銀二さんを救出するです
「よう銀二。お前の処分が決まったってよ」
下卑た笑いを浮かべながら、地下倉庫の中に男達が入ってきた。
ロープで縛られ、身動きの取れない銀二は首だけを向けギロリと睨み付ける。
「……俺をどうする気だ?」
その気迫に、男たちは一瞬ビクリとするが、すぐに互いに顔を見合わせると、へへっと笑った。
「へっ。そんなに凄んでも無駄だぜ。お前は今夜、コンクリート詰にされて東京湾に沈む事になるんだからな。馬鹿な奴だよ、この件に首なんか突っ込むからこんな目に会うんだ。大人しくしてれば良かったものを」
その時、銀二は男の言葉に違和感を感じた。
――この件に首を突っ込むから?
銀二が今拘束されているのは、彼がお嬢様を誘拐した犯人の一味だと思われているからだ。なのに、男が言った台詞は、『余計な事に手を出した為に巻き込まれた』ような言い方をしている。まるで、銀二が犯人じゃない事を分かっているかのように。
「……お前、本当の犯人を知っているな?」
「なっ……!」
突然の銀二の言葉に、男達は驚きの表情を浮かべた。実に分かりやすい三下どもである。男たちの反応から、銀二は疑惑が核心へと変わった。
「てめぇら! お嬢様を何処にやった! 素直に言わねぇと……」
「言わねぇと、どうするつもりだって? ああ?」
逆切れした男は、懐からナイフを取り出した。
「おい、ちょっと待てよ。氷室さんは、こいつを生かして連れて来いって……」
「そんな事知るかよ! 何処で聞いたのか知らんが、こいつ、俺達の計画を知ってやがるんだ。もし生かしておいて他の奴らにこの事が漏れたりしたら、今度は俺たちが破滅するんだぞ? それに、どうせこいつはすぐに殺されるんだ。だったら今殺しても後から殺しても一緒だろうがよ!」
仲間が止めるのも聞かず、男はナイフを片手に銀二に襲い掛かる。
銀二は必死に身をよじらせるが、ロープで縛られている為に身動きが取れない。
だがその時、銀二に襲い掛かろうとした男が突然足を滑らせひっくり返った。思いっきり地面に頭を打った男はそのまま気絶した。
「お、おい! 大丈夫か、よおおおおおっと?」
慌てて駆け寄ろうとした他の男たちも次々と足を滑らせ倒れる。
しこたま頭を打った男は、朦朧とした意識の中、足元にある何かを掴んだ。
「な、なんでこんな所に、バナナの皮が……」
バナナの皮を握り締めながら、男は気絶した。
一人残された銀二は状況が掴めず、目を白黒させている。
「天の言霊の一つ『天罰』。悪い事をした人には、必ず天罰が下るんです」
「お、おめぇは!」
突然現れた目の前の人物を銀二は怒りの表情で見据えた。そこに現れたのは天音だった。
「大丈夫でしたか、銀二さん」
天音は倒れている銀二に駆け寄ると、懐から取り出した小さなカッターナイフでロープを切り始めた。
「大丈夫でしたか? じゃねぇよ! てめぇのせいで俺様がどんな目にあったと思ってやがる!」
ボコボコにされた顔面を突き出しながら、銀二は叫んだ。
だが天音は悪びれた様子も無く、ぺロッと可愛く舌を出した。
「ごめんなさい。でも、ああでもしないと本当の犯人が尻尾を出さないんじゃないかなって思って。申し訳無いと思いつつ、銀二さんには囮になってもらいました」
「このクソアマ……」
「でも、銀二さんも今回の事件の本当の黒幕が誰なのか大体察しがついたんでしょ?」
ロープが切れ、拘束が解けた銀二は立ち上がると天音を見下ろした。天音はニコニコと微笑みながら銀二を見つめている。
チッ、ムカつく女だぜ。
「……まぁな」
「だったら後は、銀二さんが王子様になってお嬢様を救うだけです。さ、行きましょう!」
「言われなくても分かっている!」
そう言うと銀二は駆け出した。その後を天音が追いかける。
「今日の夜十一時に取引が行われるそうです。場所は……」
「清水北波止場第三倉庫だろ。さっきあいつらが話しているのが聞こえたからな」
銀二はチラリと腕時計を見た。時刻は既に十時半を回っている。ここから波止場までは、どんなに急いでも二十分はかかる距離だ。
「時間がねぇ! 急ぐぞ!」
「はい!」
階段を駆け上りながら、天音は銀二の背中を見た。
……それにしても銀二さん、よくあの短い会話からあの人達が犯人の一味である事が分かったわね。もしかしたら、銀二さんにも言霊士の才能があるのかも……。