表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛と正義の言霊使い、アマネ!  作者: 優斗
第一章 アマネ VS ヤクザ
1/17

お借りしたお金は返すべきだと思うんです

 西暦二千二十年十二月某日、初冬。

 街外れのとある雑居ビル内では、ドアを叩くけたたましい音が鳴り響いていた。


「おいこら音無! 中に居るのは分かってんだぞ! 居留守使ってねぇで出てきやがれ!返済の期限はとっくに過ぎてんだろ!」


 錆び付いた鉄製の扉の前で、数人の強面の男達が口々に叫んでいる。乱暴に扉を殴る蹴るする振動で、扉に飾ってあった「音無言霊探偵事務所おとなしつきやたんていじむしょ」の看板が地面に落ちた。

 だが、この事務所の所長である音無月夜おとなしつきやは気にした様子も無く、ガムテープで補強してあるボロボロの椅子に座りながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。その横には、この事務所の唯一の所員である大神天音おおがみあまねが、気が気で無い様子で月夜と扉を交互に見つめている。


「しょ、所長! どどど、どうしましょう! また怖い人達がやってきましたです~!」


「ほっとけ。無視していれば、そのうち諦めて帰んだろ」


 くりくりとした大きなその目に涙を溜め、オロオロとうろたえる天音。だが、肝心の月夜は、まるで興味が無いと言わんばかりに手を振っている。


「で、でも、このままじゃ近所迷惑ですよう。中に入ってもらった方がいいんじゃ……」


 そう言って扉に向かおうとした天音の背中に、月夜の容赦無い蹴りが炸裂した。

 小柄な天音は勢い良く吹っ飛び、近くにあった本棚に頭から激突。さらに倒れてきた棚の下敷きとなり、飛び出した本の生き埋めとなった。


「このクソが。余計な真似をするんじゃねぇ」


 足を突き出した格好で、月夜がドスの効いた声で呟く。


「何だ今の音は! 月夜! お前、やっぱり中に居るんだろ!」


 外から聞こえてきた男達の声に、月夜は憎憎しげに舌打ちをした。


「てめぇのせいで居留守がバレちまったじゃねぇか。どうしてくれんだ? ああん?」


「す、すいましぇ~ん」


 積み重なる本の山から、天音の泣きそうな声が聞こえてくる。


「いい加減出てきて、さっさと借りた金を返しやがれ! 人様に借りた金を返さないなど言語道断! こんな人道に反した行為をしていいと思っているのか? 田舎のおっかさんが泣いているぞ! この鬼! 悪魔! 外道!」


 外からの罵声は益々エスカレートして行く。

 いつまでも止まない声に、月夜はうんざりと言った顔で溜息を吐くと、帽子のツバを片指で上げた。

 扉を睨みつける鋭い眼光が露になる。だらしない無精髭に寝癖がひどいボサボサ頭。見た目より老けて見えるが、これでも彼は二十歳だ。


「俺様の安眠を妨害しやがって」


 気だるい動作で、月夜はシワなのか柄なのか判別のつかなくなったヨレヨレスーツから手帳を取り出し中身を開く。開かれたページには、ギッシリと漢字が敷き詰められていた。


「森羅万象、言は事、霊は魂。我、言代主神の名において言霊を発令する。静寂よ来たれ。『無音』」


 そう月夜が呟くと、手帳が淡い光に包まれ、その光が彼の周りを覆った。そして、次の瞬間、男たちの叫ぶ声も扉を叩く音も消えた。

 真昼間の都会に突如訪れた沈黙。

 月夜は満足そうに頷くと、木製のテーブルに突っ伏した。ポカポカと陽気な太陽の光が背中に当たり心地よい。今なら良い夢が見れそうだ。

 だが、月夜の意識が朦朧としてきたその時、突然音も無く扉が蹴破られた。そして、外から数人の男達が事務所内にズカズカと乱入して来た。

 驚いた天音は「ひゃあ」と両手を上げると、月夜が突っ伏している机の下に逃げ込む。

 男達は、月夜の前までやって来ると、鬼の形相をしながら口々に何かを叫んだ。だが、その声は音にならない。パクパクとまるで池の鯉のように口パクを繰り返すだけだった。

 月夜が着ている薄っぺらなスーツと違い、高そうな白スーツに身を包んだ坊主頭の男は、全く起きようとしない月夜の背中を乱暴に揺さ振った。そこでやっと目を覚ました月夜は、目の前に人が居た事に今更ながら気がついた。

 目を擦りながら、ふわぁっと大きなあくびをした月夜はパチンと指を鳴らす。すると、静寂だった世界に音が戻ってきた。


「……だろ!」


 ハァハァと肩で息を切らしながら、坊主頭の男は鼻息を荒くして月夜を睨んでいる。だが、全く話を聞いて無かった月夜は首をかしげるばかりだ。


「てめぇ! 今の話を聞いていなかったのか!」


「全く」


 真顔で答える月夜に、男は愕然とした表情を浮かべると、ガックリと肩を落とした。


「……だからな。返す金が無いなら、うちの組の仕事を手伝わねぇかって言ったんだよ。実は俺たちの組で今トラブルが起きていてだな……」


「断る」


 きっぱりと月夜は言った。

 男は「はぁ?」と言った表情を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ