出す作物の管理も任されていた。そもそも収穫祭と言うのは、無事に収穫を行えることを感謝する祭り、つまりは神への感謝を表す祭りだ。大神殿としては、品評会とは、神へと捧げる立派な作物を見せる場所であるため、この管理をしているという訳だ。
そして、1人の御者が大神殿の裏手、品評会に出品する農作物の納品にやって来ていた。
カウンターには誰も居らず、中でせっせと5人ばかりの神官達が大急ぎで、農作物が入った箱の仕分けに追われていた。
「すいません、ティロット村の者です。納品に来ました」
「はいはい。そこに出品する農作物の箱を置いてくださいね」
忙しいのか、片手間で返事する神官。それに対して「はーい」と、御者はそう言って、慣れた手つきで農作物が入った箱を置いていく。馬車の荷台の上に積んでいた全部で10個の箱をササっと積んで行き、その一番上の箱の上に『ティロット村・品評会用作物』と書いた紙を貼り付ける。
そこまでしてカウンターに戻ってくると、神官が立っており、御者に「お疲れ」と声をかける。
「すみませんね、バタバタしていて。ご覧の通り、忙しくて忙しくて」
「いやいや、それを言ったらうちの村も忙しいのは変わりませんから。なんでも、また守護龍様が騒いでたみたいで。大丈夫なんですかね、そんな村の作物を守護龍様のいる大神殿に置くなんて」
御者がそう言うと、神官も笑いながら「大丈夫ですよ~」と返す。
「まぁ、大司教様も『守護龍様の怒りの矛先はティロット村なようだが、作物には関係ない。親が犯罪者だからと言って、子まで犯罪者として扱うのは違うだろう? そういう偏見なしで受け取ってくれ』と言われてますし。うちらも同じ考えなんで、大丈夫ですよ」
「大司教様からそのようなお言葉をいただけるとは……誠に、ありがとうございます! それでは、私はこれにて! 大司教様によろしくお伝えくださいませ!」
御者はペコリと頭を下げて、馬を走らせて出て行った。
「――行ったか」
御者が帰ってから、しばらくして大司教様が降りて来た。
大司教様が降りてくるなり、神官たちはビシッと敬礼をする。
「――御苦労。きちんと確認は済ませておいたか?」
「はっ! 例のアレは、きちんとそちらの箱の中に。大司教様の言葉にて、感謝までしていましたよ。これからどうなるかも知らずに」
「そうか。知らない方が幸せ、だものな。それでは、早速運ぶとするか」
「承知しました。全ては大司教様のお言葉のままに」
神官たちはそう言って、箱を運ぼうとして――
「なるほど。やはり、その箱が重要だったか」
ひょいっと、1人の男が顔を出す。
――まぁ、その男とは、俺の事なんだけれども。
「わざわざ、上級魔法である【転移魔法】を使ってでも、頑張って王都に帰って来て良かった。おかげで、一番重要な悪巧みの現場を聞くことが出来た」
「てめぇ、何者だ!」「ここは大神殿の重要な場所だぞ!」「神聖な場所だぞ、弁えよ!」
「すまないが、君は誰なんだい? 答え次第によっては、この私、大司教マグマルマの名において、大罪人として処刑せざるを得ないぞ」
神官たち、そして大司教マグマルマは、俺の事を睨みつける。
「答え次第と言いつつ、魔術の準備をしながら言われても説得力皆無だが?」
「「「「――っ!」」」」
「そうだろう? そこの作物を使って、守護龍様を怒らせようとしている大司教様たちさま?」
俺はそう言って、一番上の箱を蹴り飛ばす。
「これが、守護龍メサイアウト様がいきなり"勇者"様の故郷を滅ぼそうとか、言い出した理由だろう?
――勇者イートバニラの生まれ故郷で作られた、このさつまいもが」




