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愛と正義の言霊使い、アマネ!  作者: 優斗
第一章 アマネ VS ヤクザ
15/17

この蹴りの感覚、見覚えがありますです

 清水北波止場。

 一昨年までは、多くの沖仲士たちが船荷の運搬の仕事に従事しており、ここは活気のある場所だった。だが、昨今の不景気の影響を受け、今ではすっかり人気の無い寂れた場所へと変わってしまっている。こんな所に居るのは、腹を空かせたネズミどもぐらいだ。

 そんな無人のコンテナが立ち並ぶ倉庫に、車のヘッドライトが浴びせられた。ヘッドライトは一つや二つでは無かった。次々と後続車が現れ光が二重にも三重にもなり、倉庫は昼間のような明るさとなった。

 車からは次々と黒服姿の男たちが降り、「第三倉庫」と書かれた錆びた看板が掲げられているコンテナの前に立ち並ぶ。その中には、矢口組組長の大吾郎と、幹部である氷室の姿もあった。


「約束通り、金を持ってきたぞ!」


 辺りに氷室の声が響き渡る。

 暫くの間ののち、コンテナの陰からのそりと黒い覆面と黒いスーツを身に纏った黒尽くめの男が姿を現した。


「金は何処だ?」


 男は無感情な声でポツリと呟く。


「金はここにある」


 構成員達が、重そうなトランクを車から運び出し氷室の前にドカドカと置いた。


「お嬢様は何処だ?」


「中身を見せろ」


「その前に、お嬢様の姿を見せてもらおう。安全を確認させてもらう。話はそれからだ」


 男の要求に対し、氷室は落ち着いた様子で返す。

 男はコクリと頷くと、倉庫の影から一人の少女を引っ張り出し目の前に立たせた。


「聖衣羅!」


「お父様!」


 大吾郎と聖衣羅の悲痛な声が倉庫内に響き渡る。

 ヘッドライトは、まるでステージに立ったダンサーを照らすスポットライトのように聖衣羅を浮かび上がらせていた。フランス人形のような真っ白なドレスに身を包む聖衣羅。だが、その可愛らしい顔は恐怖で引きつっており、透き通るような白い肌は真っ青だった。

 男は聖衣羅を自分の前に引き寄せると、懐から取り出したナイフの刃先を彼女の喉下に当てた。


「中身を確認する。下がれ」


 氷室は了承を求める意味の視線を大吾郎に向ける。大吾郎はコクリと頷いた。

 氷室達、その他の構成員がその場から後ずさる。

 聖衣羅を引き寄せながら、男はトランクの前に立つと、中身を確認し満足そうに頷いた。


「確かに本物だ。約束通り三億円は受け取った」


「満足したか? ならばお嬢様を離してもらおうか」


「この状況で俺がこいつを手放すと思うのか? 身の安全を確保してからだ」


 その言葉に、構成員達がざわめく。


「なんだと? こいつ、この後に及んで……」


 そんな憤る構成員達を氷室が片手をあげ制した。


「迂闊に動くな。お嬢様の身の安全が第一優先だ」


 覆面の男の背後から部下と思わしき二人の男が現れ、トランクを運び出す。男は辺りを警戒しながら少しずつ後ずさって行く。何も出来ない氷室達は、その様子をジッと見守っているしかない。構成員達は皆、悔しそうな表情を浮かべていた。


「聖衣羅!」


 いた堪れなくなった大吾郎が、聖衣羅に向かって叫んだ。

 怯えた表情を浮かべながらも、聖衣羅は気丈に微笑む。


「お父様、聖衣羅は大丈夫ですから心配しないで……」


 その時だった。


「お嬢様を離しやがれ!」


 突然、覆面の男の頭上から声が聞こえてきた。何事かと見上げると、坊主頭の男が自分に向かって落下して来ているのが見えた。銀二である。遅れてやってきた銀二は、第三倉庫のコンテナによじ登り、上から事の様子を窺っていたのだ。

 頭上から覆いかぶさってきた銀二に、覆面の男は体制を崩し思わず聖衣羅を手放した。


「こっちです、聖衣羅さん!」


 倉庫の影から聖衣羅を呼ぶ声がした。振り向くと、そこに手を差し伸べる一人の少女が居た。天音だ。だが、聖衣羅は突然の事に動揺しているのか、オロオロとするばかりでその場を動こうとしない。天音は聖衣羅の元に駆け寄ると、彼女の手を取った。


「邪魔するな、天音えええっ!」


「えっ?」


 聞き覚えのある声に、思わず天音が振り向く。目の前には、靴の裏が見えた。


「ぶべらっ!」


 覆面の男に思いっきり顔面を蹴られた天音は勢い良く吹っ飛び、倉庫の壁に顔を打ち付け鼻血を噴出しながら倒れた。


「お嬢さん、こっちです!」


「え?」


 その隙を突いて、銀二はうろたえる聖衣羅の手を掴むとその場から一目散に駆け出した。


「ま、待て!」


 その後を覆面の男が、そして少し遅れて氷室達が追いかけていく。後に残されたのは、天音だけだった。


 暫くののち、目を覚ました天音がむくりと起き上がった。


「さ、さっきの声は……」


 痛む鼻を涙目で押さえながら、天音は胸の中に渦巻く嫌な予感を感じていた。

 天音の心中に、一人の男の姿が浮かび上がる。だが、すぐに天音は自分の予想を掻き消そうと、ブンブンと首を振った。


「いや、いくらあの人だって、誘拐犯になるだなんていくらなんでもそこまで落ちた人間じゃ……でもやっぱりありえるかも……」


 天音は即座に携帯を取り出し、天国のおばあちゃんにメールを打つ。そして、すぐに返ってきた返信メールには、『虎穴に入らずんば、虎子を得ず』と書いてあった。

 行くしかない。

 天音は意を決すると駆け出し、その場を後にした。

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