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愛と正義の言霊使い、アマネ!  作者: 優斗
第一章 アマネ VS ヤクザ
6/17

想いは言葉に宿るんです

「なるほど~」


 ポンと手を叩き、天音は全てを理解したと言わんばかりに、にっこりと微笑んだ。


「ようするに、あの人は銀二さんのお友達さんと言うワケですね?」


 その言葉に、銀二の顔がクワッと鬼の形相になった。


「ああ? てめぇ、さっきの俺達のやりとりを見てなかったのか? どこをどう見たら俺とあいつが友達に見えんだよ!」


 物凄い剣幕で睨む銀二に、天音はひゃあと両手を挙げ飛び上がる。

 拳を前に突き出し、銀二は怒りの表情でギリギリと歯軋りをした。


「俺は前からあの野郎が気に入らなかった。あのスカした態度も、能面みたいな無表情のツラも、何もかもだ! それがこの俺様を差し置いてお嬢様を助ける大役を請け負っただと? ふざけるな! お嬢様は俺が助けるんだ!」


 一気にまくし立てた銀二の怒声が、大広間内に響き渡る。


「……だが、悔しいがあいつは仕事は出来る。今じゃ、俺以上に組長の信頼も厚いからな。それにお嬢様も……」


「なるほど~」


 ポンと手を叩き、天音は再び全てを理解したと言わんばかりに、にっこりと微笑んだ。


「ようするに、銀二さんはお嬢様の事が好きなんですね?」


「な、な、な……何を?」


 突然の天音の言葉に、銀二は顔を真っ赤にして慌てふためく。どうやら、今度の天音の指摘は当たっていたようだ。あからさまなその態度は、天音の言った内容が事実である事を証明しているようなものだった。


「でも、お嬢様は氷室さんの事が好き。もし、今回の事で氷室さんがお嬢様を救出しようものなら、お嬢様の気持ちは完全に氷室さんに傾いてしまう。だから、銀二さんは独自にお嬢様を助け出すため、うちの事務所までやって来た……」


 さっきまであんなに怯えていたのに、まるで人が変わったかのようにペラペラと流暢に喋りだす天音に、銀二は目を白黒させていた。しかも、その内容は彼の心を読んだかのように的確だった。


「お、お前なんで……? まさか、言霊を使って俺の心を読んだのか?」


 天音は首を横に振った。


「いえ。私は銀二さんの言葉に込められた想いを読み取っただけです」


「想いを……読み取った?」


「はい。私は別に特別な事はしてませんよ。これは、注意深く相手の話を聞けば銀二さんだって出来る事なんです」


「俺にでも出来る?」


 銀二はハッと鼻で笑った。


「馬鹿言うな。俺様にそんな力はねぇよ」


「では、試してみましょうか?」


 天音は納得行かない銀二を真顔で見つめると、ニッコリと微笑みながら言った。


「ハゲ」


「な、なにィ?」


 いきなりのハゲ発言に、銀二は顔を真っ赤にして怒り出した。その様は、まるで茹で上がったタコのようである。


「どうです、私の想いは伝わりましたか?」


「伝わるも何も、単なる悪口じゃねーか!」


「だけど、私が本気で言っていない事は、銀二さんも分かったはずです。じゃなくちゃ、いきなり悪口を言った私の話を冷静に聞ける訳が無いですから」


 言われて銀二はハッとした。

 確かに普段の俺なら、こんな小娘にハゲ呼ばわりされたら速攻でブチ切れてぶっ飛ばしているに違いない。なのに、コイツの言葉に耳を傾けているって事は、無意識の内に俺はコイツが本気で言っていない事に気付いていたって事か……。

 銀二は、天音が言わんとしている事に気がつき、感心した様子で彼女を見つめた。

 天音はニッコリと微笑む。


「言葉には、人の感情が必ず込められます。確かに、私達言霊士は人より言葉の真意を読み取る力に優れますが、これは本来誰もが持っている能力なんです」


 そこまで説明した所で、天音はニンマリといやらしい笑みを見せた。


「で?」


「あ?」


 天音の意味深な言葉に、銀二は首をかしげた。


「銀二さんは、そのお嬢様の事が好きなんですよね? さっきの銀二さんの言葉の中に、お嬢様に対する想いがたくさん込められているのを感じましたから」


 途端に銀二の顔が、ボンッと音を立てて赤くなる。実に分かりやすい男であった。


「ば、馬鹿言え! 確かにお嬢様は清楚可憐でお美しく、かつ俺達みたいな構成員にもきさくに声をかけて下さる天使のような方だが、俺とは年齢も身分も違いすぎる! そうさ、俺みたいなクズが好きになっちゃ行けない人なんだよ……」


 自分で言っていて落ち込んだのか、銀二はこの世の終わりみたいな顔をしている。

 そんな銀二を見て、可哀想に思った天音は必死にフォローをし始めた。


「だ、大丈夫ですよ! 愛に、年齢も身分も関係ないです! 大事なのは、相手を想う心、気持ちです!」


「だ、だけどよ……」


 煮え切らない銀二に、天音は側に寄ると小声で耳打ちする。


「それに今回の件で、もしお嬢様を銀二さんが格好良く救出したりしたら、きっとお嬢様も銀二さんの事を好きになると思いますです」


「ほ、本当か?」


 天音は微笑みながらコクリと頷く。


「これは絶体絶命理論と言いまして、極限状態にある男女は、その困難をクリアした時に恋に落ちやすいんです。私が愛読する恋のバイブル『どす恋どんと恋』の著者、色即是空先生が言っていましたから間違いありません!」


「マ、マジかよ!」


 藁にもすがりたい勢いの銀二は、救いを求めるかのように天音にすがりつく。


「はい! やっぱり女の子はいつでも白馬の王子様を待っているものなんです。それが、ハゲでタコな王子様でも目の錯覚で格好良く見えちゃうかもしれませんから! だから、諦めないで頑張って下さいです!」


「そうか! ハゲでタコな王子様でも目の錯覚で……っておい! 誰がハゲでタコな王子様だコラァ!」


「ああっ! し、しまったです! 私ってば、つい余計な事を言ってしまったです!」


 我に返った銀二は、顔を真っ赤にしながら天音の胸倉を掴み上げる。


「この野郎! 今回はしっかり俺様のハートにお前の声が届いたぜ! ようするに、今のは言葉は本心からの言葉って事だよな?」


「ま、待って下さいです! わ、私はただ銀二さんを励まそうと……」


「誰が『ハゲ増す』だ、コラァ! ヤクザを舐めんな、オラァ!」


「ひえええええっ!」


 銀二に放り投げられた天音は、頭から障子を突き破り庭にある池にダイブ。

 真冬の空の下、彼女は池の鯉と共に寒中水泳を楽しむ事となった。

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