おばあちゃんのありがたい天の声なんです
何故、こんな事になってしまったんだろうか。
黒塗りの高級ベンツの後部座席に座りながら、天音は頭を抱えていた。チラリと両脇を見ると、強面の男が二人、天音を挟むようにして座っている。まるで針の筵に座らされた気分だ。生きた心地がしない。
銀二達に連れられ、天音は関東指定暴力団『矢口組』の屋敷へと向かっていた。
一体、自分はどうなってしまうのだろうか?
人身売買、山中埋葬、東京湾コンクリート詰……。天音の中で、最悪のシチュエーションがアレコレと想像される。
そ、そうだ! こんな時は、おばあちゃんに相談だ!
天音はポンと手を叩くと、懐から携帯と猫のシールが張られた手帳を取り出した。
訝しげな表情で、右隣に座っていた銀二が天音を見つめる。
「てめぇ、なにゴソゴソやってんだ?」
「あ、え、えっと、今から天国に居るおばあちゃんに相談しようと思いまして……」
にへらと天音は笑う。
「天国のおばあちゃんだぁ?」
「ま、まぁ、見てて下さいです」
そう言うと、天音は手帳を開き詠唱を始めた。
「し、しんらばんしょ、ことはこと、たまは……えっとたま。私は、げんだいしゅしんの名において言霊を発令します。『天声』!」
すると、突然手帳から淡い光が発せられ、その光に天音の体が包まれた。光は瞬時に収束し、天音の持つ携帯に吸い込まれる。
「な、なんだ、今の光は?」
「言霊を発令したんです。発令した言霊は『天声』。意味はそのままで、天からの声です。これで、私の携帯に天国のおばあちゃんから格言メールが届く……あ、来ましたです!」
車内に着信音が鳴り響き、天音の携帯には一通のメールが届いていた。差出人名は『おばあちゃん』だった。
「このメールの差出人が、天国に居るお前のおばあちゃんだって言うのか?」
「はい! 天国に居るおばあちゃんは、いつも私の事を見守ってくれているんです。だから、困った事があれば言霊を使って相談しているんです!」
天音はニコニコと笑いながら元気よく答える。
銀二は信じられないと言った表情で、天音を見つめた。
「……メールには何て書いてあるんだ?」
「えっと……」
天音はメールを開いた。メールには一言、『出たとこ勝負』と書いてあった。
「おばあちゃん……それって、行き当たりばったりってことじゃ……」
「なんともありがてぇ言葉だな、オイ」
どうやらそれは銀二のツボだったようだ。大笑いしながら、銀二は天音の背中をバンバンと叩く。天音はゲホゲホとむせた。